深海、宇宙などの未知の新分野へ挑むハードルは高いが、果敢に挑戦している中小企業がある。自社の技術で新領域のビジネスに挑む経営者の発想力と行動力が、次の飛躍につながっている。
観測衛星の共同開発を契機に半導体分野にも進出
船舶や運搬機などの機械部品製造を軸に70年以上の歴史を刻むニシジマ精機。近年では航空宇宙分野への参入を目指してJISQ9100を取得し、地球低軌道環境観測衛星「てんこう」の共同開発にも参加。その技術力に着目した半導体製造装置メーカーから新たに部品加工の依頼が舞い込むなど、成長産業への事業拡大にまい進している。
航空宇宙産業への参入を目指して県の研究会に参加
2018年10月29日、JAXAの種子島宇宙センターからH-ⅡAロケット40号機/温室効果ガス観測技術衛星「いぶき2号」の打ち上げが成功したことはご記憶にあるだろうか。このH-ⅡAロケットには、地球低軌道環境観測衛星「てんこう」が搭載されていた。「てんこう」は、地球低軌道のさまざまな宇宙環境をリアルタイムで測定し、情報を即時公開することが目的の衛星だ。17年、その開発を行っている福岡県北九州市の九州工業大学(九工大)の奥山圭一教授から共同開発の提案を受け、大分県内の企業4社が名乗りを上げた。その1社がニシジマ精機だ。 「私はもともと航空機産業の仕事に興味があったので、16年に県が立ち上げた航空宇宙産業参入研究会「そらけん」に参加し、JISQ9100(航空・宇宙分野の品質マネジメントシステムの国際規格)の取得にも乗り出しました。その本気度を知ってか、『てんこうプロジェクトを一緒にやりませんか』とお声掛けいただいたんです」と、同社社長の西嶋真由企さんはきっかけを振り返る。
こうして同社のほか、精密機器の躯体(くたい)製作、電気・通信管理、ITソリューションにそれぞれ強みを持つ4社と九工大との共同開発がスタートした。
「てんこう」の打ち上げ成功で新たな依頼が舞い込む
同社は長年機械部品製造を扱ってきたスキルを生かし、アルミ合金などを使った軽量内部構造を担当した。中に搭載する電子部品を守る骨組みだ。 「当初は何も分かっていなかったので、『何だか楽しそう』くらいの軽い気持ちでした。ところが、図面を見た瞬間『これはヤバイぞ』と。ロケット打ち上げ時の振動に耐えるために溶接は一切使わず、塊から削り出して成形しなければなりません。それも厚さ1㎜レベルの高度な技術が求められ、試作を重ねる日々が続きました」
西嶋さんは九工大の研究チームとの連携を円滑にするため、同社開発チームのリーダーに女性を、副リーダーに高卒で入った若手社員をそれぞれ任命した。大学院生とやりとりする上で、年齢は近い方がコミュニケーションがスムーズになり、信頼関係を構築しやすいと考えたのだ。その2人をベテランの職人たちがサポートするという形がうまく機能し、開発期間が1年ほどしかない中、JAXAの検査を3回でクリアすることができた。
社内が一丸となって新技術にチャレンジしたのだが、驚いたことにこの開発事業に対する報酬はなく、掛かった経費はほぼ自腹だったという。 「県の事業として補助金を申請することもできたんですが、4社ともこの仕事でもうけようと考えていたわけではなく、『手弁当でやろうよ』と。ただ、今にして思えば、お金の配分でもめずに済んだことが、4社がうまく連携できた大きなポイントだと思っています」
H-ⅡAロケットは無事打ち上げに成功し、プロジェクトは有終の美を飾った。県が大々的にプレスリリースしてくれていたこともあり、4社は世間から注目を浴びることとなった。さらに、NHK大分が同プロジェクトの特集を組み、九州全域に放送されたことで、同社の知名度は飛躍的に向上した。それを受け、同社に思いも寄らない仕事の依頼が舞い込む。 「ある半導体製造装置メーカーが重要部品の加工を50社くらい断られ続け、困り果てて当社を頼ってこられたんです。図面を見て『これは難しい』と、最初は断るつもりだったんですが、先方から『こんな仕事をお願いして申し訳ない』と頭を下げられて、つい『分かりました。やりますよ』って言ってしまったんです」
事業拡大に合わせて即戦力人材が集まるように
高精度の加工技術が求められるが、設備が整えばできるというもくろみがあった。そこで本社工場とは別に、大分市内に半導体関連部品製造に特化した工場を新設。当初は、一つの加工に4カ月もかかっていたが、試行錯誤の末に4週間への短期化を実現した。さらには、それまで外部発注していた機械メンテナンスに特化した工場もつくり、設計、試作、部品製造、保守点検を自社でカバーし、対応力を高めながらリスク分散を図る体制の構築を進めている。 「事業拡大に合わせて、即戦力となる良い人材が集まるようになってきました。これも元をただせば、てんこうプロジェクトへの参加や国際規格の取得から好循環が始まったと感じています」と振り返り、こう続ける。「現在、『てんこう3』プロジェクトが始動しているほか、鉄道装置の部品加工の仕事も新規受注しており、着実に新分野を開拓している手応えがあります。『何事もチャレンジしてみる』の精神で今後もやっていくつもりです」
会社データ
社 名 : ニシジマ精機株式会社
所在地 : 大分県佐伯市大字戸穴469
電 話 : 0972-27-6633
HP : https://nisijima.jp
代表者 : 西嶋真由企 代表取締役社長
従業員 : 64人
【佐伯商工会議所】
※月刊石垣2025年7月号に掲載された記事です。