オフィス用品・事務機器の販売を手掛けていた近藤商会は、2007年に大胆な経営改革に踏み切った。在庫を抱え、営業マンが足で稼ぐ人海戦術のビジネスモデルから、無在庫のインサイドセールスへと転換。その後もDXを旗印に働き方改革や健康経営を推進し、「DXセレクション2025」では準グランプリを受賞した。
DXとはツールの導入ではない
DXは、デジタルツールを導入すれば達成できるものではない。函館に本店を構え、室蘭・苫小牧に拠点を持つ近藤商会は、変化する経営環境を見据え、事業構造そのものを抜本的に改革。
変革のかじを取ったのは、五代目社長の相川良夫さんだ。相川さんは、内田洋行で10年間、ITソリューションに携わり、DXという言葉が定着する以前からその本質を実践していた。33歳で親族が経営する近藤商会に入社し、2006年に社長に就任。翌年から本格的な改革を開始した。 「当時は、売上高46億円の“規模の大きいまちの事務機器屋さん”。仕入れ先は500社、従業員は160人。営業は訪問と電話、倉庫には2億円分の在庫を抱える人海戦術型のビジネスでした」。しかし、在庫管理は非効率な上、棚卸しのたびに損失が出る。さらに少子高齢化、労働人口の減少、地方市場の縮小という構造変化が進み、地縁・人縁頼みのフィールドセールスに限界が見えていた。
転機は、突然訪れた。 「法人向け通販のアスクルが進出してきたのです」。近藤商会が800円で販売していたコピー用紙の価格を、アスクルの東京の販売店が「298円」と提示。価格競争が激化した。通販では、地理的な距離は意味を持たない。相川さんは、フィールドセールスでは太刀打ちできないと直感し、アスクル正規販売店への転換を模索し始めた。
07年、アスクル事業を立ち上げるとともに、営業スタイルを一新。当初は、メール・電話・FAXによるアプローチが中心だったが、数年後、オンライン商談ツールを活用するインサイドセールスへと大転換したのだ。さらに「仕事のやり方を変えるなら、人事評価制度も変えなければならない」と、年功序列を廃止し、成果主義へ完全移行した。
当然ながら、社内には大きな波紋が広がった。倉庫業務の縮小により20人の整理解雇を実施。その後、方向性に賛同できない30人が自主退職。従業員数は160人から110人に減少した。さらに、旧来の営業スタイルに慣れた顧客の多くが離れ、売上高は16億円も減少。仕入れ先からも非難され、創業60年目で初の赤字決算(6月末決算)に陥った。「親族株主からは散々責められました」と、相川さんは苦笑交じりに振り返る。
背水の陣で迎えた2年目。あらゆる取引先からの信用を維持するためにも赤字決算は避けたい。そこで相川さんは3月末、自らの給与を半減し、社員には15%の減給を要請。その代わり「4〜6月で予算を達成すれば、減給分を上乗せした賞与を支給する」と約束した。この鼓舞が功を奏し、決算までの3カ月間で売り上げは大きく回復。減給分に上乗せした賞与を支給し、給与水準も元に戻すことができた。
3年目には「アスクル日売り400万円」を社内目標に設定。朝礼で毎日唱和し続けたことで、従業員の意識は大きく変わった。「日売り230万円が限界だったのが300万円を超えると一気に400万円に到達しました」
捨てる「勇気」と続ける「覚悟」
さらに追い風が吹いた。08年のリーマンショックで企業が業務効率化を志向。11年の東日本大震災では、東北の建設現場で事務用品の需要が急増。インサイドセールスという距離を問わない営業活動が威力を発揮し、新たな顧客獲得に成功した。
現在同社は、アスクル事業に加え、ICTインフラ構築、情報セキュリティ対策・BCP策定支援、オフィス内装提案といった多角展開を進めて売上高は約40億円、無借金経営を維持し、着実に成長を続けている。アスクル事業の28年の目標は売上高30億円、道外販売比率30%(現在の売上高は25億円、道外販売比率約20%)だ。
DX改革を成功させた核心について、相川さんはこう語る。 「まず必要なのは“捨てる勇気”。過去の成功体験を手放し、将来に最適な道を選ぶこと。そして、目標が正しいと判断したら“覚悟”を持ってやり切ること。もちろん、道は一つではありません。うまくいかなければ一旦立ち止まり、見直す柔軟さも必要です。DX改革の成功は改善の延長線上にあります。日常的に改善を積み重ねる文化を持つことが大切です」
同社のケースは、地域密着型の老舗企業が自らの存在意義を見つめ直し、DXを手段に事業を再構築した好例といえる。
わが社のDX推進成功のポイント
課題
・少子高齢化、労働人口の減少、地方市場の縮小という外部環境の激変が予想された
・格安の法人向け通販の進出により、地縁・人縁に頼った訪問御用聞き、人海戦術販売というビジネスモデルに限界を感じていた
DX推進のための工夫
・インサイドセールスを主体にした営業活動へと転換し、全国をマーケットとするビジネスモデルに業態を変えた
・オンライン商談に特化したツールを活用した
成果
・47都道府県全てに顧客を獲得し、商品在庫はほぼゼロになった
・2007年の変革当初、半減した売り上げは14年時点で変革前の水準に戻り、24年は14年比70%増となった
会社データ
社 名 : 株式会社近藤商会
所在地 : 北海道函館市西桔梗町589番地
電 話 : 0138-49-3311
代表者 : 相川良夫 代表取締役社長
従業員 : 50人
【函館商工会議所】
※月刊石垣2025年8月号に掲載された記事です。
