知的財産と知的財産権
知的財産(知財)とは、技術やデザイン、ブランド、現場で培われた工夫やノウハウなど、企業の中に蓄積された無形の資産を指す。知的財産権は、その知財の一部を法的に保護するための仕組みであり、特許権、実用新案権、意匠権、商標権などがある。例えばドラム式洗濯機では、洗浄技術は特許、フタの構造は実用新案、デザインは意匠、ロゴは商標といった多角的な権利で価値が支えられている。知財は、権利として「公開」して守る方法もあれば、あえて権利化せず、ノウハウとして「秘匿」する選択もある。この戦略的な使い分けこそが、知財活用、そして知財経営の要となる。
※画像提供:音羽電機工業
知財を経営戦略に活用する避雷器専門メーカーの挑戦
雷害から社会インフラと産業機器を守る製品や技術を、長年世に送り出してきた音羽電機工業。同社は独自の製品や技術に対して、特許や商標など知的財産権を取得し、国内で大きなシェアを獲得してきた。今では、取得した知財を事業や経営戦略に結び付け、競争優位や新規顧客の開拓につなげている。
高電圧から低電圧まで 国内唯一の一気通貫体制
停電、通信障害、設備停止―。雷は、一瞬で社会インフラや産業機器の機能を奪う。音羽電機工業は創業以来、そんな雷害から電気設備や電子機器を守る技術を黙々と磨き、製品を開発してきた国内唯一の避雷器専門メーカーだ。
「よく避雷針と混同されるのですが、避雷針は雷を誘導して地面に逃がし、建物や人命を守るためのものです。私たちが扱っている避雷器は、雷の電気エネルギーが電線を通じて侵入するのを防ぎ、屋内の電気設備や機器を保護するのが目的です」と、同社取締役副社長の圓山(まるやま)武志さんは説明する。
同社の特長は、高電圧から低電圧まで一気通貫で製品提供できる点にある。この両レンジに対応できる国内メーカーは同社のみで、雷に関する知見を積み重ねてきたからこそ、設備単体ではなく、施設全体を網羅する雷害対策を提案できるのが強みだ。かつては、電力や鉄道会社向けが売り上げの6~7割を占めていたが、電気設備の複雑化によって機器故障が増え、低電圧分野のニーズが拡大したことに伴い、低電圧用避雷器(SPD)の製造開発に力を入れ、現在は同社のメイン事業となっている。
技術を守るだけじゃない 選ばれる企業になる知財の力
同社が避雷技術を培うのと並行して、取り組んできたのが知的財産権の取得だ。初号特許の正確な時期は定かではないそうだが、昭和20~30年代には特許取得に乗り出していたという。現在保有する知財は、特許権と商標権がともに60件超、意匠権などを含めると、その数は約150件にも上る。少なくとも30年以上前から社内出願フローを整備し、技術開発に連動した出願体制を構築してきた。
「特許を取ることで、技術を守ることはもちろんですが、例えば大きな案件で他社と協業するような場面で、相手から選んでもらいやすくもなります。また、大手企業の仕事を受注する際、特許技術を持っていることで対等な立場で対応してもらえることもメリットです」
一方で、知財を巡る体制づくりは決してスムーズだったわけではない。かつては、大手企業出身の知財経験者に入社してもらい、担当者主導で知財業務を行っていた。ところが担当者の急な逝去により業務がストップし、空白期間が生じてしまった。その反省を踏まえて社内に特許審査会を創設し、権利化の是非やノウハウの秘匿を審査する体制へと移行した。現在では技術企画室が中心となり、弁理士や公的支援機関と連携しながら、強い特許を生み出す仕組みの再構築を進めている。
それと並行して、発明者への報奨制度も見直した。以前は、報奨金が固定で少額だったため、申請意欲が上がらず、有望な発明の取りこぼしが発生していた。そこで、事業への貢献度を重視し、製品売り上げの一定割合を毎年支給することにした。これにより、開発現場の意識は大きく変わり、新規性の高い技術創出へのモチベーションが高まったという。
「知財業務は、片手間ではできません。技術と事業、両方を理解して初めて“使える特許”になります。そのためにも特許業務を担える人材の育成が重要です」
性能競争から顧客便益重視へ 知財戦略で優位性を確保
近年、同社は取得した知財を経営に結び付け、事業の中で戦略的に活用することで企業競争力の向上を図っている。その背景には、避雷器市場において規格化が進み、性能差が縮小して価格競争に陥りやすくなってきたことがある。
「もう、性能だけでは勝負できなくなったということです。そこで、顧客や工事業者にとっての便益を重視した開発をすることで、導入を促す戦略に転換しました」
同社が注力しているのは、施工性やメンテナンス性の向上だ。取り付け工数の削減、複数装置の統合、省スペース化など、現場に優しい設計へとシフト。さらに、模倣されやすい“見て分かる工夫”は特許で保護するなど、顧客に選ばれやすい製品づくりを進めている。
また、新たにロボットや工作機械分野への採用も進んでいる。ロボットに内蔵できる小型モデルであることや、同社が海外安全認証を取得していて海外輸出にも対応できることから、同社製品を導入するメーカーが増えており、シェアや販路の拡大につながっている。
避雷器の分野で唯一無二の存在感を放つ同社は、今後どのように進化していくのか。
「雷対策としてさまざまな技術開発を行い、ノウハウも知財も蓄積してきました。それを避雷以外のジャンルに活用できないか、と。その一環で今、電界を測定する既存技術を応用して、落雷の予測に活用する研究を産学官連携で行っています。まだ世界で実用化されているものはないので、ぜひ事業化したい」と圓山さん。同社は技術と知財という“資産”により新たなフェーズに移行しつつある。
会社データ
社 名 : 音羽電機工業株式会社(おとわでんきこうぎょう)
所在地 : 兵庫県尼崎市潮江5-6-20
電 話 : 06-6429-5059
HP : https://www.otowadenki.co.jp
代表者 : 吉田厚 代表取締役社長
従業員 : 287人
【尼崎商工会議所】
※月刊石垣2026年2月号に掲載された記事です。
