政府は現在、2020年度からの「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略」の策定に向けた準備を進めていることから、日本商工会議所ではこのほど、東京商工会議所と共同で同戦略に向けた意見を取りまとめ、政府・与党など関係各方面に提出し、同戦略への反映を働き掛けている。特集では、同意見の概要を紹介する。
Ⅰ.基本的考え方
■第1期政府総合戦略が策定されて4年、地方版総合戦略が策定されて3年が経過するが、地方創生に顕著な成果を上げつつある事例が着実に増えている一方で、「人口減少」と「地方の疲弊」という構造的課題はいまだ解消していない。東京圏への転入超過には歯止めがかからず、また、地方都市の衰退はさらに深刻化。出生率の低下による人口減少(図1)と企業数(図2)の減少という、いわば「双子の少子化」を克服することが地方創生の最大の課題。加えて、近年多発・激甚化する自然災害が地方創生の大きな足かせとなっており、災害に強い国づくりを進める必要がある。
■一方で、第1期政府総合戦略において一極集中の傾向を指摘される東京についても、東京都の調査において、一時の経済成長の勢いが鈍化していることが示されている(図3)ほか、2025年には人口が減少に転じ、急速な高齢化の進展も予測されている。さらには、地震をはじめとする災害リスクなど、多くの課題に直面している。
■このような認識の下、第2期総合戦略の策定に当たっては、まず、第1期総合戦略、とりわけ地方版総合戦略の策定・推進体制や成果の検証が不可欠。その検証結果を踏まえ、実効性を高める体制を確保した上で、地方における「双子の少子化」に歯止めをかけるとともに、一極集中によるさまざまな課題を解決し、災害にも強い多極化・多核化した国土形成を図りつつ、地方が東京と連携・補完して地方へひとと所得を還流させることにより、地域経済の好循環をつくり出し、わが国全体の底上げと持続的な成長につながる戦略とすべき。施策の継続性・実効性を確保するPDCAサイクルの徹底も必要。
Ⅱ.第2期総合戦略策定の前提となる検証
■地方創生に資する第2期総合戦略の策定に向け、まずは第1期総合戦略、とりわけ地方版総合戦略の検証を徹底的に行うことが不可欠。検証に当たっては、実効性のある方法により、期限を明示して取り組むことが必要。
(政府総合戦略の検証例)
①東京圏への転入超過が拡大した要因
②開業率(図4)が伸び悩む原因
③都道府県別の出生率の格差の分析
④数値目標(KPI)の達成状況およびKPIの立て方・妥当性など
(地方版総合戦略の検証例)
①地域ぐるみの組織で策定したものかどうか
②戦略の推進体制の有無
③数値目標(KPI)の達成状況およびKPIの立て方・妥当性
④地方創生交付金など補助金の費用対効果など
■日本商工会議所が2018年4月に各地商工会議所の地方創生の取り組み状況を分析した結果、成果を上げている地域に共通するポイントは、以下の4点。この四つのポイントを第2期の地方版総合戦略の策定に生かすべき。
①首長に地方創生の熱意と強力な行動力があること【首長のリーダーシップ】
②多様なステークホルダーが連携・協働する場が設けられていること【地域ぐるみ・自立】
③地域資源の徹底活用で地域の所得向上を目指していること【あるものさがし】
④結婚、出産、子育て、教育などの支援策を講じていること【現役世代への投資】
Ⅲ.第2期総合戦略に盛り込むべき具体的提案
(〇印は第1期戦略の拡充・強化、●印は第2期戦略に新たに盛り込むべき戦略、★印は地方と東京が連携した地方創生の仕組みづくりの提案)
1.地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする
⑴魅力あるしごとづくり・所得向上
①〇創業塾などによる起業・創業の促進、事業承継ベンチャーの促進など事業承継・世代交代の推進、地方企業の事業譲渡・M&Aの支援
②〇地域課題の解決と遊休資産・人材・スキルをビジネスに変えるシェアリングエコノミー、シビックエコノミーの普及
③〇外資系企業の地方への投資を促進するINVEST JAPAN戦略の推進
④●「地産外消」、とりわけ地方と東京の連携により所得を地方に還流(販路開拓・ものづくり受発注商談会、海外バイヤーとの交流拡大)(★)、輸出大国コンソーシアムの活動強化、越境ECの促進
⑤●東京の大企業と地方の中小企業によるオープンイノベーションの促進(★)、〇AI、IoTなどの導入促進による生産性向上
⑵観光を柱とした地方創生の実現
①〇稼げる地域づくりの実現に向けたDMO、地域商社の機能・役割強化とSNSなどを通じた地域情報の戦略的な発信
②〇スポーツ、文化財、ナショナルイベントの経済波及効果の最大化
③●地方TV局などのローカル番組の海外放映による、各国の嗜好(しこう)・事情を踏まえた訪日プロモーションの強化(インバウンドの偏在是正)
⑶●水産業にも着目した〇1次産業のさらなる成長産業化(一層の輸出拡大、●取る漁業から育てる漁業への政策転換など)
2.地方への新しいひとの流れをつくる
⑴〇地方に雇用を生み、企業の地方移転の推進力となる政府関係機関の地方移転の再チャレンジ(★)
⑵地方における若者の修学・就業の促進
①●地域の歴史教育を含む初等教育段階からのキャリア教育の体系的実施
②●地方創生インターンシップ参加学生への経済的支援、首都圏と地方の大学で学べる国内留学(ダブルキャンパス)の仕組みづくり(★)
③〇「地(知)の拠点大学」による地方創生推進事業の拡充などを通じた大学発地域活性化プロジェクトの拡大・実現
④〇地域産業の担い手となる中核人材を確保・育成するための専門職大学の設置促進
⑤●大都市圏の早期離職者の地方中小企業への再就職支援(★)
⑶外国人との共生社会づくり
①〇外国人労働者の日常生活を支える受け入れ環境の整備
②〇外国人の採用を希望する地方の中小企業の相談窓口設置と、採用マッチング機会の提供
3.安全・安心で、個性に富んだ魅力あるまちづくり
⑴●民間主導のまちづくりの強力な促進(イベントにとどまらない事業経営の視点に基づいた、ひととしごとが集まる魅力あるまちづくりの展開【まちづくりの再定義】、推進主体の自立化、資金調達の多様化などへの支援)
⑵●住民1人当たり所得の向上と地域の資産価値向上をKPIとして位置付けたまちづくりの強力な推進
⑶〇中枢中核都市によるダム効果の醸成(多核化)と中小都市の自立に向けた広域連携などの支援
⑷〇健康長寿を目指す「健幸都市」づくりの推進
⑸〇地域の魅力の徹底した磨き上げと対外情報発信力の強化
4.若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる
⑴●出生率が高い地域の分析に基づく少子化対策の強化、マイルストーンを置いた1年ごとの対策の進展管理
⑵〇病児・病後児保育事業の拡充、産婦人科医・小児科医の不足地域の解消など、子育てに不可欠な育児環境の整備
⑶〇子育てしやすい働き方改革・ワークライフバランスの確実な実施
5.自然災害への対応力の強化
⑴●東日本大震災被災地支援の継続
⑵●災害への備えと速やかな復旧・復興のためのBCP対策など、災害対応力の強化
⑶●鉄道網の整備や高速道路などのミッシングリンクの解消や多極化によるリダンダンシーの確保
Ⅳ.地方創生版・三本の矢の拡充・追加
1.情報支援
・地域経済分析システム(RESAS)における戦略づくりに必要な●「地域診断サービスメニュー」(地域における所得の流れの見える化、経済圏単位での分析など)の創設
・●戦略づくりに必要なデータの分析および分析結果に基づく戦略策定ができる人材の育成・派遣
・〇国内外の地方創生の好・先進事例の分析、情報提供
2.人材支援
・〇国家公務員などを派遣する地方創生人材支援制度の拡充
・●大都市の企業(OB)人材の活用に向けた全国的なマッチングシステムの構築(★)
・●戦略づくりに必要なデータの分析および分析結果に基づく戦略策定ができる人材の育成・派遣【再掲】
3.財政支援
・〇民間主導の取り組みに対する地方創生推進交付金の対象化と補助率引き上げ
・〇地方創生予算の複数年化
・〇企業版ふるさと納税の対象プロジェクトに関する自治体と企業との連携強化(★)
・●地方創生活動を行う商工会議所などへの寄付金の全額損金算入化
4.規制緩和・地方分権
・●国家戦略特区などのメニューの全国への速やかな適用拡大など地方創生に資する規制緩和の推進
・●首長のリーダーシップを最大限発揮するための権限と財源をセットにした地方分権の強力な推進
Ⅴ.地方創生機運の再喚起
〇このまま何もしなければ消滅可能性都市が拡大。危機感を共有し、今すぐ地域ぐるみで取り組めば未来は変わる
〇政府においては、政府広報やシンポジウムの開催、地域においては、若者による地域活性化プロジェクトの展開、ワークショップの開催などにより官民あげて地方創生気運の再喚起と具体的な取り組みを加速する必要
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