知的財産と知的財産権
知的財産(知財)とは、技術やデザイン、ブランド、現場で培われた工夫やノウハウなど、企業の中に蓄積された無形の資産を指す。知的財産権は、その知財の一部を法的に保護するための仕組みであり、特許権、実用新案権、意匠権、商標権などがある。例えばドラム式洗濯機では、洗浄技術は特許、フタの構造は実用新案、デザインは意匠、ロゴは商標といった多角的な権利で価値が支えられている。知財は、権利として「公開」して守る方法もあれば、あえて権利化せず、ノウハウとして「秘匿」する選択もある。この戦略的な使い分けこそが、知財活用、そして知財経営の要となる。
オリジナル商品の開発で卸業からBtoCへ 商標登録で小さな会社がブランドを守る
鈴木又五郎商店は秋田県南東部の湯沢市で、1870(明治3)年の創業以来、150年以上にわたり米穀類や農業資材、飼料、飲料などの卸業を営んでいる。従業員10人という小規模企業ながら、あきたこまちの玄米を使ったオリジナル商品を開発。『HAPA RICE』と『(屋号:カネマタ)乳酸菌あきたこまち玄米』という二つのブランド名を商標登録し、BtoC事業を展開している。
白米と玄米のミックスご飯を地元のあきたこまちでつくる
鈴木又五郎商店は、6代目社長の鈴木又五郎さんが農業法人のカネマタファームを立ち上げ、自ら米をつくりながら、契約農家がつくった米も一緒に販売する卸業をメインに事業を行っている。そんな同社に新たな風を吹き込んだのが、専務を務める娘の鈴木アヒナ麻由さんである。
「私は大学卒業後、ハワイに渡りセラピストの国家資格を取得し、現地のホテルで約5年間、セラピストとして働いていました。結婚して子どもが生まれると、地元の秋田で子育てをしたいと思い、帰国しました。私は一人っ子で、家業を継ぐなら、これまでに培ってきた美容や健康への意識を生かした米の商品づくりがしたいと考えるようになったのが始まりでした」
そこで、目をつけたのが玄米だった。セラピスト時代、健康意識が高い人は玄米を食べており、鈴木さんもカリフォルニア米の玄米を食べていた。そして、日本に里帰りした際に食べた地元のあきたこまちのおいしさに驚いたことを思い出し、おいしくて健康と美容にもいい玄米の商品を開発しようと思い立った。
「ハワイでは、ご飯が日常的に食べられていて、HAPAライスという白米と玄米を混ぜ合わせたご飯もあります。HAPAとは、ハワイの言葉でミックスという意味で、これをあきたこまちでやろうと考えました。それと同じ時期に、おいしい玄米の栽培にも取り組みました。玄米を炊く際にヨーグルトを入れると乳酸菌の作用で軟らかくなると知り、お米の栽培に乳酸菌を使えばおいしい玄米ができるのではないかと、うちの農場で栽培してみました。すると、普通に炊いても軟らかく、独特の臭みも少ない玄米ができたのです」
知財支援窓口の指導を受けて新製品の商品名を商標登録
白米と玄米では、炊飯時の水量や時間が異なる。そこで鈴木さんは、両者の配合や炊き方を社員の協力を得ながら研究した。
「半年以上かけて見つけ出したのが、白米3に玄米2の割合で、炊飯器の白米モードで、米一合に対して水を大さじ1杯多く入れるとおいしく炊けること。他品種のお米でも試しましたが、あきたこまちが一番おいしい。あきたこまちは、自社農場でも栽培しているので、これでやろうと決めました」
誰でもすぐにおいしく食べられるパックご飯として販売するため、調理とパック詰めは業者に依頼。商品名は、ハワイの「HAPA RICE」を採用した。
「事業について、湯沢市ビジネス支援センターに相談した際、商標登録を勧められ、INPIT秋田県知財総合支援窓口の支援を受けて申請しました。HAPAという言葉は、ほかの商品では使われておらず、2020年2月に商標を取ることができました。また、併せて屋号のカネマタも商標登録をしました」
その後、コロナ禍で自己免疫への関心が高まる中、免疫力向上に役立つとされる乳酸菌で栽培した自社栽培の玄米を、単体でも売り出すことにした。
「乳酸菌でお米を栽培しているところがほかになく、商標登録をすることにしました。最初は『乳酸菌あきたこまち玄米』で申請しましたが、一般的な言葉の組み合わせだからと却下。ネーミングに試行錯誤を重ねましたが、『乳酸菌あきたこまち玄米』に勝る商品名はない。そこで商品名の前にカネマタの屋号を付けたところ、認められました。最初の申請から1年後の23年のことでした」
美容・健康食品市場に転換しコアなファンが生まれる
「HAPA RICEは、美容と健康に配慮したサプリメント感覚で食べられるご飯です。玄米に慣れていない人でも無理なく食べられる配合にしており、健康と美容のために、より多くの人に玄米を食べてもらうことが、私の夢です」と鈴木さんは目を輝かせる。
とはいえ、20年の発売当初は苦戦した。一般的なパックご飯に比べ価格が約2倍と高く、食品展示会や卸向け営業ではほとんど売れなかった。そこで、商品価値で勝負するために美容・健康食品の展示会に出展したところ、大きな反響があった。定期便やサブスク形式でも販売を始めると、口コミで全国に広がり、コアなファンやリピーターが生まれた。
「商標登録の重要性を実感したのは、中国への輸出を検討した時です。商標がなければ模倣品が安価で日本に逆輸入されるリスクがある。商標を取得している商品であることが信頼につながり、登録して良かったと感じています」
今後は、乳酸菌あきたこまち玄米を生かした商品開発にも力を入れていくという鈴木さん。玄米は、粉にすると長期保存が難しかったが、焙煎(ばいせん)してから製粉することでその問題がなくなり、きな粉のような風味の米粉が完成した。そこからパンケーキミックスを開発し、商談会でも手応えを得ている。
「あきたこまちのブランド力は国内外で高く、今後はその強みを前面に打ち出して展開していきます。商標登録については、支援機関や専門家が無料で親身に相談に乗ってくれます。特に海外展開を視野に入れるなら、模倣品が逆輸入されるリスクへの備えとしての商標取得は欠かせません」
商品と商品への思いを守るためにも、商標登録は欠かせない。挑戦する企業こそ、早めの取得が将来の大きな安心につながる。
会社データ
社 名 : 株式会社鈴木又五郎商店(すずきまたごろうしょうてん)
所在地 : 秋田県湯沢市大町1-2-26
電 話 : 0183-73-5130
HP : https://www.kanemata-suzuki.com
代表者 : 鈴木又五郎 代表取締役
従業員 : 10人
【湯沢商工会議所】
※月刊石垣2026年2月号に掲載された記事です。
