多くの中小企業にとって大きな悩みのタネとなっている人手不足。その一方で、こうした状況に手をこまねいているのではなく、DXや多様な人材活躍、選択と集中の徹底など独自の戦略を打ち出し、「少人数」を「強み」に変えている企業がある。成長を続ける企業の経営者たちの取り組みとその考え方に迫った。
社内のムダ排除、作業は自動化し観光土産からネットギフトへ
長崎心泉堂は、長崎空港近くに位置し、主に団体観光客向けの土産物としてカステラを販売していた。しかし、団体旅行の減少など環境の変化により、ネット通販へとコア事業の転換を図ってきた。コロナ禍後には観光部門を廃止し、現在はネット通販のギフトショップとして事業展開している。同社では、社長自らが現場に入り、徹底的にムダを排除することで、省力化や効率化を行っている。
団体客向け観光土産が低迷 ネット通販に挑戦
長崎県大村市にある長崎心泉堂は、1976年に団体観光客向けドライブイン型店舗として創業した。観光は季節によって来店客数が違い、売り上げに差が出る。さらに1日の中でも、混雑する時間帯と手待ち時間があり、創業当初から非効率な運営をせざるを得なかった。同社は一時、空港や温泉地近くなど、最大で3店舗を構えたが、団体旅行の減少といった時代の変化とともに、売り上げは低迷する。そんな中、二代目社長の中島潤一さんは、2008年にネット通販を開始した。 「少しでも売り上げを補填(ほてん)できれば、という思いでした。でも社内では、ネット通販でカステラが売れるなんて、誰も思っていなかったんです」と、中島さんは当時を振り返る。当時はまだネット通販の黎明(れいめい)期で、同社は商品写真や訴求方法を工夫した。当初は、ネット通販でも長崎土産としてカステラを販売していたが、母の日や敬老の日といったギフト需要に着目し、打ち出し方を変えていった。さらに、カステラ単体ではなく、コーヒーやお茶などとのセット販売を始め、商品ラインアップを拡充していった。その結果、ネット通販開始から4年後の12年には、観光部門と通販部門の売り上げが拮抗(きっこう)するまでに成長した。従業員たちは、観光部門と通販部門でお互いに応援し合う体制となった。
「やめるとは改善の一歩」 社内業務のムダを排除
中島さんは、ネット通販の強みとして次の4点を挙げている。
①24時間365日無人で注文を受けられる②顧客情報が自動的に入力される③PCを活用した大量注文の一括処理ができる④顧客の声(レビュー)を商品開発や改良に生かせる。 一方で、ネット通販が一般に普及し、さらにスマホが登場すると、競争が激化して「やるべきことが増えた」という中島さん。顧客を増やすために、ブログを書いたり、複数のSNSを運用したりと、はやり廃りが早いネット上のさまざまなことに対応した。 「あれもこれもやろうとすると、全部中途半端になるんです。だから、成果が上がりにくいものは、やめることにしました」と中島さんは語る。こうした決断をするようになったきっかけは、5年ほど前、大村商工会議所が開いた、とあるセミナーを受講したことだった。 「当時、業務を改善することは、何かをやることだと思っていました。ところが、そのセミナーで、やめることは改善の第一歩と聞きました。当時の私にはそんな考えはなかったので、驚きました」と中島さん。それ以来、社内の業務をつぶさに見て、ムダと思うことはやめることにした。