多くの中小企業にとって大きな悩みのタネとなっている人手不足。その一方で、こうした状況に手をこまねいているのではなく、DXや多様な人材活躍、選択と集中の徹底など独自の戦略を打ち出し、「少人数」を「強み」に変えている企業がある。成長を続ける企業の経営者たちの取り組みとその考え方に迫った。
生産性向上+経営基盤強化にDXは必須 少子高齢化に適した自社インフラを構築
ギョーザの製造会社・信栄食品は、2022年に工場を新設した。生産能力を1・7倍に上げると同時に、「中小企業こそ、生き残り戦略にDX(デジタルトランスフォーメーション)は必須」と、DX化に乗り出した。生産性向上と経営基盤強化を図る、独自の経営プラットフォームを構築。運営しながら、少子高齢化社会に適応した次世代型の経営へ、着実にアップデートを進めている。
デジタルスキルや人材を外部と連携して補完
1998年設立の信栄食品は、長野県松本市に拠点を置く冷凍ギョーザ製造の専門メーカーだ。大手百貨店や大手スーパーマーケットのOEM・ODMの多品種少量生産に特化し、大手競合企業と渡り合ってきた。同社は、提供する食品の品質向上と安心・安全に注力し、2009年には国際規格の食品安全マネジメント「ISO22000」を県内の食品企業では4番目という早い段階で取得。その上位規格である「FSSC22000」を17年に取り、20年には経済産業省の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」にも選ばれた。
自社ブランドの開発や、海外市場への進出など、常に新しい挑戦を続ける信栄食品。22年に同県の塩尻エリアに工場を新設し、それを機に取り組んだのが、DX化推進だ。 「従来の電話やファクスなどのアナログ業務は、細心の注意を払ってもヒューマンエラーは起こり得ます。1カ月に200種類ものギョーザを製造する中、顧客管理、生産管理の効率化に課題を感じていました。加えて少子高齢化による人材不足という社会課題があります。生き残り戦略の最善策として、DX化に踏み切りました」
そう語るのは、代表取締役の神倉藤男さんだ。少数精鋭で持続可能な経営を目指す手段に「DXは不可欠」と強調する。だが、社内にはデジタルスキルもデジタル人材も皆無だった。そこで、外部連携によってDX化を図り、その立役者に顧問として河西敏治さんを迎えた。 「DXは、単なる業務のデジタル化やIT活用ではありません。経営基盤の強化と利益最大化が目的です。従来の属人的作業を、AIを活用した標準作業に統合し、情報をリアルタイムに共有、処理できる経営プラットフォームをつくる。つまり〝信栄食品固有のインフラ整備〟です」(河西さん)
プラットフォームの設計を河西さんが担い、システム開発やデータ入力などの実務を、外部の信頼できる開発企業に委託した。
膨大なデータ整備は外部に、導入コストは国の中小企業省力化投資補助金を活用した。従業員に負担をかけずにDX化を進めたが、社内外の抵抗は少なからずあったという。 「勤続年数が長い人ほど、その傾向は強く、社外の取引先でもメールのシステムを変えるのに2年もかかったケースがありました。DXのメリットを繰り返し説明し、理解してもらうしかありませんでした」と神倉さん。