企業の商品やサービスを消費者目線で改善する人材の養成を目的とする「消費生活アドバイザー資格試験」が、今注目されている。また、本年秋には新たに入門編として「お客様対応専門員(CAP)資格試験」も始まる。特集では、本資格の概要を紹介する。
合格すると最大で三つの資格を取得
一般財団法人日本産業協会が実施する消費生活アドバイザー資格は、内閣総理大臣および経済産業大臣の事業認定資格。企業において消費者からの提案や意見を自社の経営に効果的に反映させるとともに、消費者の苦情相談に迅速かつ適切なアドバイスを実施するなど、幅広い分野で社会貢献を果たす人材を養成することを目的としている。
消費生活アドバイザーは、生損保をはじめ、電器・自動車・生活用品・食品などのメーカー、通信、電力・ガス、小売りなど幅広い業種の企業において、商品(製品)開発・改良やサービス向上、消費者対応などさまざまな部門で活躍している。 また、試験に合格すると、消費生活アドバイザー資格の他に二つ、合計で最大三つの資格を取得できる。
一つは、国家資格の「消費生活相談員」資格。この資格は、都道府県および市町村で、「情報や交渉力などにおいて事業者(企業)との間に構造的格差のある消費者を支える人材を養成すること」を目的としている。
具体的な職務としては、事業者(企業)に対する消費者からの苦情に係る相談・あっせんや、消費者による主体的な問題解決の促進・支援(消費生活の専門家としての一般的な消費生活に係る適切な助言など)がある。
もう一つは、本(2018)年度から始まる同協会認定の「お客様対応専門員(CAP(シーエーピー)資格」。この資格は、消費生活アドバイザー資格1次試験のCAPの学習範囲(消費者問題、法令、行政など)で所定の成績を収めた人が取得できる。
新資格「お客様対応専門員(CAP)」 本年秋からスタート
本年度から新たに「お客様対応専門員(CAP)資格」試験が始まる。これは、同協会が認定し、お客様相談に関する幅広い知識を評価する資格。消費者問題の歴史を踏まえ、消費者保護に関する法令や消費者行政に詳しい消費者対応・お客様相談のプロフェッショナルの育成を目的としている。
CAPを取得することによるメリットは大きい。具体的には「知識を得て業務に自信と余裕が出る」「消費者問題に関係する講座を受講できる」「研修会や交流会に参加し日常業務に役立つ人脈を築ける」「名刺に有資格者であると明記することでお客様の信頼度が向上する」「メールマガジンにより消費者関連の法改正や不祥事の解説など最新情報が入手できる」などが挙げられる。
消費生活アドバイザーの学習範囲は、消費者問題や関連する法令や行政の知識はもとより、経済や衣食住をはじめ生活について全般的な知識など幅が広い。そのため、同協会では、初めて消費者対応やお客様相談の仕事に就いた人には、まず、お客様対応専門員(CAP)資格試験を受験し、合格したら、次のステップとして、消費生活アドバイザー資格に挑戦することを勧めている。受験要項や申し込み方法は、本年5月以降に同協会ホームページにて公開される予定。資格試験は秋に施行される。
受験手続きが大幅に改善 ~消費生活アドバイザー資格試験~
消費生活アドバイザー資格試験の受験手続きが、本年度から大幅に改善される。受験申請書の記入や受験料の支払いが同協会ホームページ上で完了できるようになる。また、前年度の1次試験に合格しながら2次試験に不合格だった場合の受験料が通常(税込み1万2960円)よりも割引される(税込み9720円)。受験要項(受験申請書を含む)の入手や申し込み方法は、5月上旬に同ホームページにて公開される予定。
また、学習方法についても、これまでの同協会主催の通信講座に加えて、本年4月から、新たに同協会が試験対策テキストの販売を始めた。購入手続きは、同協会のホームページを通じて、注文から支払いまでインターネット上で行うことができる。
お問合せ先
一般財団法人日本産業協会
所在地:東京都千代田区内神田2丁目11-1 島田ビル3階
電話:03(3256)7731(平日午前9時30分~午後17時30分)
詳細はウェブ上の検索サイトで「消費生活アドバイザー」と入力し、同協会HPを参照。
資格保有者が語る取得のメリット
消費生活アドバイザー資格を取得すると、どのようなメリットがあるのだろうか。企業で活躍する資格保持者から、さまざまな声が寄せられている(いずれも、日本産業協会ホームページに掲載されている「活躍する消費生活アドバイザー」から抜粋。肩書きは取材時のもの)。
ネットワーク通じ活動範囲が拡大
「知見が広がり、会社の枠を超えていろいろな方と知り合うきっかけができた」と語るのは、「エレキバン」で知られるピップ株式会社お客様相談室係長の瀬戸九美さん。
瀬戸さんは、消費生活アドバイザーなどの資格保有者を主な構成員とする、消費生活に関するわが国最大の専門家団体、NACS(ナックス・公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会)に参加。他社で同じ仕事をしている人や、消費者相談を担当している行政の相談員とつながりもでき、多くの情報交換が行われている。こうした経験から、瀬戸さんは、資格を目指している方に対して「試験に受かるだけを目的にせず、その先にはさまざまな可能性が潜んでいて、自分の活動範囲や好奇心の幅が広がっていくことまで視点を置いてほしい」と呼び掛けている。
消費者視点が業務に役立つ
「消費生活アドバイザー資格取得のための勉強は、私生活でも仕事でも、本当に役立っています」と語る日新製糖株式会社営業本部営業企画部生産委託管理課副参事の中村尚美さん。中村さんは、2015年に「消費生活アドバイザー資格制度創設35周年記念功労者」として経済産業大臣表彰を受賞した。
私生活では、「消費者として家を買ったり、引っ越しをするなど人生でそう多くない大きな契約をする場面で、勉強した内容を思い出し、冷静に対応できた」と語る。
仕事では、「生産管理や商品開発、品質保証など多様な業務に携わる中で、どの業務でも消費者視点で考えるということは重要」「メーカーが商品を発売する時には、表示や製造物責任、リサイクルのことなどをさまざまな立場で複合的に考えなければならない」「これらは全て消費生活アドバイザー試験の科目になっている」「更新するために講習を受け、知識を磨くシステムになっているので、業務に役立つ知識が廃れることなく培われる資格」と強調する。
相手と信頼関係を築く契機
消費生活アドバイザー資格を持っていることが、信頼関係が生まれるきっかけになると語るのは、明治安田生命保険相互会社広島支社お客さまサービス室長の宮守泰文さん。「消費生活センターの行政相談員の方とお話する際、相手の方が名刺の『消費生活アドバイザー』の記載に気付き、『あっ、有資格者の方ですね』と、信頼関係が生まれるきっかけになることがよくある」とのこと。
「お互いに消費者対応のプロであることで、相談されるお客様が納得される解決を導くことができるために、行政相談員の方々と対等にお話ができる」として、この資格の意味と重みを感じている。また、宮守さんは、消費者に関連する事柄について、「勉強を通して消費者関連全般の知識が身に付き、消費者関連の事柄を、自分なりに判断する素養が身に付いた」「この事案の何が問題で、今後どうすべきなのか、といったところまで考えられるようになった」と語っている。
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