相変わらず全国各地で自然災害が起きているが、2011年に発災した東日本大震災から14年がたつ。東北の被災地の完全復興にはまだ時間がかかるが、新たなビジネスに挑戦している企業は少なくない。今号では、東北各地で頑張る企業の取り組みを紹介し、今、復興に取り組む各地の被災地へ元気を届けたい。
震災と水害を乗り越えた鉄鋼商社が端材を使った新製品でBtoCの道を開拓
福島県中通りの中央部に位置する郡山市は、東北地方有数の商工業都市である。東亜通商は市内の工業団地に本社を置き、鋼材や非鉄金属、建設土木資材の加工・販売を行っている。東日本大震災では工業団地内に三つある工場のうちの第二工場が全壊し、大きな被害を受けた。あれから14年、新たな取り組みとして昨年、鋼材の端材を利用した極厚バーベキュー鉄板「THE GRILL」を発売し、大きな反響を呼んでいる。
台風の水害で被害を受けるも1年で顧客を取り戻す
「震災では第二工場が全壊したものの、私たちよりもお客さまの方が被害が大きかったと思います。特にいわきのお客さまは、原発事故の影響で物資が配達されない状態でした。幸い郡山には物資が入ってきていたので、いわきのお客さまに連絡し、必要なものがあったら鉄以外でも何でも準備して届けますと伝えました。実際、飲料水がなくて困っているとのことだったので、ホームセンターなどを回って水を購入し、うちのトラックでいわきまで届けました」と、東亜通商社長の高橋正子さんは当時のことを振り返る。
実は同社にとって、東日本大震災よりも2019年10月に起こった台風19号による谷田川の氾濫での水害の方が被害は甚大だった。工業団地は阿武隈川と谷田川に挟まれており、川の水で工業団地のほぼ全域が浸水したのだ。 「工場が水没して屋根しか見えないような状況で、建物から車両、機材、資材まで全滅でした。何一つ動かせない状態で、最初の1週間はお客さまも『大変ですね』と言ってくださっていましたが、それ以降は、お客さまの方も対策を取らないといけない。うちから資材が届かないなら、ほかのところから仕入れていかないと操業がストップしてしまいますから」
水が引くと、従業員全員で工場内の泥土を掃き出し、2カ月後の12月には工場をある程度動かせるようになった。しかし、すでに顧客はほかに流れてしまっていた。 「それでも、へこたれているわけにはいきません。まずは、今後の水害に備えるために工場のかさ上げを行いました。その後は、お客さまに対して還元キャンペーンなどを行い、なんとか1年ほどで元の流れに戻りました」
社員のアイデアから生まれた 分厚いバーベキュー用鉄板
数字的には19年の水害からは元に回復した。今は二交代制も稼働しており、従来どおりの形で操業している。しかし、日本の人口が減少していることを考えると、将来的に鋼材の需要は間違いなく減ってくる。このまま同じことをしていても会社は成長していけない。 「そこで私は、一昨年6月に社長に就任すると、ほかにも商材を増やしていこうと社員たちに伝えていきました。すると、10月になって現場で働く社員が、鋼材の加工で発生する端材でつくったバーベキュー用の鉄板を私のところに持ってきたんです。せっかく社員が自分で考えてつくってきたものを無駄にはしたくない。私はなんとしてでも形にしたいと思い、価格を決めて、とりあえず会社の受付に置いておきました」
そのバーベキュー用鉄板の最大の特徴は厚み。幅は25・5㎝と小ぶりながら、鉄板の厚さは6㎜。一般的な鉄板は2〜3㎜なので倍以上もある。熱伝導性が高く、食材に均等に熱を加えられるため、ムラなく焼くことができる。鉄板が厚いため長持ちし、手入れをしっかりすれば一生使うことも可能だ。そして、鉄板の端材を再利用しているため、環境にも優しい製品となっている。名称は「THE GRILL」とした。 「最初に買ってくれたのは、うちの社員でした。鉄板に肉やソーセージ、野菜をのせてバーベキューをした写真を送ってきてくれたんです。それがきっかけでチラシをつくり、営業マンたちが営業先で配るようになりました。自分のアイデアが形になり、それを会社の仲間たちが売ってくれる。楽しいし、こういう機会をもっと増やしていきたいと思いました」
周囲からのアドバイスを受け イベントや展示会で商品PR
ただ、これまでBtoCでの販売経験がなかったため、どうやって消費者に認知度を向上していったらいいのか分からなかった。 「すると、多くの方々からヒントをいただきました。同じ工業団地にある会社の方からは、郡山商工会議所に電話して会報に載せてもらったらどうかとアドバイスをいただきました。私が自分で電話してお願いし、昨年7月に掲載されると、多くの方々から見ましたよと電話をいただいて。それにはびっくりしました」
また、イベントに参加して広報活動も行った。昨年10月5日に県内の建設資材商社が白河市で開催したイベントに出展して商品PRをしたところ、約6時間で56枚を販売。同月11〜13日に開催された「こおりやま産業博」にも出展して販売し、先進的な提案をした企業・団体に贈られるアワードの準グランプリを獲得した。現在は自社での販売のほか、キャンプ場のあるフォレストパークあだたら(安達郡大玉村)での販売も始めており、郡山市のふるさと納税の返礼品リストにも申請をしている。 「BtoCにはBtoBとはまた違った喜びがあり、とても刺激的です。また社員たちの意識も大きく変わり、私が何も言っていないのに、新たな製品を自分たちで考えてつくり始めました。言われたことだけをするのではなく、自分のアイデアを出していってもいいんだという気風が社内に出てきたら、仕事も楽しくなると思います。また、こおりやま産業博で名刺交換した企業の方々と組んで新しい商品を生み出せたらと考えています」
同社は震災や水害を乗り越え、社員のアイデアを生かした新製品「THE GRILL」で新たな道を開いた。今後も新たな挑戦を続け、成長を目指していく。
会社データ
社 名 : 東亜通商株式会社(とうあつうしょう)
所在地 : 福島県郡山市田村町下行合字田ノ保下1-16
電 話 : 024-944-6616
HP : https://www.toa-tusho.co.jp
代表者 : 高橋正子 代表取締役社長
従業員 : 約70人
【郡山商工会議所】
※月刊石垣2025年3月号に掲載された記事です。