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真壁昭夫の経済底流を読み解く 高まるわが国周辺の地政学リスク

これまで、わが国は日米安全保障条約に基づき、米国の影響を大きく受けてきた。そのため、つい最近まで、ほとんど地政学リスク(地理的な条件による政治的・軍事的リスク)を感じることなく済んできたといえる。しかし、近年、わが国を取り巻く情勢は大きく変化している。中国は、今や世界第2位の経済大国に成長した。それに伴い軍事力の増強を進め、東シナ海から南シナ海に至る広範な海洋を自国海域と称している。またロシアは、エネルギー資源供給能力の拡充によって経済力の強化を図り、極東地域でも軍事力の増強が目立っている。さらに、北朝鮮の核開発の積極化政策や、親北政策をとる韓国によって、朝鮮半島情勢もやや不安定化している。そうした情勢変化を考えながら、世界地図でわが国の位置を見ると、地政学リスクは決して小さくないことが分かる。

それを三つに分けて整理する。まず、中国関連のリスクだ。中国はすでに尖閣諸島などに関して、自国の固有の領土だと主張している。また、南シナ海に人工島を建設して軍事施設などの建設を行っている。国際法上許されるものではないが、現在のところ米国や近隣諸国と目立った武力衝突などは見られない。それに加え、“一帯一路”政策に基づき、インド洋からアフリカ、さらに欧州に向けて自国の勢力圏の拡大を進めている。当面、そうした行動は続くと予想され、わが国をはじめ近隣諸国には相応のリスク要因になるとみられる。

ただ、勢力拡大には経済力の裏付けが必要だが、中国経済は徐々に成長の限界が見え始めている。米国との貿易摩擦や、ITなど先端分野でのあつれきが顕在化しつつある。これまでのペースで勢力拡大を続けることは次第に難しくなるだろう。また、中国経済の減速が鮮明化すると、国民の支持率低下やウイグル自治区、チベットなどの問題が足かせになることも考えられる。さらに、香港の民主化運動や台湾での反中国派の蔡総統の当選などを考えると、現政権はこれまでのような思い切った政策を打ち出しにくくなる可能性が高い。

次に、朝鮮半島関連のリスクだ。そもそも、朝鮮半島は地政学的に極めて重要な位置にあり、米国・中国・ロシアという大国のパワーがぶつかり合って、北朝鮮と韓国という緩衝地帯を形成している。北朝鮮がなければ、中国とロシアは米国パワーの先端である韓国と正面から対峙することになる。逆に韓国がなければ、米国は直接、中国やロシアと対峙しなければならない。その意味で、朝鮮半島は世界情勢にとって微妙な均衡を保つ重要な地域といえる。その朝鮮半島で、北朝鮮が核開発を独自に行っている一方、韓国は親北寄りの政策をとり、わが国や米国とのいざこざを生みつつある。文大統領は北朝鮮との統一を目指しているが、現在の政治体制の違いや統一にかかる費用負担を考えると、実現には長い時間がかかるとみられる。朝鮮半島情勢は、短期的には緊迫する場面はあるかもしれないが、今すぐにわが国に重大な影響を与える可能性は低いだろう。

最後に、ロシア関連のリスクだ。同国経済はガスや原油などエネルギー価格との関連が強い。エネルギー価格が安定すると同国経済も安定し、極東地域の開発や軍備拡充がしやすくなるため、同国はエネルギー開発に注力するとみられる。その場合、わが国の企業は開発の重要なパートナーになる可能性が高い。同国の極東地域の軍事力増強には注意が必要だが、経済面での協力を通してリスクを低下させることはできるだろう。

今後も、わが国を取り巻く地政学リスクは、情勢の変遷に応じて大きく変化する。それに対応するには、経済基盤をしっかり固めることが重要だ。安全保障の面では、日米安全保障条約に、わが国の経済力を加えることで、国際社会での発言力を高め、多くの諸国との友好関係を明確にしておく必要がある。それができれば、国際情勢の変化に応じて、迅速に対応することは可能と考える。いずれにしても、経済力というよりどころを見失ってはならないだろう。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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