日商 Assist Biz

更新

雇用・労働政策に関する要望 (2019年10月17日 日本商工会議所) 労働環境の整備求む 多様な人材の活躍推進

(図1)人員の過不足状況

日本商工会議所はこのほど、働き方改革の推進や女性、高齢者、外国人などの多様な人材の活躍、最低賃金など雇用・労働分野に関する要望を「雇用・労働政策に関する要望」として取りまとめ、厚生労働省、内閣府、経済産業省をはじめ関係府省庁に提出した。特集では、要望の概要を紹介する。

Ⅰ.現状認識

1.深刻化する「人手不足」

○日商・東商の調査で「人手不足」と回答した企業の割合は調査開始以来、一貫して増加し、66・4%に達している。 (図1)

○今後「人手不足感が増す」と回答した企業は5割強を占めるなど、人手不足は深刻さを増すと予想される。

2.中小企業の「働き方改革」をきめ細かく支援していく必要性

○本年4月から順次施行されている「働き方改革関連法」の認知度は向上している。

○しかし、法施行後も、多くの中小企業から「深刻な人手不足の中で、時間外労働の上限規制や年次有給休暇の取得義務化への対応は困難」、また「同一労働同一賃金の内容や定義が分かりづらく、グレーゾーンが広いことから、自信を持って準備を進めることができない」との声が続いている。 (図2)

3.「多様な人材の活躍」を推進していく必要性

○人手不足を背景に、女性や高齢者などの一層の活躍推進が期待される。

○外国人材に関しては、本年4月に「特定技能」が創設されたことを受け、受け入れを希望する中小企業が増加している。

4.企業活力の向上やイノベーションの創出を図る必要性

○労働規制の緩和により企業の自由度や裁量を高めるとともに、多様で柔軟な働き方を拡充・定着していくことで企業活力の向上やイノベーションの創出を図っていくべき。

雇用や地域活性化に大きく貢献している中小企業の成長・発展を雇用・労働政策の面から後押しすることで経済成長率の引き上げや日本経済全体の生産性の底上げを図るべき。

Ⅱ.重点要望項目

1.「同一労働同一賃金」に関する支援策の強化・拡充

○「同一労働同一賃金」について、「対応済・対応のめどが付いている」と回答した中小企業は36・0%にとどまり準備が進んでいない。また、48・0%の企業が対応に当たっての課題として「内容が分かりづらい」を挙げている。

○中小企業における「同一労働同一賃金」への対応を進めていくには、法のさらなる周知に加え、都道府県に設置された「働き方改革推進支援センター」による丁寧かつきめ細かい相談支援、さらには「キャリアアップ助成金」など支援策のさらなる周知と強化・拡充が求められる。

○また、非正規社員を多く雇用する業種・業界向けの重点的な支援や、大企業における先行事例を中小企業へ横展開していくことが求められる。

2.下請け中小企業に対するしわ寄せ防止対策の強化・拡充

○発注側企業が長時間労働の削減などの働き方改革を進める中で、下請け中小企業に対して、適正なコスト負担を伴わない短納期発注や急な仕様変更などのしわ寄せを生じさせることにより、下請け中小企業の業務負荷が増大し、働き方改革の妨げにつながっているとの声が多く聞かれている。

○政府は本年6月に「大企業・親事業者の働き方改革に伴う下請等中小事業者への『しわ寄せ』防止のための総合対策」を策定したことから、本対策にのっとり、大企業と下請け中小企業の間の取引関係の実態把握および取引条件の改善を図ることにより下請け中小企業に対するしわ寄せ防止対策をより強力に推進していただきたい。

3.企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大

○高度な知識や技術、創造的な能力を有する労働者が複合化された業務に主体性を持って取り組むことは、創造性の発揮や労働生産性の向上に資するものである。

○従って、働き方改革関連法案の段階で削除となった同制度の見直しについては、実態調査を実施した上で早急に検討を再開し、対象業務の拡大を早期に実現すべき。

4.中小企業の実態を考慮した高齢者の就業機会の確保

○高齢者は健康や意欲の面で個人差が大きいこと、また中小企業は業務に幅がなく個人差に合わせた業務配置が難しいなど、高齢者の就業機会を確保していくには課題がある。

○従って、70歳までの就業機会の確保に関しては、法制度上整える選択肢や適用除外規定など柔軟かつ自由度が高い方法を認めるとともに、第一段階、第二段階ともに法制化に向けた審議では、中小企業の実態を十分に考慮し慎重に検討していくべき。

5.中小企業の実態を考慮した最低賃金の決定

○本年7月に行われた中央最低賃金審議会の審議により、Aランク28円、Bランク27円、Cランク26円、Dランク26円の引き上げ目安が示された。続いて行われた地方最低賃金審議会の審議により地域別最低賃金額が改定された結果、全国加重平均額は901円になり、27円、3・09%と4年連続となる大幅な引き上げとなった。(図3)

○かねてから数字ありきの引き上げには反対してきたが、毎年の審議では、名目GDP成長率をはじめとした各種指標はもとより、中小企業の賃上げ率など中小企業の経営実態を考慮することにより、納得感のある水準を決定すべき。

○また、新たな政府目標に示されている通り、政府は生産性向上に取り組む中小企業に対して思い切った支援策を講ずるとともに、労務費上昇分の価格転嫁対策を強力に実施していくことが求められる。

Ⅲ.個別要望項目

1.「働き方改革」など労働環境の整備に関する意見・要望   

⑴働き方改革関連法に関する意見・要望

①「時間外労働の上限規制」などに関する支援策の強化・拡充

○法のさらなる周知に加え、働き方改革推進支援センターによる丁寧かつきめ細かい相談支援、さらには「時間外労働等改善助成金」など、中小企業に対する支援策を強化・拡充していただきたい。

○労働基準監督署は中小企業に対する助言・指導に当たっての配慮規定に即して丁寧に指導していただきたい。

②労働基準法第条の適用拡大

○災害などやむを得ない場合は、年5日の「年次有給休暇の取得義務化」についても本規定を適用すべき。

⑵都道府県ごとに設置された労使関係者などによる協議会の実効性確保

○協議会では形式的な議論にとどまることなく、地域経済や中小企業の実態を十分に考慮し、強化・拡充すべき支援策を具体的に検討するなど、実効性のある議論をしていくことが求められる。

⑶高度プロフェッショナル制度の普及・定着

○制度導入が少数にとどまる要因を調査・分析した上で、必要が認められる場合には関係者の真摯(しんし)な審議を経て、要件・手続きなどについて適切に見直していくことも必要。

⑷兼業・副業に関する課題の整理

○兼業・副業の推進に当たっては、労働時間管理の在り方や長時間労働の誘発への懸念、労災補償の在り方などの課題の整理が必要。

○大企業のノウハウや技術を持った人材が中小企業で兼業・副業をすることで、中小企業の人手不足の解消や経営課題の解決が図られるなど、好事例を創出していくことが期待される。

⑸テレワークの普及・定着に向けた支援の強化

○専門家派遣、セミナーなど一連の支援策を通じて、特に中小企業のテレワークを普及促進していくべき。

⑹職場のパワーハラスメント防止対策に関する支援策の強化・拡充

○パワハラの定義が明確でないと、上司から部下への指示や指導、人材育成のちゅうちょなど円滑な事業運営への支障が懸念されることから、判例などにより明確に規定すべき。

○コンサルティングの実施や企業向け相談窓口の設置、さらにはセミナーの開催や調停制度の周知など、中小企業に対する支援策をより積極的に展開していくべき。

⑺中長期の雇用・労働政策の検討

○AIなどの普及に適合した教育訓練やキャリア形成手法の確立、成長産業への円滑な労働移動による雇用のミスマッチの解消など、雇用・労働政策の在り方や方向性を継続的に検討していくとともに、中長期の政策ビジョンを策定・公表するなどして、民間の先進的な取り組みを先導・誘発していくことが求められる。

2.「多様な人材の活躍」に関する意見・要望

⑴女性の活躍推進に向けた政策

①改正女性活躍推進法に関する支援策の強化・拡充

○セミナーなどを通じた改正法の周知はもとより、専門家による相談や個別訪問をはじめとした中小企業の計画策定などに対する支援や両立支援等助成金(女性活躍加速化コース)などの強化・拡充が求められる。

②待機児童解消に向けた取り組みの推進

○「子育て安心プラン」に基づく取り組みを着実に推進し、早期に待機児童ゼロを実現されたい。

③企業主導型保育事業の円滑な実施

○審査委員会による審査体制や審査内容の充実・精度の向上、指導監査の充実・強化などを着実に取り組んでいくことで、企業主導型保育の量と質の確保を図っていくべき。

④事業主拠出金の運用規律の徹底

○事業主拠出金の料率の引き上げが続き、企業の負担感が増していることから、毎年の料率は中小企業の支払い余力に基づき慎重に検討すべき。

○また、安易に使途を拡大することなく運用規律を徹底すべき。特に、今後は積立金の余剰分の動向なども勘案した上で、料率の引き下げも視野に入れるべき。

⑤男性の家事・育児への参画促進

○男性の育児休業取得の義務化など一律・強制的な措置については慎重な検討が必要。

⑵高齢者の活躍推進に向けた政策①企業と高齢者とのマッチングの強化

○産業雇用安定センターのさらなる周知とマッチング機能の強化、ハローワークの生涯現役支援窓口のさらなる設置、大企業などOB人材と中小企業をマッチングする事業の創設に取り組まれたい。

②在職老齢年金制度の見直し

○年金財政の棄損を避けるため確実な代替財源を確保することを前提に、減額調整が始まる基準額の引き上げや減額幅の縮小を行うなど、働き続けることにインセンティブが働く方向に見直すべき。

③審議会委員、労働審判員の年齢要件の即時撤廃

⑶外国人材の活躍推進に向けた政策

○外国人材の受け入れに係る相談機能の強化・拡充、受け入れ企業と外国人材とのマッチング機会の提供など、外国人材の受け入れを具体的に検討している企業に対する支援策の強化・拡充が不可欠。

○特定技能外国人の大都市圏への偏在防止に向けた方策を具体的かつ強力に講じていくことも必要。

⑷障害者の活躍推進に向けた政策

①企業の自主的な取り組みの推進と法定雇用率の柔軟な対応

②障害者雇用で優良な中小企業に対する認定制度の幅広い周知

③障害者雇用に係る支援策の活用促進

3.その他の労働政策に関する意見・要望

⑴中途採用・経験者採用の促進

○中小企業の中途採用比率は7割強であることから、中小企業にとって中途採用は一般的なことである。

○こうした中、転職者数の内訳を見てみると、中小企業では大企業からの転職(転入)者数よりも、大企業への転職(転出)者数の方が多いことから、大企業中心の中途採用に焦点を当てて政策を進めれば、大企業により多くの人材が流れてしまうなど、中小企業の人材確保に大きな影響が出ることが懸念される。

○従って、ハローワークや産業雇用安定センターの機能強化など、中小企業が円滑に中途採用・経験者採用できる環境整備を図ることを主眼として、政策を企画・立案していくべき。

⑵賃金等請求権の消滅時効

○賃金請求権および年次有給休暇の請求権は企業の実態を踏まえ、現行の2年を維持すべき。

⑶公的なリカレント教育の強化

○リカレント教育に関する施策を幅広く周知し、労働者の学び直しを促進していくべき。

⑷離職後1年以内に元の勤務先への派遣を禁止する規制の撤廃

○この規制は就業希望者のニーズに反し、就業機会そのものを阻害していることから、撤廃すべき。

⑸雇用保険の料率引き下げ

○社会保険料負担の軽減策として、失業等給付保険料率の引き下げ措置を延長していただきたい。ただし、失業等給付保険料率の引き下げ措置により積立金残高が目減りしていく見通しであることを踏まえると、延長期間は2年程度とすることが望ましい。

詳細はこちらを参照。https://www.jcci.or.jp/cat298/2019/1017150000.html