知的財産と知的財産権
知的財産(知財)とは、技術やデザイン、ブランド、現場で培われた工夫やノウハウなど、企業の中に蓄積された無形の資産を指す。知的財産権は、その知財の一部を法的に保護するための仕組みであり、特許権、実用新案権、意匠権、商標権などがある。例えばドラム式洗濯機では、洗浄技術は特許、フタの構造は実用新案、デザインは意匠、ロゴは商標といった多角的な権利で価値が支えられている。知財は、権利として「公開」して守る方法もあれば、あえて権利化せず、ノウハウとして「秘匿」する選択もある。この戦略的な使い分けこそが、知財活用、そして知財経営の要となる。
社内に知財専門チームを設置 全社一丸となって知財を多角的に取得
1996年創業の中日本カプセルは、創業以来、健康食品や化粧品、清涼飲料水の製造受託事業を展開してきた。主力事業である健康食品のカプセル製造では、いくつもの特許を取得。海外展開を念頭に、社名を商標登録してブランド化している。社内に知財の専門チームがあり、全社一丸となって知財に取り組む。目指すは、1年に1件以上というハイペースの知財取得だ。
後発企業だからこそ技術を磨き、特許を狙う
「中小企業こそ、知財は経営戦略の要。保持しない手はありません」
そう口をそろえるのは、中日本カプセルの代表取締役社長の山中利恭さんと、知的財産権(以下、知財)の体制構築をけん引してきた執行役員兼事業部長の須原渉さんだ。同社は、銀行員だった創業者が、実業家としてガソリンスタンド、飲食店、酒屋などさまざまな業態に挑戦し、1996年、時流を読んで健康食品産業に参入したのが始まりだ。それも、いきなり難易度の高いソフトカプセル製造に着手し、後発企業ながら、大手企業に匹敵する技術力を磨き続けてきた、いわば風雲児的な存在である。
「創業当初から目指したのは開発型企業。独自の技術を磨き、これまで年間150社以上のお客さまとともに、新製品開発に意欲的に取り組んできました」と山中さん。
その立役者が2003年入社の須原さんだ。従来のカプセルは、ミツロウやグリセリン脂肪酸エステルを乳化剤に用いるが、より体に負担の少ないビタミンC誘導体(体内でビタミンCとして作用)使用のカプセル内容液の開発に成功する。この技術力を客観的に示す指標として、特許に着目した。
独自技術を守るとともに他社けん制を目的に特許出願
特許出願に向け、県内の健康食品に精通する特許事務所を探し、所属の弁理士と準備を始めた。
「何度も事務所に通い、特許出願の準備に半年ほどかかりました」と須原さん。だが、苦労して出願したものの、特許庁から拒絶理由通知が届いてしまう。慌てて弁理士と特許庁に赴き、拒絶理由を聞いて再出願するというハプニングもあった。
「特許請求の範囲を広くしてしまい、既存の特許とかぶる箇所があったことが原因でした。期限内に請求範囲を補正し、無事、特許取得の黄色い紙の通知が届いた時の達成感はひとしおです」と山中さん。 こうして、ビタミンC誘導体使用の次世代ソフトカプセル「C-capsule(シーカプセル)」を皮切りに、特許出願件数は42件、うち21件の成立(25年12月現在)に至る。一部の技術は名称を商標登録するなど複合的に保護している。
「03〜04年に、テレビの健康系情報番組が火付け役となったビタミン様化合物『コエンザイムQ10』の一大ブームがありました。コエンザイムQ10配合のサプリ設計の依頼が激増し、OEM受託製造専門メーカーとして、自社の独自技 術を守るために知財の保護・管理の必要性を強く感じました」(山中さん)。
15年に国が機能性表示食品制度を創設すると、ソフトカプセルの機能性成分(内容液)の配合方法によって幅広く特許が認められるようになった。これを好機と捉えたが、すでに大手食品メーカーが、配合特許を横断的に取得していた。
この苦い経験から、同社も自社活用だけではなく、他社けん制を目的とした特許取得にも乗り出し、業界トップクラスの出願件数となっていった。
海外事業や人材育成も〝知財〟を軸に展開する
「まさに陣取り合戦の様相です。それまでは1年に1件以上の特許出願を目指す開発型企業体制でしたが、15年、社長が知財を経営戦略の柱とし、知的財産戦略を推進することになりました。体制強化、効率化に向け、開発部内に知財管理部門ができ、現在は専任2人、兼任2人の4人体制で進めています」(須原さん)。
部門スタッフの知的財産管理技能検定の有資格者率は高いが、同社の最大の強みは、知財を一部署の単独業務としない点だ。製造や品質管理、営業など部署横断で取り組み、特許出願明細書には、関わった従業員が連名で記載するなど、士気向上につなげている。
「経営トップとして、開発や知財の重要性を従業員に繰り返し伝え、全社一丸となって取り組む社風を醸成していきました」(山中さん)。
特許出願と並行して04年から毎年、東京ビッグサイトで開催される食品分野の製造技術者向け総合展示会「食品開発展」に出展。大垣商工会議所主催の求人企業説明会「リアル大垣合同企業展」にも毎年参加するなど、認知拡大に努めた。
「近年は、特許の自社活用と他社けん制のほか、活用できない特許技術を、〝開放特許〟として、スタートアップ企業と共創する事例も生まれています。インターン生や新卒にも知財に触れる機会や業務を与え、知財人材の育成にも力を入れています」と須原さん。
海外にも目を向け、23年にはベトナムに現地法人を設置。すでに国内生産数が年間1億粒超えの主力製品・腸溶性ソフトカプセルの後継技術で、ベトナムの特許を取得するなど、国際特許の取得にも意欲的だ。
「海外事業を進めるに当たり、模倣品対策として、社名をブランド化して商標登録しました。25年11月にハラル認証を取得し、イスラム圏の輸出も計画中です」(山中さん)
24年に「はばたく中小企業・小規模事業者300社」、25年に「健康経営優良法人」認定と、業界外からの評価も高まる中日本カプセル。知財を取得し、活用し、人材を育てる、同社のビジョンは手堅く明快だ。
会社データ
社 名 : 中日本カプセル株式会社
所在地 : 岐阜県大垣市荒尾町229-2
電 話 : 0584-93-1013
HP : https://www.nakanihon-cap.co.jp
代表者 : 山中利恭 代表取締役社長
従業員 : 190人
【大垣商工会議所】
※月刊石垣2026年2月号に掲載された記事です。
