地震や水害といった自然災害時には、地域と連携し迅速に支援に動き、さらに雇用確保や困り事解決など地域が求めるサービスを含めたフットワークの良さから“頼りになる”と評判の地域企業がある。地域に根差す企業ならではの取り組みを追った。
段ボール技術で能登の被災地支援 地元の防災意識向上にも貢献
サクラパックスは、段ボールを中心とする包装資材などを手掛けており、経営理念の「ハートのリレーで笑顔を創り、世界の和をつなぐ」に基づき、防災活動にも力を入れている。今年1月に発生した能登半島地震では、いち早く被災地の避難所を回り、同社の段ボール製ベッド、パーテーション、簡易トイレなどを届けた。同社が地域に貢献する姿勢は、全国的にも大きな注目を集めている。
東日本大震災きっかけに経営理念制定、防災活動も
富山市にあるサクラパックスは、1947年創業。段ボールやプラスチックダンボール、化粧箱など梱包資材を設計、製造販売している。同社が防災活動にも力を入れ始めたのは、三代目で社長の橋本淳さんが2011年に発生した東日本大震災の被災地復興支援に携わったことが大きな理由になっている。当時、橋本さんは日本青年会議所の副会頭を務め、被災地に向けて物資や人的支援活動を行った。 「あの後、私は、誰かの笑顔のために生きていきたいという考え方になりました。そして当社の幹部を集めて話し合いを重ね、『ハートのリレーで笑顔を創り、世界の和をつなぐ』という経営理念ができました」
経営理念が制定された14年以降、橋本さんは社員たちに理念を浸透させ、社員は顧客や世の中の人を笑顔にするアクションを自ら提案するようになった。同社には北陸地域の食品や工芸品を扱う顧客が多いため「お客さまを笑顔にしたい」と、15年には北陸のものを集めたコンセプトショップ「the Made In」を 富山県小矢部市の大型商業施設にオープンするなど、事業の幅を広げていった。
一方で同社は、橋本さんの経験を基に防災活動にも力を入れてきた。段ボールを素材としてさまざまなものを設計する技術を使い、ベッドや簡易トイレなどを製作した。これは被災して避難所で過ごすことになっても、少しでも快適な環境でいられる工夫である。こうした製品を使い、同社は近隣の学校や商業施設で防災セミナーやイベントを行っている。現在、同社には地域の防災リーダーとしての役割を担う「防災士」の資格保持者が6人いるという。 「富山は地震が少ない地域なので、防災意識は高くありません。だから避難所生活についても話題になりにくいし、そうしたことに取り組む企業も少ないです」と言う橋本さん。防災活動を続けるうちに、地元の新聞に取り上げられることが増え、同社の知名度アップにつながっているそうだ。
能登半島地震発生直後から被災地支援と経済復興活動
そのような中、今年1月1日に能登半島地震が発生した。同社には被災地出身の社員もおり、実家が大きな被害を受けたという。この事態に橋本さんは「今、動かなければ」と、自社の段ボール製ベッド、パーティション、簡易トイレなどを車に積み込み、社員とともに被災地の避難所を回った。 「中には『サクラパックスさんが来てくれた!』と喜んでくれる被災地の方もいて、サクラパックス=防災というイメージが地元に根付いているのを実感しました」という橋本さん。約1カ月間で、約1200個の段ボール製品を無償提供した。
さらに橋本さんは「義援金ムーブメント」を起こそうと考え、富山県に1000万円と石川県に1000万円、合計2000万円を寄付した。同社の寄付がきっかけとなり、多くの企業が多額の寄付をするようになったという。また、同社が運営するコンセプトショップでは、能登地域の商品を集めたECサイトを立ち上げ、収益の一部を寄付した。
地震発生が年始だったこともあり、多くの企業や団体が新年会を自粛する動きも相次いだ。橋本さんは、北陸の経済にとって打撃になると考え、「勇気を出して、やらんまいけ」という、富山弁を使った新聞一面広告を出し、自粛をなくす運動も呼び掛けた。さらに、旅行のキャンセルが相次ぐなど風評被害が広がったため「北陸おうえんプロジェクト」を立ち上げ、北陸の経済復興目的に奔走した。
防災を通じた地域貢献で信頼も売り上げもアップ
能登半島地震発生から半年以上がたち、橋本さんが懸念しているのは「風化」の問題である。全国の人が能登を忘れないように、橋本さんは地元の団体などと連携し、著名なデザイナーに依頼して、北陸の立山連峰と白山連峰をモチーフにした「北陸応援もようHAREYAMA」という模様をつくった。この模様をデザインした防災ボックスなどをつくり、自社のオンラインショップで販売している。
防災を通じた地域貢献について、橋本さんは「お客さまからの信頼度が上がり、売り上げも上がる。すごくいい循環になっています」と胸を張る。今後も「笑顔を創る」という理念を実践し続け、100年企業を目指すという。富山商工会議所の副会頭でもある橋本さんは、自身のビジョンを「次世代の育成」としており、商工会議所が中心となってスタートアップと大企業をつなぐなど、次世代のためのつながりを生み出していきたいと、展望を熱く語った。
会社データ
社 名 : サクラパックス株式会社
所在地 : 富山県富山市高木3000
電 話 : 076-436-6191
HP : https://www.sakura-paxx.co.jp
代表者 : 橋本淳 代表取締役社長
従業員 : 398人(グループ全体)
【富山商工会議所】
※月刊石垣2024年9月号に掲載された記事です。
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