民主政治は変わるのか。先の衆議院選挙では、政治とカネを切り離せない自民党が国民の信頼を大きく失ったことが明らかとなった。欧州では、戦後の政治をけん引してきた既存の政党に対し、支持者が「NO」を突き付けた。米国では、民主政治を毀損(きそん)したとされるトランプ候補に根強い支持があった。共通しているのは、目の前の課題を解決できずにいる政府。それが変わることを国民は望んでいる▼
一方で、民主政治が前進した地域もある。台湾では2014年、「ひまわり学生運動」と呼ばれる学生たちによる政府への抗議活動が政治を動かし、政府は民主的な仕組みを導入した。政府と民間が協働して誰もがオンラインで討議できるプラットフォームを構築したのだ。それにより市民の意見を政策決定に反映する道筋が整った▼
この一連の活動を支えたのが、コロナ対策で日本でも有名になったオードリー・タン氏である。この若き閣僚は、デジタル技術を駆使して国民の意見が伝わりにくいという間接民主主義の弱点を克服し、誰もが政治参加しやすい環境づくりに尽力した。彼女が人々に期待するのは、政策への賛否の表明だけでなく、議論を通じて生まれる人々の創発的なアイデアの提示である▼
私たち日本人は、政治責任を一方的に追及する立場にとどまり続けるのか、それとも台湾のように、より積極的に政策に関与する存在となるのか。もし後者を選ぶとすれば、変わらなければならないのは、政治家というよりもむしろ私たちの側かもしれない。現代社会が抱える問題に対して積極的に関わり、政策の共同責任を負う覚悟が求められる。その一歩を踏み出すかどうか、私たち自身が問われている
(NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)
最新号を紙面で読める!