相変わらず全国各地で自然災害が起きているが、2011年に発災した東日本大震災から14年がたつ。東北の被災地の完全復興にはまだ時間がかかるが、新たなビジネスに挑戦している企業は少なくない。今号では、東北各地で頑張る企業の取り組みを紹介し、今、復興に取り組む各地の被災地へ元気を届けたい。
再生可能エネルギーの地産地消で地域経済の循環を促す
震災直後より策定された「気仙沼市震災復興計画」の重点事業の一つに、再生可能エネルギーの推進がある。その事業者として2012年に設立したのが気仙沼地域エネルギー開発だ。同社は、市内の森林資源を活用した木質バイオマス発電により、林業再生や雇用創出、地域経済循環の“一石三鳥”を目指して取り組んでいる。 再生可能エネルギー事業化を震災復興計画の柱に 森は海の恋人︱。これは、豊かな海や川を守るために森を大切にしようという宮城県での植林活動のスローガンだ。リアス式海岸の険しい山々に育つ森林の栄養分が、川を通じて豊かな海をつくる。その恩恵を受けて漁業や水産業が盛んな気仙沼市の日常を東日本大震災は一変させた。大津波は港を中心にまちをのみ込み、電気も油も寸断され、救急救命活動は困難を極めた。その教訓をもとに、市では震災直後の6月から復興計画を策定し、柱の一つとして地産地消エネルギー事業化に乗り出した。その計画策定市民委員会の座長でもあり、自らその計画プロジェクトの一つ「地産地消の再生可能エネルギーの創出」を手掛けることになったのが高橋正樹さんだ 「私は長年、気仙沼商会という会社を経営していて、石油や高圧ガス、ガソリンスタンドなどエネルギー全般を扱ってきた経験があるので白羽の矢が立ったのでしょう。当社は市内の15の事業所のうち、海辺にあった13事業所が被災した当事者でもあるので、その経験も踏まえて役に立ちたいと思いました」
こうして市や市内の金融機関、財務省から派遣された復興支援官などと検討を重ね、林業の再生とエネルギーの地産地消を目指して、12年2月に気仙沼地域エネルギー開発を設立。高橋さんは社長に就任した。
木質バイオマス発電で地域内に循環を生み出す
事業の概要はこうだ。間伐材を燃料とする木質バイオマス発電供給プラントを建設し、発電した電力は固定価格買取制度(FIT)を活用して全量を売電する。発電の過程で発生する熱は、燃料チップの乾燥に活用するほか、近隣の宿泊施設に温水として提供する。地元の間伐材利用を促すため、市内二カ所の貯木場で燃料材の買い取りを実施し、購入代金の半額分を地域通貨「リネリア」で支払うというものだ。 「燃料材を安定して調達するには、地域の自伐林業家を育てる必要があります。そこで『森のアカデミー』という養成塾を開講し、チェーンソーの使い方や作業道づくりなどの研修を行っています。また、燃料材の買い取り価格は、市場価格の倍に設定して、高く買う分を地域通貨で支払うので、地域商業の活性化にもつながります。事業全体を見渡すと、エネルギーとその対価、生産物、そして人が地域内を循環するイメージです」
事業モデルは固まったものの、苦労したのは発電供給プラントの建設だ。国内に同様の施設は何カ所かあったが成功事例はなく、ほぼ国内初の取り組みとなったためだ。そこでドイツから技師を招いて着工したが、設計一つとってもドイツと日本の考え方に相違があった。そのため奥に進むべき工程が手前に戻るといった行き違いがいくつも発生した。一カ所がトラブルを起こすと全工程がストップしてしまう。試行錯誤を経て、14年3月、発電供給プラント「リアスの森BPP」が完成し、試運転を開始した。
地方活性化の方策として事業モデルを全国に
設立からわずか2年で発電までこぎ着けたのは、かなり早いといえるだろう。その原動力は、地域を復興したいという市民の思いが同じ方向を向いていたことが大きい。プラントは16年から本格稼働に入り、最高稼働率は約86%、発電量は年間約500万kW(約1600世帯分)となった。 「燃料材は生き物ですから、プラントの発電能力は1時間800kWでも、700kWとか650kWになるときもあり、減ればそれだけ収支が厳しくなります。最初に分かっていれば発電能力をもっと大きくしたのですが、そういうノウハウを持つ人が身近にいなかった。いかに安定的に発電させるかが、目下の課題です」
また、自伐林業家養成塾の参加者は延べ1000人を超え、人材は着実に育っているが、山の間伐は10年に一度のペースで行うため、コンスタントに材が調達できないことも問題だった。そこで自伐林業家をグループ化し、他者の山の間伐も行うようにした。さらに、地域おこし協力隊を導入し、林業に興味のある人材を募って育成したり、森ワーカー制度を創設して山主と林業従事希望者をマッチングし、森林整備拡大に取り組んでいる。
課題を一つひとつクリアしながらエネルギーを生み出し、森と海の恵みを地域内に循環させる仕組みを構築した同社。高橋さんは、震災時に日本各地から支援を受けた恩返しとして、この仕組みを全国に普及できたらと今後の展望を語る。 「森林が荒れているのは気仙沼だけの問題ではありません。もし、再生可能エネルギーを地産地消する仕組みがあれば、それを必要とする農業や漁業の活性化にも貢献できます。私は地方を元気にするのは1次産業だと思っていますが、今、日本中が疲弊しているので、そうした状況に一石を投じたい」と力強く語った。
会社データ
社 名 : 気仙沼地域エネルギー開発株式会社
所在地 : 宮城県気仙沼市南町1-2-6
電 話 : 0226-22-7338
HP : https://chiiki-energy.co.jp
代表者 : 高橋正樹 代表取締役社長
従業員 : 8人
【気仙沼商工会議所】
※月刊石垣2025年3月号に掲載された記事です。