1990年の創業から3代にわたって、九州南部に伝わる「ふくれ菓子」を専門に製造・販売してきた「まるはちふくれ菓子店」。その味は地域で親しまれ、客足の途切れない人気店となっている。近年では全国の人にも食べてもらおうと、家庭の電子レンジで手軽につくれるミックス粉も開発。ふくれ菓子全体の売り上げ増と知名度アップにつながっている。
ニッチな郷土菓子を扱う 地元でも珍しい専門店
ふくれ菓子は、鹿児島県や宮崎県など九州南部でつくられてきた郷土菓子だ。江戸時代、薩摩藩が琉球や奄美で黒砂糖の栽培や製造を独占し、藩の財源にしていたことから、この地域では黒砂糖を使った食品が多数生まれた。ふくれ菓子もその一つで、各家々でつくり田植えシーズンに食べたり、子どものおやつにしたり、手土産に用いるなどさまざまなシーンで重宝されてきた。まるはちふくれ菓子店は、そんな“家庭で親しまれてきた伝統菓子”とも言えるふくれ菓子を製造販売する専門店である。 「ふくれ菓子は、もともと地域のおばあちゃんが思い思いにつくってきたもので、大手メーカーが製造に参入するほどの規模ではありません。そんなニッチな商品だけを扱っている店は、この辺りでも珍しいんです」と同社代表取締役の木下(きした)真一さんは説明する。
ふくれ菓子の材料は、小麦粉、砂糖(黒砂糖)、卵、牛乳、そして重曹と至ってシンプルだ。それらを混ぜて型に入れ、釜で蒸し上げる。2倍以上にぷうっと膨れて中央部が割れた様が「ふくれ」と呼ばれるゆえんだが、重曹を入れ過ぎると、独特の苦みが出てしまい味を損なう。創業者である木下さんの祖母は、「おいしいふくれ菓子をつくりたい」と独自に研究を重ねて、材料の絶妙な配合バランスを見いだし、さらにうま味成分として酢を入れることで、ふんわりと優しい味わいのふくれ菓子を完成させた。それを友人宅への手土産に持って行ったところ、おいしいと評判になる。「ぜひ売ってほしい」という多くの声を受けて、1990年に同店をオープンし、2011年に法人化した。
手づくりの生産数と賞味期限が販路拡大のネックに
創業者のレシピは一子相伝で受け継がれ、現在その味を守っているのが三代目の木下さんだ。防腐剤や着色料などの添加物を一切使っていないため、子どもからお年寄りまで幅広い層から長年支持を受けている。現在、プレーン、黒砂糖、抹茶、ココアの定番4種類に加え、オンラインショップのみで扱う季節限定品として塩キャラメル、レモン、らっかしょ(落花生)、シナモン、きなこなどを提供しており、さまざまなフレーバーが楽しめる。主な販路は、同店やオンラインショップのほか食品スーパーやサービスエリアなどだが、好調な売れ行きを維持しているのは口コミによるところが大きい。あえてPRやSNSによる発信に重きを置かない理由は、一から手づくりしているので生産数に限りがあるからだ。 「私は、12年に都城に戻って家業に入ったんですが、先代の新規開拓をしない守りの販売スタイルを見て、もっと広範囲に展開すればいいのに、と感じていました。そこで販路を広げようと、東京や大阪などを中心に展示会に出展したり、バイヤーさんに商品をアピールするなどの営業活動に注力しました。それに合わせて、生産数も1日2000~3000個と大幅に増やしたんですが、夜中までフル回転で製造しなければならず、スタッフ全員がへとへとになってしまって。これでは続かないと、生産量の上限を1日1000個程度にすることにしました」
販路拡大のネックは、同商品の賞味期限とも関係している。生菓子だけに最大で3日と短く、「もっと賞味期限が長くならないか」とバイヤーから度々求められたという。しかし、祖母のレシピ通りに保存料や防腐剤を使いたくないため、木下さんはずっと解決策を模索してきた。そんな矢先、コロナ禍に突入する。おうち時間が増えたことに合わせて、食品メーカーが“レンジで簡単につくれるパック食品”に力を入れるようになったのをヒントに、電子レンジでつくるふくれ菓子の開発に着手した。 「材料は黒砂糖をベースに、九州産小麦粉、乾燥全卵、粉末酢、重曹と基本的に同じですが、黒砂糖の蜜玉をあえて残すことでコクを出し、他社との差別化を図りました。釜で蒸すのとは違って、電子レンジで2分半加熱するだけで試作ができるので、開発は思った以上に早く進み、膨れ具合も味わいも満足のいくものができました」
“レンチンふくれ”の開発で売り上げ増と販路拡大を実現
同商品は「レンジでふくれるふくれ菓子」(通称レンチンふくれ)と分かりやすいネーミングで、22年2月に販売を開始した。同年3月に開催された「宮崎フードアワード」で審査員賞を受賞したことで認知も広がり、新たに県内外の空港や百貨店、道の駅、雑貨店やセレクトショップなどの販路も獲得。発売から現在まで累計4万5000個を売り上げるヒットを飛ばしている。その相乗効果もあり、店舗販売のふくれ菓子も前年比10%増と好調な売れ行きだ。 「今現在の製造・販売数がちょうどいいなと思う半面、もっと全国の人に地域が誇る郷土菓子を味わってもらいたいという気持ちもあります。ふくれ菓子は、県内を中心とした販売形態を続けていこうと思いますが、レンチンふくれの方は、ニーズを見ながらOEMによる増産も視野に入れたいと考えているところです」と穏やかな口調ながら、明快に今後の展望を語った。
会社データ
社 名 : 株式会社まるはちふくれ菓子店
所在地 : 宮崎県都城市上長飯町12-1
電 話 : 0986-21-1415
HP : https://maruhachifukure.com
代表者 : 木下真一 代表取締役
設 立 : 2011年
従業員 : 8人
【都城商工会議所】
※月刊石垣2025年8月号に掲載された記事です。
