今年度のYEGフラッシュは、商工会議所(親会)とYEGの良好な関係をご紹介します。タイトルの「藍と青」は、渋沢栄一翁の生家の家業が藍農家であったことから、藍を親、青をYEGとし、一般的にいわれる師弟のことではなく、「君子曰く、学は以て已(や)むべからず(学問は中断してはいけない。努力すればするほど精錬されて優れたものになる)」という本来の意味に立って取材します。
古くは伊予国府があったとされ、江戸時代には城下町として栄えた今治市。造船やタオルなどの産業で発展し、しまなみ海道からの四国の玄関口であるこの地に、自転車文化を根付かせようと奮闘する今治YEGと、その情熱を後押しする今治商工会議所が共に思い描く「みらい」を探った。
今治をサイクリストの聖地に 背中を押してくれた会頭の言葉
今治をサイクリストの聖地にしたい。自転車を趣味として楽しむファンライドと自転車競技を文化として根付かせたい。そんな思いを持った、今治商工会議所青年部(以下、YEG)メンバーの情熱が、2022年10月29日、第1回今治クリテリウム大会として結実した。その背景にはYEGメンバーの情熱を後押しする今治商工会議所(以下、親会)の存在があった。
今治市は、日本最大の海事産業の都市だ。また、120年前から続く綿織物産業が発展してタオル生産のブランディングに成功した、造船とタオルのまちとして知られる。だが、過去には造船不況や安価な海外製品の輸入増で苦境に陥った苦い経験を持つ。さらなる地域振興のために何をすべきか考えたYEGは、サイクリングでのイベント開催に思い至った。自転車文化を根付かせるための起爆剤として、短いコースを周回して順位を競う自転車レース「クリテリウム」を今治市で開催しよう。そう考えたYEGは、18年以降、政策提言やYEGメンバーの勉強会を実施し、19年度にはYEGを中心に実行委員会を立ち上げ、大会誘致を進めることとした。
今治クリテリウム実行委員会の委員長であり、現在は親会の議員を務める楠橋功氏は「われわれはやる気と情熱はあったが、お金がなかった。予算を積み上げていくと恐ろしい金額になっていき、悩みました」と当時のことを振り返る。いざ大会の開催に向けて準備を進めていく中で、予算不足という壁にぶつかったのだ。YEGの悩みを受けた当時の親会会頭・阿部健氏は、「今治商工会議所の120周年記念事業の一環としてやることにする。資金面のことは心配するな。わしが何とかするから」と力強くYEGの背中を押した。1000万円を超えるお金を動かすという親会の決断を推進力とし、YEGを中心とした実行委員会は、四国で初めてのプロツアーとして、自転車競技の大会を成功裏に終えることができた。「阿部氏は22年9月に逝去されました。大会を見届けてもらいたかったが、YEGの活躍を喜んでくださったと思います」と楠橋氏は語った。
垣根をつくらず活躍する 相互協力体制で会員増強へ
親会がYEGに対する協力を惜しまない背景には、親会とYEGとの日頃からの密接な協同関係がある。親会の正副会頭5人のうち4人がYEGのOBであり、YEGの総会では正副会頭はもちろん、親会の議員となったYEGのOBが数多く来賓として参加するなど風通しは良い。
親会とYEGの具体的な協力の例として、会員増強に関するものが挙げられる。親会の会員企業は現在3000社を超え、地域内の企業に占める組織率は59・6%に上る。会員拡大を推進する上で鍵となる存在として、YEGにも協力を求めた。YEG加入のためには親会への入会が必要であり、YEG会員が増えると連動して親会の会員数も増強されるためである。十数年前にはYEGは会員数を100人以上増強させて親会の会員数を大きく伸ばすことにも貢献し、創立120周年となる22年にもYEGのOBを会員拡大の委員長に据えて、YEGと協力して会員増強に努めた。
もちろん、親会としてもYEGの会員拡大への協力を惜しまない。YEGの例会では親会から同所の事業や経営支援、補助金に関する情報共有を行うことを定例化し、親会やYEGへの加入が自企業の発展に役立つことをYEG会員に実感してもらう取り組みを行っている。 親会の専務理事である松本義秀氏は「私は専務としてYEGとの垣根をつくらないことを心掛けて、YEGの事業にもできる限り参加している。親会の重要事項の一つに会員増強があるが、YEGを大いに活用して成功している。全国の商工会議所も、会員増強をやろうと思ったらYEGと一緒になってやればいい」と笑顔で語る。
ほかにも、親会が実行委員会の中心となって実施している今治市民のまつり「おんまく」の実働部隊としても活躍していることから、YEGに対する信頼は深く、厚い。
苦渋の決断をバネに 共に織りなすみらいを拓(ひら)く
24年7月に実施を計画していた第2回今治クリテリウムは、諸般の調整がつかずやむなく中止となり、同年5月に実行委員会を解散することとなった。しかし、第1回大会の成功はYEGにとっても親会にとっても大きな自信となった。 YEGが今治クリテリウムの開催に向けた特命委員会として年度を超えて設置した「みらい創造委員会」は、今年度はYEG創立40周年の節目を彩るための活動にシフトした。それでも、YEGは今後も今治をサイクリングの聖地とするための活動に尽力すると語る。楠橋氏も「22年の事業で、今治市民、それから今治YEGの中で自転車競技というのが根付いた。将来、大会が復活してくれればうれしいが、そうでなくても県が推進する自転車文化を今治に根付かせることはできると思う」と語る。
これからのYEGに対し、松本氏は「弊所の歴代会頭のように、YEGの役職を歴任して活躍をしたら親会でも活躍してほしい。縦の糸は歴代、横の糸は仲間づくり。縦の糸と横の糸を織りなすことで、YEGだけでなく、親会にとってもいい方向に進んでいけるから」と、エールを送った。
現在、親会の副会頭として活躍している山本敏明氏は、YEGが今治タオル工業組合と共同で主催する「タオルデザイン・アイデア展(現・小中学生タオルデザイン展)」がYEG大賞を受賞した09年にYEG会長を務めていた。現・西原孝太郎会長は「YEGが未来の親会の人材を育成する場として率先して事業に取り組み、親会の叱咤(しった)激励を糧にしてYEGらしく全力で励んでいきたい」と誓った。
創立40周年の節目の年、造船とタオルと自転車のまちのYEGメンバーは、その活動がいずれ親会や地域の経済人として、一人前に活動をするための訓練の場であってほしいという親会の思いを受け止めて、今日も感謝を紡ぎ、みらいを拓いていく。
【今治商工会議所】
会 頭 : 檜垣 幸人
会員数 : 3125人
設 立 : 1902年
住 所: 愛媛県今治市旭町2-3-20
HP:https://www.imabaricci.or.jp/
【 今治YEG 】
会 長: 西原 孝太郎
会員数: 243
創 立: 1984年
スローガン: 「温故知新~感謝を紡ぎ 未来を拓く~」
HP:http://imabari-yeg.jp/
編集後記
恒次 明宏(岡山YEG) サイクリングによる地域活性化の話は、われわれの今後の活動にとても参考となりました。2022年の秋、会長や専務経験者、出向経験者などYEG愛の強いメンバーと1泊2日で、しまなみ海道をロードバイクで走ったことを思い出しました。片道約70㎞、獲得標高800mを2カ月で走破するというチャレンジでした。今はまったく走れてないので体力が追い付かなくて難しいですが、いつかまた皆さんと走りたいと思います。
取材:日本商工会議所青年部(日本YEG)広報☆ブランディング委員会 石垣チーム/写真提供:今治商工会議所青年部
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