2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)は4月13日の開幕から3カ月がたち、連日盛況を博している。さらに盛り上がることが見込まれる夏休みを前に、ぜひ来場をお薦めしたいパビリオンが、「REBORN」をテーマとした大阪ヘルスケアパビリオンである。今回は、同パビリオンの見どころと、そこに出展する関西企業の技術力の高さ、各社の狙いを紹介したい。
化粧品メーカーが繊維企業と連携 「光合成する服」開発・展示
大阪市中央区にある桃谷順天館は、今年で創業140年を迎える老舗化粧品メーカーである。長年、肌の細菌に着目して独自の技術開発を進めてきた同社は、その技術を活用し、保湿性の高い繊維を開発した。同社は大阪の繊維関連企業と共に、大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンで「光合成する服」という未来のファッションを、9月23~29日に展示する。
肌の研究分野で幅広く外部と連携する組織を持つ
桃谷順天館の始まりは1885年、創業者がニキビに悩む妻のためにつくった「にきびとり美顔水」を発売したことに由来する。それ以来、同社は皮膚の細菌に関する研究を続け、現在は自社ブランド「明色化粧品」の製造販売に加え、他社製品のOEMも手掛けるなど、事業内容は多岐にわたる。
同社の長年の研究成果は、新たな素材の開発へとつながっている。開発を主導するのは、皮膚や化粧品の研究機関とは異なり、経営と直結した組織となっている「桃谷総合文化研究所」だ。同研究所所長の杉野哲造さんによれば、専任スタッフに加え、インターンや副業人材、外部協力者など、多様な人材がさまざまなプロジェクトに関わっている。 「外部のスタートアップ企業や異業種との連携を促進し、迅速な意思決定を可能にすることで、新しい技術やアイデアを柔軟に取り入れることが目的です」と話す杉野さん。
桃谷順天館では、悪い菌だけを選択的に殺菌する技術を開発した。同研究所では、この技術を応用し、繊維関連企業と共に「モイストファイバー」という繊維を開発し、2019年に特許を取得した。この繊維は、同社が開発した成分を練り込むことで、着用するだけで肌のスキンケア効果を発揮するという画期的な特徴を持つ。同社では、ファッションやアパレル関連企業との共同研究を進め、この繊維を使ったマスクを開発するなど、肌トラブル対策商品を展開している。
万博で異分野へ挑戦 「光合成する服」で描く未来
桃谷順天館が大阪・関西万博に出展するきっかけとなったのは、大阪ヘルスケアパビリオンに設置された「リボーンチャレンジ」というエリアの公募枠である。これは、中小企業やスタートアップ企業が持つ新しい技術やアイデアを生かし、未来社会の具体的な提案を募集するもの。そのテーマの一つに、大阪商工会議所と協同組合関西ファッション連合が主催する「サステナブルに基づく繊維・ファッション産業の未来共創プロジェクト」があり、出展企業が協力して「未来のファッション」をイメージした展示物を共創する。同社と繊維関連企業であるオーミケンシ(大阪市中央区)、東紀繊維(大阪市中央区)、マツオインターナショナル(大阪市中央区)は、23年5月から協議を重ね、「光合成する服」「透明に見える服」「希望の服」という、ファッションの可能性を広げるような展示を企画した。
このうち「光合成する服」は、大阪の公園面積が全国で最も少ないといわれていることへの問題意識から生まれた。この服は、生地から直接、本物の植物が生えている。特殊なメッシュ状の生地に種子を植え付け、裏地には前述のモイストファイバーを使用することで、保湿性を担保し、植物育成に大きな役割を担う。9月23~29日の展示に向け、各企業の担当者が生地に植え付けた種子から植物を育てているが、なかなか思うようにいかない。 「洋服のデザインに合うように、複数の種類の植物を育てていますが、種子からようやく芽が出たと思っても、緑色の葉が茂る前に枯れるものもあって、難しいです」と杉野さんは苦笑する。当初は、出来上がった洋服に種子を植え付けていたが、うまく育たずに洋服が無駄になるため、現在はパーツごとに植え付けて育て、それらを合わせて1枚の洋服にする予定だ。
同社では万博で、「光合成する服」などの展示に加え、肌の善玉菌と悪玉菌をキャラクター化してホログラムで可視化し、それに触れることで悪玉菌が消える体験型コンテンツも提供する。これは、体験した人の肌の健康への意識を高めると同時に、同社の皮膚細菌研究を分かりやすく伝える試みでもある。
化粧品の枠を超える 新たな領域を目指す
桃谷順天館は、大阪商工会議所との連携も積極的に行っており、同所主催のスポーツイベントには、22年から連続で出店している。同社は皮膚細菌に関する知見を生かし、近年では腸内フローラの研究も行っており、そこから生まれた大豆の飲料、ソイラテなどをキッチンカーで提供してきた。このイベントでは、近畿大学経営学部松本ゼミの学生チームとコラボレーションし、学生が売り子として参加するなど、地域と若者との連携にも力を入れている。また、同所からの紹介で、新たな企業とのつながりも生まれている。
同社は今後の展望として、化粧品という枠を超え、「美と健康の総合カンパニー」を目指す。化粧品を軸としながらも、エステや医療、そして新たに挑戦している食品分野など、美と健康に関する幅広い領域で、顧客に価値を提供していく方針だ。万博出展を機に、東京の取引先を大阪に招いて商談の機会を設けるなど、ビジネスチャンスも拡大している。桃谷順天館は自社の研究開発や技術を生かし、異業種との連携を活用しながら、人々の美と健康を多角的にサポートする企業へと進化を続けている。
会社データ
社 名 : 株式会社桃谷順天館(ももたにじゅんてんかん)
所在地 : 大阪府大阪市中央区上町1丁目4番1号
電 話 : 06-6768-0610
HP : https://www.e-cosmetics.co.jp
代表者 : 桃谷誠一郎 代表取締役社長
従業員 : 401人(パート含む)
【大阪商工会議所】
※月刊石垣2025年7月号に掲載された記事です。