コロナ禍を経て、インバウンドが急増している。円安の影響もあるが、インバウンドにとって日本らしい味や伝統の技は何よりの魅力だ。世界へ売り出す努力を怠ることなく、さらに“日本らしさ”を加えて海外への販路を広げている企業から海外展開のヒントが見えてきた。
越境サブスクを通じて世界中に日本の文化を発信
近年、国や地域をまたいでユーザーに商品を届ける「越境サブスク」が注目を集めている。その事業モデルで現在急成長を遂げているのがICHIGOだ。日本の代表的な菓子を海外に定期便で送るサービスを2015年にスタート。現在、世界180カ国に展開することで、日本企業の海外進出の機会提供にも寄与している。
菓子はインバウンドが必ず買って帰る日本土産
サブスク(サブスクリプション)というと動画や音楽配信などが有名だが、今や衣類や飲食、家具、家電、車、住居など多様なビジネスで採用されている。それを海外に特化して展開するのが越境サブスクだ。自国にはない商品を手軽に購入できるとあり、人気を博している。ICHIGOはその事業モデルにいち早く着目し、2015年に設立したスタートアップだ。 「その頃、米国でD2C(メーカー直販)サブスクのビジネスモデルが登場して、靴下や剃刀などの定期購入がはやっていました。『面白そうだからやってみようか』となったのが始まりです」と同社COOの野村アレックス哲也さんは発端を説明する。
海外に特化したきっかけは、当時、日本で大きな話題となった中国人の爆買いだ。観光より買い物に来るという行動を見て、改めて日本製品の良さを実感した。調査資料を見ると、インバウンドが必ず買って帰る日本土産に菓子があり、それらをサブスクで届けては?と思いつく。そうして誕生したのが「TOKYO TREAT」だ。カラフルな箱いっぱいにポッキーやキットカット、ポテトチップス、ドリンク、インスタントラーメンなど15~20種類を詰め合わせ、毎月定期便で届ける。月額プランのほか、3カ月、6カ月、12カ月プランなどがあり、長期プランになるほど、料金はリーズナブルになる。 「基本的に賞味期限が長く、夏場は常温保存が可能なお菓子を工夫して選んでいます。とはいえ、日本は冬でも、送り先が南半球だと、チョコレートなどは溶けてしまう。そういう問題が起こるたび早急に解決策を講じて、試行錯誤しながらやってきました」
日本の伝統菓子や和雑貨を通じて日本を知ってほしい
菓子のサブスクは予想以上に早く軌道に乗り、事業が回り始めた。次の商材として美容雑貨に着目し、日本や韓国で人気のコスメやスキンケアグッズを詰め合わせた「nomakenolife(ノーメイクノーライフ)」の定期便を17年から開始する。さらに、キャラクター雑貨など“かわいい”を詰め込んだ「YumeTwins」の提供も始め、20~40代を中心にユーザーを獲得していった。そうした流れを受けて21年にスタートし、今や同社の主力ブランドに成長したのが「sakuraco」だ。
「『sakuraco』は、日本各地の伝統菓子や和菓子、お茶などを届けるサービスです。『TOKYO TREAT』もお菓子ですが、こちらは和をテーマに日本を知ってもらうことに重きを置いています」
野村さんがそう語るように、「sakuraco」には京都や北海道、沖縄といった日本各地の伝統菓子とともに、それがどう生まれたのか、その地域はどんなところなのかを解説した冊子や、陶器、箸、風呂敷といった和グッズも入っており、おやつを食べながら日本を旅しているような気分が味わえると人気を博している。
同社のサブスクサービスは現在、米国を中心に180カ国の地域で展開され、累計販売数は350万箱にも及ぶ。その先進的な取り組みと販売実績が評価され、23年に「日本サブスクリプションビジネス大賞」シルバー賞を受賞した。
外国人社員90%のチームがマーケティングを担当
越境サブスクのメリットは、ある程度先まで需要予測が立つことだと野村さんは言う。もちろん初期投資は必要だが、定期購入のため一般の小売りと違って販売計画が立てやすい。また、D2Cで直接ユーザーに商品を届けるので、海外販路を確立しなくていいのも参入しやすいポイントといえる。
他方、ネックとなるのはプロモーションだ。言葉の壁がある上に、どのように広告を打てばいいのか分からないことが多い。その点同社の場合、広告を担当するマーケティングチームの90%が外国人社員で構成されている。しかも英語圏のほか、フィリピンやインドネシア、ブラジル、ウクライナなどさまざまな国籍を持つ人材が集まっており、どんな内容が魅力的か、刺さりやすいかなど、彼らの感覚と経験値を生かして制作している。 「もちろん日本と海外で感覚の違いはありますが、共通している部分もあります。例えば、ネットで購入する人は何よりも見た目や見栄えを重視します。当社には専属カメラマンやデザイナーがいて、いかにきれいに見えるかを考慮しながらHPや広告などを社内で制作しています」
逆に、バイヤーチームは国内メーカーとやりとりするため全員日本人だが、仕入れたものが海外で受けるかどうか分からない。そこでマーケティングチームとディスカッションしながら、日本の良さが伝わりつつユーザーの味覚や好みに合う商品を厳選しているという。 「私たちはメーカーではないので、好きな商品を自由に選び、軌道修正も容易です。それを強みに海外ユーザーのニーズにきちんと目を向けながら事業運営しています」
全国各地とコラボして未発掘の良いものを世界に
同社は「sakuraco」の好調を受け、今後さらに地方の自治体とのコラボに力を入れていく予定だという。現に、さいたま商工会議所を通じてさいたま市内の菓子メーカーの商品を集めた「さいたまボックス」や、神奈川県箱根町の信用金庫と連携した「箱根ボックス」などの販売が実現している。 「地方からの売り込みも増えていて、当社としても、ぜひやらせてほしいと思っています。日本には未発掘の良いものがまだたくさんあるはずですし、それを世界に届けていくためにも日本各地と積極的につながっていきたい。また、地方のメーカーにとっても、海外販路を開拓する足掛かりにしてもらえればと期待しています」
最近、同社はサブスクサービスにとどまらず、新たにECアプリをリリースした。日本の良いものをもっと世界に届け、日本の文化や魅力を広めたいという。同社は「世界中をJAPANにする」というミッションの下、日本を代表するカルチャーカンパニーを目指してひた走っている。
会社データ
社 名 : 株式会社ICHIGO
所在地 : 東京都港区芝5-13-18
電 話 : 03-6365-6425
HP : https://ichigo.com
代表者 : 近本あゆみ 代表取締役CEO
従業員 : 100人
【東京商工会議所】
※月刊石垣2024年8月号に掲載された記事です。
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