1990年代、野茂英雄投手がメジャーリーグの扉を開けて以来、次々と日本のスター選手が海を渡って行った。「大魔神」こと佐々木主浩(かずひろ)投手、松坂大輔投手、イチロー選手、松井秀喜選手、その他挙げたらキリがないほど、各チームの主力選手が戦いの場をアメリカに移した。評論家やファンの間では、このままではスター不在になって日本のプロ野球がダメになると嘆く人もいた。もちろんその心配は分かる。だが、スポーツ界の新陳代謝はその不安をどうやら杞憂(きゆう)に終わらせているような気がする。広島の黒田博樹投手が抜ければ前田健太投手が育ち、その前田がメジャーに渡れば次の若手が台頭する。日本ハムのダルビッシュ有投手がいなくなれば、「二刀流」の大谷翔平選手が現れる。そして大谷ほどの逸材がいなくなったらどうなるのかと、これはかなり心配していたが、これまたとんでもないスター候補が登場した。
ご存じ、清宮幸太郎選手(背番号21)である。
「候補」とあえて書いたのは、彼は日本ハムに入団して練習をしているだけで、まだ何もやっていないからだ。しかし、そのビッグマウスと人気はもうすでにプロ野球の中でトップクラスだ。
1月の自主トレーニングからファンを集め、千葉県の鎌ケ谷スタジアムのスタンドは連日練習を見に来たファンで埋まった。早稲田実業高校1年生の時から甲子園を沸かせ、高校で通算100本以上のホームランを打っているのだからその長打力は本物だろう。しかし、現時点でそれ以上にパワフルなのは飛距離抜群のコメント力と言っていいだろう。
目標の選手を聞かれれば「やはり、早実の先輩である王貞治さんです。いずれは868本を目指せるような選手になりたい。王さんの記録は目標となる数字なのかなと思います」といきなりホームラン世界記録を目標に挙げる。王さんについては「早実の先輩ですし、むしろ目指さなきゃいけない使命感がある。やるからには王さんのような人間、野球人になりたい」と早稲田の関係者を泣かすようなことを言う。そして「夢はメジャーで活躍すること。そこは変わっていません」と日本での活躍前からメジャー志向を口にする。愛嬌があって憎めない。それが彼の最大の魅力だ。
さて、これからはいよいよ野球で勝負だ。楽しみな好漢(こうかん)である。
写真提供:産経新聞
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