航海に地図と羅針盤が欠かせないように、地域づくりにも客観的なデータが不可欠である。 今回は、四国のほぼ中央に位置し、四国横断自動車道や徳島自動車道により特に高知・松山方面との結節点となっている三好市について、まちの羅針盤(地域づくりの方向性)を考えたい。
制約を強みに
筆者年代には「やまびこ打線」が懐かしい三好市だが、同市の可住地は吉野川沿いや支流の谷間に点在する平地に限られ、総面積約720平方キロメートルのうち約13%にとどまっている。このような地理的制約は、都市計画などの足かせとなる一方で、都市機能を集約させ交通結節点としての拠点性を高める要因にもなっている。さらには、豊かな自然環境を生かした観光など、地理的制約が地域の特徴づけにもつながっている。
こうした地理的特徴は、三好市の産業構造にも反映されている。海沿いの平地を持たないため、製造業(「建設業」を除く第2次産業)の立地は限定的で、地域の生産額に占める割合は約20%、付加価値額(GRP=地域内総生産)では10%程度にとどまっている。一方、交通の要衝という拠点性を背景に、医療や介護などの「保健衛生・社会事業」「公務」「小売業」など、地域の暮らしを支え、コミュニティーの基盤ともなる労働集約的な産業の比率が高い。
しかし、こうした地域経済を脅かす最大の課題は、他の多くの地域と同様、少子高齢化に伴う労働力人口の急減である。2020年には1万人を超えていた労働力人口が、現在の労働参加率のままでは40年には5200人、50年には3400人にまで減少する見込みだ。
地域ぐるみで楽しい職場を
本連載で繰り返し述べている通り、持続可能な地域経済を確保するためには、「生産→分配→支出」と所得が流れる地域経済循環を強く太くする必要がある。
三好市の地域経済循環(2020年)を見ると、GRPは約900億円であるが、市内の労働力不足から市外居住者を雇用せざるを得ず、雇用者所得として42億円が流出している。また、商品やサービス(の原材料など)を市外から移輸入に依存しているため、地域の貿易収支などに当たる域際収支は254億円の赤字と、GRPの3割弱に相当するマイナスである。
結果、観光客など市外からの来訪者が市内で消費しても、そのお金の多くが市外に流出してしまうため、地域内に経済効果が定着しづらい構造となっている。これも、労働力不足により地域資源の活用が進んでいないことが一因と考えられる。
こうした状況を打開するためには、官と民の役割分担を超えて、地域全体で取り組むしかない。例えば、三好市の労働参加率を現在の51.3%から、徳島県平均の58.5%、さらには福井県平均の64.5%にまで引き上げることができれば、労働力人口の底上げが期待できる。そのためには、業務の標準化やパワーアシストスーツなどウェアラブル支援機器の普及・社会実装といった取り組みを、地域ぐるみで進めていく必要がある。
こうした取り組みを進めている地域はいくつもあるが、それらに共通するのは、「地域を丸ごと職場に」「地域ぐるみで働きやすさを追求する」姿勢である。三好市もまた、地域資源と人材を最大限に生かすための創意工夫が求められている。
幸いなことに、三好市で労働力が求められているのは、コミュニティーを支えたり、地域資源を活用したりするといった働きがい、やりがいを感じる仕事である。誰もが参加しやすい、したくなる就業環境を整えることが関係人口を生み、移住定住につながる可能性もある。
人口減少という逆風の中で、地域経済の未来を開くには、誰もが参画できる「楽しい職場づくり」と「官民連携による全員参加型のまちづくり」が鍵となる。
他地域に学び、地理的な制約を逆手に取った独自の成長モデルを描くことこそ、三好市にふさわしい「まちの羅針盤」である。
(一般財団法人ローカルファースト財団理事・鵜殿裕)