ウクライナ侵攻を正当化するロシアをどんな尺度で測ればよいのか。欧州とアジアにまたがる唯一の国がロシアである。長い国境と多民族という地理上の特徴を持つこの国を動かす内なる論理はユーラシア主義である▼
15世紀の末、チンギスハンの孫が建国したハン国(王国)のひとつ、キプチャクハン国を破ったイワン3世がモスクワ大公国を建国した。これにより、先進文明から取り残されたロシアの負の時代「タタールのくびき」(モンゴル支配)から脱した▼
共産革命でロシア帝国は滅びるが、ソ連時代にユーラシア主義(欧亜いずれでもない運命論)が提唱された。それから1世紀、ソ連の崩壊を「20世紀最大の地政学的惨事」と呼んだプーチン大統領の頭にあるのはネオユーラシア主義である▼
提唱者はロシア科学アカデミーのアレクサンドル・パナーリン。市場原理と切っても切れない西洋の民主主義は西欧にのみ適用すべきで、東洋と西洋を統合する使命を持つロシアは拒絶すべきと、欧亜をまたぐ盟主の独自性を説いた▼
03年にパナーリン亡きあと、思想面でプーチンを支えるのはアレクサンドル・ドゥーギンと目される。ドゥーギンの理論は、ユーラシア中央部をハートランドと定義した英国マッキンダー地政学の焼き直しだが、欧米の大西洋主義とは違う精神風土のロシアに独自の統治原理を求める▼
さらに現ロシアを東ローマ帝国の継承国家と見なし、国際秩序は主要アクターたる超大国が決めるという新帝国主義を標榜する。旧ソ連構成国を海洋勢力の大西洋主義から守るために再統合し、ユーラシアのリムランド(周縁)を構成する独仏、イラン、インド、日本を米英から引き離す必要があるとまで述べている。
(コラムニスト・宇津井輝史)