「使えない木」とされてきた素材に、命を吹き込んだ企業がある。青森県弘前市のブナコ株式会社(倉田昌直社長)は、東北地方に豊富に自生するブナ材を活用し、国内外から高い評価を得るブランドを築き上げた。
ブナは水分含有量が多く、反りやすく割れやすいため、建材や家具用材としての利用は限定的だった。一方、青森県は全国屈指のブナの産地であり、未利用資源が眠っていた。
ブナを生かす独自技法が考案されたのは1956年、当時の青森県工業試験場でのこと。原木を薄くスライスしてテープ状に加工し、それを巻き重ねながら成形するというものだ。この技術によって、軽量で割れにくく、美しい曲線を持つ製品開発が可能となった。 技術は63年に倉田社長の父が創業したブナコに移管され、親子2代にわたって試行錯誤を重ね、製品価値を高めてきた。今日、木の温もりを感じる優しい質感と、モダンなデザインの融合は国内のグッドデザイン賞や海外のデザインフェアでも高い評価を得ている。
従来の木工製品に比べて端材の発生が少なく、環境負荷の小さなものづくりを実現している点でも先進的だ。「森林資源が豊富である一方で、それを生かしきれていない地域が多い。ブナコはその可能性を広げるきっかけになりたい」と倉田社長は語る。無価値とされてきた素材を「未来の資源」へと変える同社の取り組みは、地域経済と環境保全を両立させる持続可能なビジネスの好例である。
食器から照明へ新たな市場開拓
当初は菓子器や茶托などの小物製品が主力だったが、徐々に照明器具やインテリア分野へと事業領域を拡大。とりわけ、木を巻き上げて光を包み込むようなデザインのペンダントライトやスタンド照明は、柔らかく温かい光を生み出し、住宅やホテル、飲食店など多様な空間に導入されている。
照明の分野は電気機器としての安全性・耐久性はもちろん、インテリアとしての高いデザイン性が求められる市場だ。同社はこれらの要件をクリアする製品開発力と品質管理体制を整え、新たな顧客層の開拓に成功している。
例えば、弘前市にあるスターバックス弘前公園前店では、ブナコ製の照明器具が採用されており、和洋折衷の空間に温かみを添えている。こうした地元の魅力と調和するデザインが、地域の観光資源としての価値も生み出している。
さらに海外の評価も高く、欧州やアジアの高感度なインテリア市場において「BUNACO」は日本発のサステナブルデザインブランドとして認知されている。自然素材の活用や環境配慮への関心が高い北欧やドイツ市場では、共感を呼ぶ存在となっている。
地方発でありながら、世界の舞台で勝負できる。その源泉は、「大量生産・大量消費」に頼らない、小さな資源から大きな価値を生む思想と技術にある。
体験から深まる商品の魅力と価値
ブナコの魅力は、製品そのものの美しさや機能性にとどまらない。弘前市の隣、世界遺産・白神山地の玄関口、西目屋村にある工場では、製作体験や見学を通して商品の価値を直接伝えている。
工場見学では原木がスライスされ、テープ状に加工され、それが職人の手で巻かれて器や照明器具へと変化していく様子を見られる。素材が形になるプロセスを間近で体験することで、購入者の製品に対する理解と愛着は格段に高まる。
また、製作体験ワークショップでは、実際にブナ材を巻いて器やカップをつくることができ、自分だけのオリジナル製品を手にできる。
「自ら手を動かすことで、素材の柔らかさや手仕事の難しさを実感できる。その体験が価値を深めるのです」と倉田社長は語る。こうした体験を通じて、購入者は単なる「消費者」ではなく「共感者」となっていく。それは商品にとって何よりも強いブランド力となる。
地域資源に新しい命を与え、世界市場に届ける。同社の挑戦は、地方の中小企業にとっての希望の灯である。技術と哲学、そして地域への思いが重なり合った商いが、いま確かな支持を集めている。
(商い未来研究所・笹井清範)