日本商工会議所はこのほど、2019年12月の商工会議所LOBO(早期景気観測)調査結果と共に、19年度における正社員の所定内賃金の動向ついてヒアリングした結果を発表した。正社員の所定内賃金を引き上げた企業(予定含む)は、18年12月調査比2・2㌽増の58・6%となった。その内訳は、業績の改善は見られないが賃上げを実施した「防衛的な賃上げ」が全体の39・1%で、同4・5㌽増となり、賃上げ企業の7割弱を占めた。一方、業績が改善しているため賃上げを実施した「前向きな賃上げ」は同2・3㌽減の19・5%となった。
防衛的な賃上げと前向きな賃上げを実施した企業を業種別に見ると、建設業、製造業、卸売業、小売業、サービス業の全5業種中、防衛的な賃上げは、18年12月調査に比べ5業種全てで増加。一方、前向きな賃上げは製造業、卸売業、小売業の3業種で減少した。
「現時点では未定」は18年12月調査比2・1㌽減の16・6%、「賃金の引き上げは行わない」は同0・1㌽減の24・8%となった。 賃金を引き上げる主な理由は「人材確保・定着やモチベーション向上のため」が90・8%と最も多かった。続いて、「最低賃金が引き上げられたため」が18年12月調査比4・1㌽増の27・0%、「新卒採用者の初任給や非正規社員の給与を引き上げたため」が同0・3㌽減の15・9%となった。
賃金の引き上げを見送る・未定の主な理由は「今後の経営環境・経済状況が不透明なため」が74・3%と最も多かった。続いて、「業績の改善が見られないため(見込み含む)」が18年12月調査比0・8㌽減の42・7%、「社会保険料の増加により会社負担が増えているため」が同3・3㌽増の19・9%となった。
ヒアリングした企業からは、「原材料費の高騰で製造原価が上昇しており、業績が悪化する恐れがあるため、賃上げについては今後の状況を見て判断」(水産食料品製造)、「賃上げは行ったが、人件費の増加分を販売価格に転嫁できていないため、利益の減少に歯止めがかからない」(食肉卸売)、「生産性を効率的に向上させるためには、従業員のモチベーションを引き上げる必要があり、事業環境は厳しいものの賃上げは避けて通れない」衣料品・雑貨小売)、「人員が慢性的に不足しているが、求人を出しても問い合わせすら来ない。募集賃金を引き上げようにも、経営が苦しく、厳しい状況」(食堂)といった厳しい経営環境を訴える声が寄せられた。
このように、18年12月調査と比較しても防衛的な賃上げの割合が増加しており、経営が苦しい中で賃上げを行っている中小企業の実態がうかがえる。また、最低賃金の引き上げや物価上昇を賃上げの理由に挙げる企業が増加するなど、外部環境の変化によるやむを得ない賃上げが増加していることが読み取れる。