担い手不足や海外との価格競争など原因は数多くあるが、国内の一次産業が衰退していけば、地域経済も疲弊することと同じ意味を持つ。こうした背景に危機感を持ち、農林水産業を積極的に支援して、新たな雇用を生み出すとともに地域活性化に貢献している企業がある。
農作物とエネルギーを同時につくり ロボット技術で現役農家の作業を軽減
米穀卸売・販売事業を展開する但馬米穀が、2020年よりスマート農業(AIやIoTを活用した次世代型農業)に着目し、革新的な農業支援を進めている。農作業の負担を軽減し、作業効率と収入アップをトータルサポート。スマート農業の研究施設兼グランピング施設も開設し、「かっこいい・稼げる・環境にやさしい」と、従来の3Kの意味を塗り替える。
農作物を育てつつ電気をつくるソーラーシェアリングに着目
但馬米穀は1951年の創業以来、米穀の卸売・販売を主力事業に、LPガスの製造・販売業、食品卸売業を展開してきた。だが、取引のある地元農家の高齢化、担い手不足を危惧し、スマート農業の普及に動いた。なぜか。同社代表取締役社長の木村嘉男さんは言う。 「今年は一時的に米の価格が高騰していますが、高騰前は1980年に比べて1俵につき3000円も下落しています。農業は3Kと言われて久しく、後継者は減る一方です」
同社は再生可能エネルギーにも関心を寄せ、2012年には精米工場の屋根に太陽光発電設備を設置している。同時期に注目したのが千葉県匝瑳市(そうさし)で実施しているソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)だ。ソーラーパネルの角度を調整でき、パネルの上では電気を、下では農作物を同時につくれる。農業とエネルギーを掛け合わせた、稼げる農業への糸口を見いだした。 地元の豊岡市での普及促進に向け、協力してくれる地元農家を探し、申請したのが環境省の二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金だ。国の推進する事業として実施して、自治体や地元農家の理解と認知向上を図った。
行政や民間企業と連携し「電気」と「お金」を循環
「豊岡市ステップアップ支援補助金や中小企業新事業展開応援事業補助金などの補助金をいろいろ活用しました。その際に相談したのが豊岡商工会議所です。事業計画書作成では丁寧なアドバイスをいただきました」
19年、農家が発電した余剰電力を、市のコミュニティセンターに供給する仕組みを構築。さらに翌年には、脱炭素化に注力するアウトドアブランドのパタゴニアと、ソーラーシェアリングとソーラーパネル搭載型農業ハウス設置の協業事業を始めた。 「匝瑳市でソーラーシェアリングを実施していたパタゴニア日本支社が、西日本でも事業を構想しているという情報をキャッチして、こちらから名乗り出ました」
同社がある豊岡市は、コウノトリの里として、長くコウノトリ野生復帰事業や有機農法など環境活動に取り組んでいる。これが評価され、交渉はスムーズに運んだという。有機農法の「コウノトリ育む農法」を実践する地元農家「坪口農事未来研究所」の協力を得て、ソーラーパネル5台と農業ハウスを建設。うち4台とハウスの建設資金をパタゴニア日本支社が出資し、関西の直営4店舗に電気が供給される仕組みが整備された。農家にとってのメリットは、電気代の削減と売電による安定収入にある。加えて、同社が6次産業化をサポートし、地域ブランドの日本酒と甘酒の開発に至った点も大きい。
人手不足を技術で解消し農業の新常識を広める
同社は、現役農家の作業負担の軽減にも挑む。農業用ドローンや無農薬水耕栽培に加え、特に力を入れたのがIoT技術による「FJ Dynamics(エフジェイ・ダイナミクス)スマート操舵(そうだ)システム」の導入だ。これは農家がすでに所有するトラクターや田植え機などの大型農機具に、センサーなどの機器を後付けし、遠隔操作を可能にするもの。取り付けも半日から1日程度で、作業データから無駄な作業の改善も図れる。トラクターによる田植え作業のコストを約50%削減するなど、さまざまな成果を上げている。 「高精度で低価格、初期投資もそれほどかかりません。50 haの農地を10人から2人で作業できる計算です。ほかにも水田の自動水管理システムなど、時間と労力を減らし、収益を増やす仕組みが日進月歩で開発されています。大型機械も人も水さえもいらない、必要なのは農地だけ、という農業改革が起きつつあります」
だが、ベテラン農家ほどスマート農業への切り替えには腰が重い。「結果を見せていくしかありませんが、稲作は年1回ペース。見てもらう機会を増やす必要があります」 そこで豊岡市より県外からのアクセスがいい神河町に2社共同で開設したのが、スマート農業の研究施設「越知谷(おちだに)キャンプアグリビレッジ」だ。旧越知谷小学校の跡地と周辺の休耕田を利活用し、スマート農業の実演や展示販売、農家へのコンサルティングや研修を実施。まちの交流人口を増やすべく、キャンプ・グランピング施設としても機能し、収益を上げている。
さらに「来てもらう」だけではなく、広島、三重、滋賀にも足を延ばし、スマート農業の分母を増やすことに努めている。 「収穫した米の出荷先まで担保した提案ができるのが、卸売事業者の強みです。土地があれば誰でもエネルギーがつくれる。稼げる農業、かっこいい農業で環境に貢献できる。そうした農業スタイルに賛同する仲間を増やすのが急務です」
年2〜3回の稲作が可能な沖縄も視野に入れ、西日本を中心にスマート農業の普及に奔走する。
会社データ
社 名 : 但馬米穀株式会社(たじまべいこく)
所在地 : 兵庫県豊岡市中陰318-3
電 話 : 0796-22-2131
HP : https://tanbei.co.jp
代表者 : 木村嘉男 代表取締役社長
従業員 : 26人
【豊岡商工会議所】
※月刊石垣2024年12月号に掲載された記事です。