日本は、毎年のようにさまざまな自然災害に見舞われている。地域とともに成り立つ企業にとって、従業員はもちろん地域全体を守るための防災・減災対策は必須となっている。今号では、今後、地域企業が意識していくべき「レジリエンス」とは何かを解明するとともに、企業方針として自社と地域を守るさまざまな活動を行っている「レジリエンス企業」の取り組みに迫った。
*レジリエンス(Resilience)とは「弾力」「回復力」を意味する。企業活動においては、災害などの困難に直面した時の備えや迅速な行動=強靭化を指す
「地域への恩返し」の思い込め 社屋を地域に開かれた防災拠点へ
富山県砺波(となみ)市に本社を置く砺波工業は、地域の土木・建築を担う総合建設企業である。同社は、地域に根差した総合建設業として、インフラと人々を災害から守る企業姿勢を貫いている。2019年に完成した新社屋には、災害時に地域の人々を受け入れられるよう設備を整備し、地元住民とともに防災訓練を行っている。災害時の拠点として、ハードとソフトの両面で対応できる企業を目指す同社の取り組みが評価され、20年には「ジャパン・レジリエンス・アワード」(強靭化大賞)優秀賞を受賞した。
新社屋に込められた思い「地域への恩返し」
1944年に砺波市で創業した砺波工業は、長年、隣接する高岡市に本社機能を移し、砺波は本店としていた。しかし、創立75周年の2019年5月、新社屋完成を機に砺波へ本社機能を戻した。旧社屋が築50年以上経過し、建て替えを検討し始めたのが17年ごろのことで、同社が防災への取り組みを本格化させたのも同時期に当たる。 「建設会社は、災害時には真っ先に現場へ行き、復旧復興に携わらなくてはなりません。東日本大震災や熊本地震を経験した同業者の話を聞き、どこで災害が起きるか分からないから、われわれもしっかり備えなくては、と思いました」と言うのは、同社八代目社長の上田信和さんである。同社はBCP(事業継続計画)を策定し、18年には事業継続と社会貢献に積極的に取り組んでいるとして「レジリエンス認証」を取得した。
さらに、同社は「地域の建設会社として、地域の安全を守る」という社会的責任を果たすため、新社屋に災害時の防災拠点としての機能を加えた。具体的には、災害時に避難所として使用できるコミュニティスペース、災害対応型のガス供給システムや非常用発電機、屋上高架水槽などの設備、水や非常食などの備蓄も常備している。また、新社屋では社屋正面に伝統の祭り「となみ夜高(よたか)まつり」のあんどんをデザインとして取り込むというユニークな試みがなされた。これには「発祥の地、砺波への恩返し」という強い思いが込められている。
災害の教訓を生かす 実践的訓練と課題の発見
19年7月、同社は砺波市と、大規模災害時の指定避難所提供に関する協定を締結した。同年から毎年秋には、地元住民と連携した地域合同防災訓練を実施している。以前は社内だけの避難訓練だったが、地域貢献の一環としてオープンな訓練へと進化した。AEDの使用訓練、消防署による火災時の煙体験、消火訓練、段ボールベッドの組み立て訓練など、多岐にわたる内容である。約20人の地元住民も参加し、今では「毎年の行事」として定着している。訓練後には、備蓄しているアルファ米などの非常食を参加者に提供し、防災意識の啓発にもつなげている。また、遊びながら市内の主要避難施設を学べる「となみ ぼうさいすごろく」も制作した。
同社では、地域住民が気軽に立ち寄れるよう、ジャズコンサートの開催や、夏場に危険な暑さから身を守るための滞在場所「クーリングシェルター」としての開放も行い、建設会社のビルへの抵抗感を和らげている。
同社が防災対策を進める中、24年1月1日に発生した能登半島地震は、新たな課題を浮き彫りにした。砺波市は震度5弱の揺れだったが、社屋などに大きな被害はなかった。しかし、正月休み中の夕方という発生時間帯に「誰がここ(社屋)を開けるのか」という問題が発覚した。最終的には、社屋から最も近くに住む従業員が担当し、次点の担当者も決めて対応することになったが、緊急時の対応の難しさを痛感したという。また、安否確認システムとしてLINEグループを活用しているが、休暇中には社用のスマホを持ち歩かないため、従業員との連絡が困難になるという課題も明らかになった。
さらに、これまで地震対策に特化していたが、23年の記録的な大雨による水害も、同社の防災意識を変えた。市内を流れる一級河川・庄川(しょうがわ)の氾濫危機を経験し、水害対策の必要性を感じた。新社屋の建設時には、浸水の影響がないとされていたが、後に基準変更で50㎝の浸水可能性が示唆された。これを受け、今年に入り、非常用発電機の配管を高くする工事を実施し、水害時にも機能するよう対策を講じた。
これからも地域に必要とされる企業へ
砺波工業の取り組みは、単なる企業の事業継続にとどまらない。従業員の命を守り、地域の生活を支え、未来へとつなぐための揺るぎない覚悟と実践を物語るものである。同社の今後については「建設業の技術者が減少する中でも、地域インフラの維持や建物の修繕には技術者が不可欠です。当社がこの地域の受け皿となり、これからも地域に必要とされる企業であり続けたい」と上田さん。同社は、創業以来の「地元密着」の精神を受け継ぎ、地域に恩返しをする企業として、その役割を果たしていく。
会社データ
社 名 : 砺波工業株式会社(となみこうぎょう)
所在地 : 富山県砺波市中央町1-8
電 話 : 0763-32-3105
HP : https://www.tonamikogyo.co.jp
代表者 : 上田信和 代表取締役社長
従業員 : 約100人
【砺波商工会議所】
※月刊石垣2025年9月号に掲載された記事です。
