先日の東京都議会議員選挙では、最大勢力だった自民党が大敗し、都民ファーストの会が第1党となった。小池知事の都政が都民の信任を得たことになる。東京都は、充実した子育て支援策、高校生までの医療費助成など手厚い行政サービスを展開している。しかしそれらは豊かな財源がなければ実現しない。大企業の本社が集積し、好待遇を求めて地方から人々が集まるグローバル都市だからこそ可能なサービスだ▼
30年ほど前、地方の自主性を高めるため地方分権改革が始まった。財源と権限をセットで地方に委譲することで、自治体の裁量が拡大した。しかし、地方の多くは東京のような恵まれた条件にない上、人口減少も進行する中で、財源の確保に窮している。福祉などの民生費が膨張し、基礎的な行政サービスの供給もままならない。改革が思い描いた姿と現実とは乖離(かいり)する▼
東京と地方の財政格差を是正するには東京の財源を地方に配分すればよいが、地方税収の配分を巡っては「東京対地方」の対立となり合意は不可能だ。これを打開するための一つの方策は、基礎的な行政サービスにかかる財源については国が負担し、実施に関しては地方自治体に委ねることだと専門家は指摘する。例えば、生活保護や義務教育など基礎的な行政サービスは国が責任を持って財源を確保する。いわば、「国は金を出すが口は出さない」の方針である。こんな都合のよい話は通常は通らないが、地方が起死回生を図るためには十分検討に値する▼
石破内閣は「地方創生2・0」の議論を始めた。地方分権改革の原点に立ち返り、地方の自主性を引き出すために国が果たすべき役割とは何か、それを根本から問い直す時だ
(NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)