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真壁昭夫の経済底流を読み解く これからのわが国経済はどうなる?

これからのわが国経済の展開を考えるとき、最も重要なポイントは米国経済の展開だろう。世界経済全体の状況は安定が保たれているが、それを支える最も重要なファクターは米国経済だ。米国の失業率は、約半世紀ぶりの低い水準にある。賃金も年率約3%の伸びを示しており、それが米国の堅調な個人消費を支え、その個人消費が、世界経済を下支えしている。トランプ減税の効果剥落や米中の貿易摩擦などにより設備投資は減少しているが、個人消費がその落ち込みをカバーしている。その結果、米国全体では緩やかな景気回復が続いている。

一方、中国経済は厳しい状況を迎えている。2019年7〜9月期の経済成長率は6・0%で前期比0・2ポイント低下。これは1992年に成長率が公表されて以降、最低水準だ。固定資産投資、工業利益など主要な経済指標も鈍化傾向にある。加えて、資本の効率性が低下し、債務問題が深刻化している。BIS(国際決済銀行)のデータによると、中国の家計、政府、非金融企業の債務残高は、いずれもGDPの250%を超えた。企業業績は悪化し、不良債権リスクは高まっている。中国経済の減速を受け、輸出依存度の高いドイツ経済も減速し、ユーロ圏経済も厳しい状況を迎えている。

そうした状況下で、わが国経済はそれなりの落ち着きを維持してきたが、昨秋以降は幾分か動きが見られる。その一つが、消費の落ち込みだ。昨年10月の小売販売額は前年同月比7・1%減だった。これは前回の消費税率引き上げ後の落ち込みよりも大きい。これには、消費税率引き上げの他にもいくつかの複合的な要因が影響していると見られる。同10月には大型台風が関東・甲信越・東北地方などに甚大な被害をもたらした。週末に台風が上陸したため、個人消費への影響は大きかったはずだ。日韓関係の悪化によって韓国からの観光客が減少したことも軽視できない。この状況を受け、政府は経済対策を取りまとめた。財政支出の規模は13兆円程度に達し、企業負担を含めた事業規模は25兆円台と見られる。経済対策の効果が発現するとともに、内需は落ち着きを取り戻し、当面の国内経済は相応の安定感を維持する可能性がある。

一方で、中国経済の減速や、米中の貿易摩擦によるサプライチェーンの混乱による影響から、わが国の工作機械受注は大幅に落ち込み、前年の実績を下回った。業種別に見ると、電機、精密関連、自動車など広範な分野で需要が落ち込んでいる。世界的な半導体市況の悪化や中国における過剰生産能力の問題、サプライチェーン再構築のコスト負担などを理由に、世界的に設備投資が控えられているからだ。工作機械受注は過去に日本経済の回復を支えた一つの要因であるだけに、今後の動向は楽観できない。

さらに、米中の貿易摩擦の動向も重要だ。昨年12月中旬、米中間の第一弾の合意が成立し、高額関税の追加実施は避けられたが、さらなる摩擦は避けなければならない。摩擦が激化すれば、個人消費を中心に両国経済に大きなマイナス効果が及ぶ。両国は妥結できる分野で部分合意を取りまとめ、本格的な摩擦を回避するだろう。そうなれば、わが国をはじめ世界経済にとって大きな福音になる。

また、世界的に低金利政策が続いていることも見逃せない。多くの主要国では債務残高が増加傾向をたどっているものの、信用リスクの上昇が抑えられているのは、低金利政策の効果によって、企業、家計、政府の資金繰りが支えられているからだ。中国経済の減速によって世界的に資源価格は上昇しづらく、インフレリスクも抑制されていることが、米国を中心とする低金利環境をサポートしている。ただ、米国の個人消費の鈍化が鮮明化し、設備投資もさらに落ち込む場合、景気が落ち始めるとの見方は増えるだろう。そのタイミングで米中間の摩擦が激化すると、グローバルにリスクオフが増加し、世界経済の先行き懸念は大きく高まる恐れがある。当面の世界経済にとって、米国経済のさらなる減速は無視できないリスク要因と考えるべきだろう。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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