Q パート・アルバイト社員から、「社会保険の加入要件を満たさないで済むように、所定労働時間を減らしたい」と相談を受けました。当社が人手を確保する上で、このような申し出全てに対応するのは難しいです。このような要望に対し、どこまで対応すべきでしょうか。
A 所定労働時間は雇用主と労働者の合意に基づいて締結される雇用契約の一部であり、これを変更するには、労使双方の合意が必要です。そのため、労働者から変更の申し出があった場合に、会社側に変更を受け入れる義務はありませんが、実務的には、柔軟な対応が求められる場面も多く、会社として、本人との信頼関係を保ちながら、業務への影響を最小限に抑える調整を行うことが重要です。
所定労働時間は、雇用契約の一部であり、これを変更するには労使双方の合意が必要です。雇用契約は、雇用主と労働者の合意に基づいて締結されるため、労働者から「所定労働時間を減らしたい」との申し出があった場合も、会社が必ずしもその変更を受け入れる義務はありません。
短時間労働者と社会保険
2024年10月1日、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用事業所の範囲が、被保険者数100人を超える事業所から、50人を超える事業所へと拡大されました。社会保険は、短時間労働者の場合、適用事業所で働く「週の労働時間が20時間以上30時間未満」「賃金が月額8・8万円以上」「雇用期間が2カ月を超える見込み」「学生でない」という全ての要件を満たす人が加入対象となります。改正により新たに社会保険への加入が必要となり、保険料の自己負担が発生したパート・アルバイト社員から「手取りを減らしたくないから所定労働時間を減らしたい」と申し出を受けた事業所も見られました。
前述の通り、雇用契約は雇用主と労働者の合意に基づいて締結されるため、社会保険の適用要件を満たしたくない短時間労働者から労働時間短縮の申し出を受けた場合でも、会社が必ずしも変更を受け入れる義務はありません。ただし、実務上はパート・アルバイト社員が退職してしまうと、人手確保が難しくなる場合があります。また、パート・アルバイト社員との関係維持にも影響があるため、柔軟な対応で良好な関係を保つ必要があるといえます。
実務的な対処方法
①相談を通じた調整・対応
パート・アルバイト社員から所定労働時間変更を求められた場合、本人に申し出の理由を確認し、相談の上で調整することが重要です。
・労働時間の変更を検討:所定労働時間を減らすことが可能かどうかを検討します。変更後の業務体制やほかの社員への影響も考慮する必要があります。
・代替案の提示:保険料負担による手取り減少をカバーできるだけの労働時間を増やす、時給を見直し手取り減少分をカバーする、キャリアアップ助成金社会保険適用時処遇改善コースを利用して手取りの減少および会社負担分の軽減を行うなどが考えられます。
②人手確保の観点からの柔軟性
退職を避けるために、ある程度の要望を受け入れることも選択肢の一つです。ただし、どの程度まで柔軟に対応するかは、会社全体の業務量に与える影響、ほかの従業員への公平性、社内規程や指針との整合性などの基準を事前に定めておく必要があります。
③契約時点での条件設定
将来的な法改正や適用拡大を見据え、パート・アルバイト社員の雇用契約において、労働時間変更に関する具体的なルールを雇用契約書に明記することで、トラブルを未然に防ぐことにつながります。
会社は中長期的な視点で対応策を講じる必要があり、例えば、社会保険適用拡大の背景や社会保険加入のメリットをパート・アルバイト社員に丁寧に説明することで、納得感を高められます。また、社内規程や就業規則の見直しを行い、社会保険加入要件を満たした場合は、加入する義務があることもあらかじめ明確にしておきましょう。
(社会保険労務士・吉川 直子)