日本商工会議所は4月18日、意見書「新たな段階に入った観光をめぐる課題への対応~国際観光競争の中で選ばれる日本になるために~」を取りまとめ、関係各方面に提出した。本意見書は、政府の「観光ビジョン実現プログラム2019」の策定に先立ち、インバウンド4000万人時代の到来を見据え、観光を地方創生実現の柱としていくために、必要な事項を取りまとめたもの。特集では、本意見書の概要を紹介する。
Ⅰ.現状認識
わが国は「観光立国」の実現に向け力強く前進している。訪日外国人旅行者数は昨年3000万人の大台を超えてなお順調に増え続け、政府が2020年の目標に掲げる4000万人の実現も見えてきた。他方、これまでに経験したことのない数と増加の急激さから、わが国が今後インバウンドの拡大に適切に対応していけるのか、受け入れの在り方が強く問われる段階に入ったといえる。
まず、インバウンドは日本全体として見れば行き先がまだまだ地域的に偏っており、格差が大きい。一部で見られるオーバーツーリズムの解消もにらみつつ、各地にバランスよく分散させていけるかが課題となっている。
また、6割とされるリピーターの拡大は、観光地の魅力という点にこれまで以上の課題を突き付けている。団体旅行から個人旅行への移行に伴い、モノ消費からコト消費への変化に代表されるように観光ニーズは極めて多様化している。各地は観光資源のさらなる磨き上げと魅力の創造に不断の努力が求められる。
いま日本は、外国人が訪れる先として、数の上で世界のトップ10入りが目前に迫るまでになった。これは、日本の観光が新たに本格的な国際競争時代に入ったことを意味する。各地の観光産業において、インバウンド需要に的確に対応できるよう競争力向上のための革新が必要である。
以上を踏まえ、世界の中の「観光先進国」を目指す政府に対し、各地域や観光産業における自助努力が円滑に進むよう、それを後押しする環境整備や支援などについて以下の通り提言する。
Ⅱ.観光振興の基本的考え方となされるべき対策の方向
地方創生実現の主軸となるべき観光振興
観光は、風景・自然条件や歴史・文化、風土など地域固有の資源を生かし、官民を挙げた総合力によって魅力の創造・提供を行う地域の一大産業である。国の内外から交流人口と消費を呼び込み、地方創生実現の柱として振興していくことが重要である。本提言のポイントは以下の3点である。
【ポイント1】旅行者をあまねく全国へ分散・拡大
増加するインバウンドを全国の地方・地域に行き渡らせ、併せてオーバーツーリズムの是正を図らねばならない。訪れる人の数以上に重要なのは、それにより消費が拡大するかということであり、通信・ネット接続環境や決済手段としてのキャッシュレス環境など訪日外国人の滞在中の利便性確保が求められる。また近年、大規模災害が頻発し観光振興の制約要因ともなっている。国・地方とも、「災害は起こるもの」という前提に立ち、対策に万全を期すこと、同時にそれが有効に機能することを内外に知らしめる努力が必要である。
【ポイント2】ニーズの多様化に対応した観光コンテンツの提供
リピーターが拡大する中、そのニーズに応えてさらなる旅行消費を呼び込むためには、受け入れ側における、多様な観光コンテンツの開発による新たな魅力の創造と提供が不可欠である。そうした地域の魅力に関する情報が海外の人々に的確かつ継続的に伝わるよう、国や官民連携による宣伝・プロモーションの強化が必要である。また、MICE参加者やビジネス出張者など消費額が比較的大きいとされる層をターゲットとした呼び込み戦略をとることも重要である。
【ポイント3】観光産業の競争力向上と人材育成
宿泊業や飲食業など地方の観光サービス産業では、深刻化する人手・人材不足に対応した生産性の向上が急務である。また、稼げる観光まちづくりの観点から、DMOや地域商社を主軸に観光関連事業を進めることで地域経済への波及効果を最大化することが求められる。
なお、言語の問題で外国人とのコミュニケーションが十分に図れず、インバウンド消費を取り込めていないとの指摘や、ビッグデータの活用、IT利活用などを行える人材が不足しているために経営効率を上げられないといった切実な声がある。国際観光旅客税は、そうした観光産業の生産性向上や人材確保・育成などに充当することが重要である。
Ⅲ.主な提言事項
1.旅行者の分散・拡大に向けた対応
⑴交通インフラの整備・拡充
①地方へのアクセス確保のための2次・3次交通網の充実
②地域の公共交通を補完する、ITなどを活用した新たな交通サービス(MaaS)の地域の実情に合った推進支援
③ネット経路検索に反映されるための運行情報提供支援など
⑵旅行先における利便性向上
①SIMカード活用も含めたシームレスなネット環境の拡大
②キャッシュレス決済など多様な決済手段への対応促進
③案内表示の多言語化や国際標準化への対応の推進など
⑶大規模災害の影響の極小化
①緊急・災害時における旅行者への適切な情報伝達の強化
②自治体における防災部門・観光部門の連携のさらなる強化
③地域防災計画と連携・連動した観光BCP策定の促進支援
2.ニーズの変化・多様化への対応
⑴観光コンテンツの開発とプロモーションの強化
①歴史的建造物などのユニークベニュー(特別な空間)としての活用奨励や文化財の自治体における保存・活用の促進
②地域固有の特徴を生かせる産業観光やスポーツツーリズムなどのテーマ別観光の推進、伝統芸能の保存継承支援
③国・市場別の現地旅行会社・メディアなどに対する地域の魅力情報の提供・売り込み、モニターツアーなどの推進拡大
⑵国際的ビッグイベントなどの活用と広域連携
①国際的ビッグイベントやMICEなどの機会を捉えた大都市と地方との都市間連携の拡大奨励
②海外からの出張者や富裕層などを対象とした地方空港などのインフラ整備・周遊ルートの開発、地域の歴史・文化の語り手や自然探索の案内人など専門ガイドの養成促進支援
③ラグビーW杯で訪日する外国人の行動分析とその活用
3.観光産業の競争力向上に向けた対応
⑴生産性向上、人材確保・育成
①IoTやAI、ロボット技術などを活用した宿泊施設・店舗運営の省人化・省力化などへの支援
②地域一体となった泊食連携、資材の共同購入などのコスト削減や地域産品の販売拡大の奨励・促進
③観光産業における短時間就労など多様な働き方導入による労働力確保、IT経営の促進による離職率抑制の支援
④観光産業に特化した専門職大学の設置促進
⑵国際観光旅客税の使途
①外国人とのコミュニケーションを円滑にするモバイル通訳機器導入に対する観光事業者などへの支援
②訪日外国人の観光行動に係るビッグデータやSNSの効果分析および地域やDMOなどへのフィードバック
③IT活用やインバウンド対応が可能な人材の確保・育成支援 (4月18日)
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