2023年9月、西条商工会議所青年部(以下、西条YEG)初の対外事業であるYEGフェスが開催された。コロナ禍で失われた学生の活動や取り組みの発表の場を取り戻すことは容易ではなく、YEGとして地域に何ができるだろうと考え、決意した。また、かねてより卒業を機に市外へと流出する若者が多いことから、まち全体の高齢化に歯止めをかける手段を模索。さまざまな思いを胸に始まったフェスの開催から、今後の計画についても取材した。
コロナ禍に負けるな!!“赤ポロ軍団”の決意
2019年度末、コロナウイルスの流行により緊急事態宣言が発令。大きなイベントのほとんどが中止となり、学生の取り組みや発表の場が途絶えてしまった。23年5月に感染症法上の位置付けが「5類」に移行したことで、日常生活は戻りつつあったが、一度失われた発表の場を取り戻すのは簡単ではなかった。今までは、西条YEGのメンバーたちも、西条市で行われるイベントの主催者の手伝いを行うことで結束や団結を図っていたのだが、そんな場もなくなってしまった。
イベントの手伝いをするときはおそろいの赤いポロシャツを着用することから、地元で“赤ポロ軍団”として親しまれてきた西条YEGのメンバーたち。コロナ禍でこのままでいいのかと悩み考え、そして立ち上がった。「もう一度みんなで一致団結できる場を、自分たちの力で企画しよう」。こうして、メンバーたちは初の対外事業であるYEGフェスの開催を決意した。
数々の困難を乗り越えて「YEGフェス」を初開催
初めての経験だったものの、開催までの準備期間は約半年間しかない。急ピッチで計画を遂行する必要があったため、実行委員会を募り、すぐに動き出した。最初の壁は、どこで開催すればいいのかという場所の問題。そこで、実行委員会で高校生に焦点を当てようと決めていたのをヒントに、同市の中心にあり、四方を豊富な水源を利用した水堀で囲まれて、今もその面影を色濃く残している全国でも珍しい旧西條藩陣屋跡に建つ愛媛県立西条高等学校付近での開催を決定した。だが、そこからがまた大変で、市への後援をはじめ、通行止めを行う範囲の判断、道路や水堀の使用許可など、さまざまな申請をしなくてはいけなかった。
数々の困難も力を合わせて乗り越え、無事に開催日を迎えることができた。当日は多くの人が来場したにもかかわらず、準備をしっかりと行ったおかげで大きなアクシデントは避けられた。これも、西条YEGメンバーの結束があったからこそできたことである。YEGフェスの創設者である2023年度西条YEG会長の津島英輔さんは「コロナ禍で、ダンスのイベントなど発表の機会を失った子どもたちに場をつくることができた。出場者だけでなく、そのご両親や親族の方たちまでみんなの笑顔を見ることができ、開催して良かった」と振り返る。
高校生と企業とのつながりの場に
翌年、開催された第2回のフェスでは、手続き方法などすでに経験していることが多く、段取りがスムーズに進行したため、新たに高校生と企業のつながりの場が持てるような企画を盛り込むことにした。一つ目の目玉は、愛媛県を中心に活動する「愛媛プロレス」の興行。ファミリーで楽しめるようなエンターテインメントを誘致した。リングサイドのさまざまな場所に協賛広告を募集することで、地元企業にもフェスに参加してもらいながら、それを見る家族に地元企業の名前を覚えてもらう良いきっかけになった。
二つ目は、地元高校生による書道パフォーマンス。映画「書道ガールズ!!」の舞台・撮影地として全国にその名を発信した隣接の四国中央市は、書道用紙はもとより、古くから良質の紙を生産する地域として栄え、今では紙製品出荷額全国1位の紙のまちとして知られている。その影響で、西条市でも盛んな書道を生かそうと企画した。横約8m、縦約4mの大きな紙に高校生の思いを表現してもらい、クレーン車を使って水堀沿いに展示し、とても迫力のあるイベントとなった。その他市内5校の高校生によるテントブースや、20以上の飲食店ブース、吹奏楽部のオープニングアクト、水堀でのカヌーやサップ体験など、多彩な企画で大いににぎわい、約3000人を超える来場者が訪れた。
西条の未来を見据えたイベントにしていきたい
西条市は社会人になって地元を離れる若者が多く、かねてより人口減少や過疎化が問題となっている。この事業を引き継いだ2024年度西条YEG会長の友澤祥文さんは、「西条YEGが先頭に立ってこのようなフェスを開催したことで、学生と企業が協力し合い西条の魅力を再認識していただきたい。さらに、卒業後も地元に残ってもらうきっかけになればいいですし、県外に出た学生が就職でまた戻ってきたくなるような魅力あるまちづくりに寄与していければ」と話した。
現在、第3回に向けて実行委員会が動き始めている。前年より継続しやすくするための工夫を考えたり、地元企業と高校生のコラボレーションも計画したりしている。これらのイベントを通じて西条の良さを知ってもらうことが、同市の未来を担う若い力の活躍の礎(いしずえ)をつくるきっかけになることは間違いないだろう。“赤ポロ軍団”こと西条YEGが行うフェスから目が離せない。
【 西条YEG 】
会 長 : 萬條 雅之
会員数 : 89人
創 立 : 1982年
スローガン :「礎~未来へ繋ぐ確かな地盤づくり~」
HP:http://www.saijoyeg.jp/
編集後記
吉田慶彦(桐生YEG)
初開催の対外事業をわずか半年間で立ち上げるエネルギーは相当なもので、西条YEGの団結力や地元愛を強く感じました。高校生と企業が同じベクトルを向いて一つの事業をつくり上げていくYEGフェスは、これから回を重ねていくごとに成果が表れてくるだろうと感じました。
YEGの仲間が力を合わせて地域の永続について向き合い、そこに住む若者や家族の笑顔がつくられていると思うと、すてきな事業を取材させていただきました。この記事を通じて発信することで、西条YEGさんのような取り組みを自単会でもやってみたいと思っていただけたら幸いです。
取材:日本商工会議所青年部(日本YEG)広報委員会 石垣チーム/写真提供:西条商工会議所青年部