日本商工会議所の小林健会頭は3月12日、首相官邸で行われた政労使会議に出席し、大手各社が昨年に引き続き大幅な賃上げを実施していることに歓迎の意を示すとともに、「〝物価と賃金の好循環〟を着実に進めていくためにも、地方の中小企業・小規模事業者も含む社会全体での賃上げ定着が必要」との考えを強調した。会議には、小林会頭のほか、使用者側から日本経済団体連合会の十倉雅和会長、全国商工会連合会の森義久会長、全国中小企業団体中央会の森洋会長、労働者側からは連合の芳野友子会長、政府からは石破茂首相ら主要閣僚が出席。今後の中小企業や小規模企業の賃金交渉に向けて意見交換を行った。
日商の小林会頭は、「大手企業では初任給引き上げも盛んだが、生活費の負担が重い中高年を含む幅広い世代で賃上げに取り組み、消費意欲を喚起していくことも重要」と指摘。一方で、依然として賃上げを実施する中小企業の6割が、人材の確保・定着を目的とした、いわゆる「防衛的賃上げ」であることに触れ、「これを『前向きかつ持続的な賃上げ』に変えていかなければならない」と主張した。
また、「小売・サービスなどBtoCの価格転嫁を進めるためには、消費者のデフレマインドを払拭していかなければならない」と述べ、「良いもの、良いサービスには値が付く」「適切な価格で買えば、巡り巡って家計にもプラスになる」ことを消費者に浸透させることが重要との認識を強調。官民で協力した取り組みの継続を求めた。
最低賃金については、日商調査において、2024年度の最低賃金引き上げに伴い賃上げを実施した中小企業が、地方で半数近くに達するとの結果が出たことなどに触れ、「企業の支払い能力を超える引き上げが続けば、地方の生活や産業インフラを支える小規模企業が事業継続を断念し、地方経済の減退につながる」と懸念を表明。「最低賃金の引き上げスピードと上げ幅は、実態を十分に踏まえ、丁寧な議論を行うべき」と主張した。
会議に出席した石破首相は、「中小企業や小規模企業の賃上げに向け、政策を総動員する」との方針を表明。また、公共調達について、6千億円の重点支援地方交付金を活用した適切な労務費転嫁の働き掛けなどを関係閣僚に指示した。価格転嫁については、「下請代金法(下請代金支払遅延等防止法)と下請振興法(下請中小企業振興法)の改正法案の早期成立を目指す」と述べるとともに、「中小・小規模企業の生産性向上のため、省力化投資・デジタル投資などを促進し、人材・経営基盤を強化する事業承継やM&Aなどをさらに後押しする」との考えを表明。最低賃金については、引き上げのための効果的な施策を具体化し、5月までに取りまとめるよう関係閣僚に指示した。