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真壁昭夫の経済底流を読み解く 中国経済の減速と東南アジア諸国

最近、アセアン5(インドネシア、フィリピン、マレーシア、タイ、ベトナム)を中心とする東南アジア諸国地域のGDP(国内総生産)成長率は緩やかに低下してきた。IMF(国際通貨基金)のデータによると、2012年、アセアン5の平均的なGDP成長率は6・2%程度だった。その後の14年には4・6%に低下した。翌年からアセアン5の景気は緩やかに回復し、17年には5・3%台に回復したが、18年には5・2%となり、19年には4%台後半にまで低下(景気は減速)する可能性がある。

その背景には、昨年秋以降、中国経済の減速が鮮明化したことがある。加えて昨年来、米中貿易摩擦への懸念が高まり、世界全体で貿易取引が減少。対中輸出に加え、各国の設備投資も伸び悩んでいる。それは海外からの直接投資を誘致し、工業化の進展を通して所得や雇用を増加させてきた東南アジア諸国にとって逆風が強まったことを意味する。

ただ、景気が減速しても、経済が大きく混乱する展開は避けられてきた。アジア通貨危機の後、各国の経済基盤が強化されたことが一つの要因だろう。特に、リーマンショック後、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は低金利環境を維持し、景気回復を優先してきた。それが、政治・経済の基盤整備が進み、徐々に工業化に取り組んできた東南アジア諸国への資金流入を促し、設備投資の増加などを支えた。総合的に見て、現在の東南アジアのファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)は、比較的良好な状態を保っている。もう一つの重要なファクターは、アジア諸国の中で旺盛な内需に支えられてきたことだ。東南アジア諸国の中でも、相対的に人口の多いフィリピンやベトナムの経済は堅調に推移している。フィリピンでは中央銀行による利上げによってインフレリスクが低下し、個人の消費が安定し、財政出動も景気を支えている。この結果、7~9月期のGDP成長率は6.2%に加速した。ベトナムでは、貿易摩擦の影響回避や労働コストの低減を目指して、中国から生産拠点などを移す企業が増え、それがベトナムの第2次産業を中心に、経済のモメンタムを支えている。

一方、輸出面を中心に対中依存度の高いマレーシアは、景気の減速が目立つ。昨年前半ごろから、インドネシア経済も減速している。マレーシアは、シンガポールなど中国経済と密接に関わってきたアセアン地域との輸出取引が多い分、景気減速が相対的に鮮明化している。輸出先が分散されているかいないかによって、各国の景況感に相応の違いがある。

また、昨年後半ごろからタイ経済も減速している。その一因として、米中貿易摩擦の激化などを受け、自動車生産をはじめとする世界の供給網が混乱していることが考えられる。タイは欧米などからの観光需要を取り込み、成長基盤を強化してきた。中国に加え、日米も主要な輸出先で、輸出先が分散されている。

今後、短期的にみると、アセアン5を中心にした東南アジア諸国の経済が大きく落ち込むことは考えにくいものの、成長率が上昇傾向に転じることは想定しづらい。それらの経済を支える米国経済は、労働市場を基礎にして緩やかな回復を維持している。短期間で米国の景気減速が鮮明化し、景気後退懸念が高まるリスクは抑制されている。輸出面を中心に米国経済との関係性が強い東南アジア諸国の景気は、相対的に底堅さを維持する可能性がある。ただ、中国経済の先行きは楽観できない。7~9月期のGDP成長率は前期比6・0%まで低下し、10月まで16カ月続けて新車販売台数は前年同月の実績を下回った。過剰生産能力に加え、地方政府の財政悪化や債務問題(「灰色のサイ」)などが深刻化し、固定資産投資は過去最低水準にまで減少。生産活動も同様だ。中国経済の成長が限界を迎えた今、中国政府が景気対策を強化したとしても、どの程度の効果が表れるか。景気が一段と減速するリスクは軽視できない。対中依存度を高めてきた東南アジア諸国の経済は、より強い逆風に直面する可能性がある。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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