日本政策金融公庫はこのほど「2019年度新規開業実態調査」の結果を取りまとめ公表した。それによると開業費用は「500万円未満」という回答が・1%に上り、1991年度の調査開始以来、最も高い結果となった。また、開業時の平均年齢は・5歳で、こちらも過去最高を更新した。本調査は、同公庫融資先のうち、本年7月時点で開業後1年以内の企業8260社を対象に実施、そのうち2137社から回答を得た(回答率・9%)。特集では、本調査の概要を紹介する。
1 開業者の属性とキャリア
開業時の平均年齢は上昇が続く
○開業時の年齢は「40歳代」が36・0%と最も高く、次いで「30歳代」が33・4%を占めるなど、主要な担い手は「40歳代」「30歳代」である。
○開業時の平均年齢は43・5歳と調査開始以来、最も高くなり、7年連続で上昇している。(図1)
女性の割合は長期的に見ると増加傾向
○開業者に占める女性の割合は19・0%で、その割合は18年度と比べてやや低下したが、長期的に見ると増加傾向にある。(図2)
○最終学歴は、「大学・大学院」の割合が35・7%と最も高く、「高校」が29・7%、「専修・各種学校」が27・1%となっている。1990年代に最も多かった「高校」は、長期的に見ると減少傾向にある。一方、「専修・各種学校」は92年度は16・5%であったが、近年は20%台で推移している。
実務経験を有する分野で開業
○開業直前の職業は、「正社員・正職員(管理職)」の割合が38・3%と最も高く、次いで「正社員・正職員(管理職以外)」が32・1%を占める。「正社員・正職員(管理職)」の割合はやや低下したものの、依然として占める割合は高い。
○勤務キャリアは「勤務経験」がある割合が99・0%、「斯業(しぎょう)経験」がある割合が83・9%。経験年数の平均は「勤務経験」が20・6年、「斯業経験」が14・7年であり、多くはビジネス経験をもって開業している。また、「管理職経験」がある割合は65・7%で、経験年数の平均は11・0年である。
2 開業動機と事業の決定理由
最も多い開業動機は「自由に仕事がしたかった」
○開業直前の勤務先を離職した理由は、「自らの意思による退職」が84・8%を占める。「勤務先の倒産・廃業」「事業部門の縮小・撤退」「解雇」を合わせた「勤務先都合」による離職は9・5%とやや増加した。
○開業動機は、「自由に仕事がしたかった」(53・7%)、「仕事の経験・知識や資格を生かしたかった」(46・6%)、「収入を増やしたかった」(46・4%)の順に多い。(図3)
事業の決定理由で最も多いのは「これまでの仕事の経験や技能を生かせるから」
○現在の事業に決めた理由は、「これまでの仕事の経験や技能を生かせるから」(45・8%)、「身に付けた資格や知識を生かせるから」(21・0%)、「地域や社会が必要とする事業だから」(13・3%)の順に多い。
○開業者の性別ごとに見ると、男性、女性ともに「これまでの仕事の経験や技能を生かせるから」が最も多い。「身に付けた資格や知識を生かせるから」「地域や社会が必要とする事業だから」などは、女性の方が多くなっている。(図4)
3 企業の属性
開業業種は「サービス業」が最も多い
○開業業種は、「サービス業」(25・9%)、「飲食店・宿泊業」(15・6%)、「医療・福祉」(14・7%)の順に多い。 長期的に見ると「製造業」「卸売業」は減少傾向にある。一方、「不動産業」「教育・学習支援業」は全体に占める割合は低いが、増加傾向にある。
従業者数は開業時から平均1・0人増加
○開業時の平均従業者数は3・6人であった。
○調査時点の平均従業者数は4・6人で、開業時からの増加数は1・0人であった。
○開業時と調査時点の平均従業者数の内訳を見ると、「常勤役員・正社員」が0・7人から1・1人、「パートタイマー・アルバイト」が1・4人から1・9人へと、それぞれ0・4人、0・5人増えている。
4 開業費用と資金調達
「500万円未満」で開業する割合は1991年度の調査開始以来最高
○開業費用の分布を見ると「500万円未満」の割合が40・1%と最も高く、次いで「500万~1000万円未満」が・8%を占める。「500万円未満」の割合は、調査開始以来、最も高くなった。
○開業費用の平均値は1055万円と調査開始以来、最も少なくなった。(図5)
金融機関などからの借り入れと自己資金が主な資金調達先
○開業時の資金調達額は平均で1237万円で、調査開始以来、最も少なくなった。
○資金の調達先は、「金融機関などからの借り入れ」が平均847万円(平均調達額に占める割合は68・4%)、「自己資金」が平均262万円(同21・2%)であり、両者で全体の89・7%を占める。
5 開業後の状況と課題
事業以外からの収入がある開業者は約4割
○主な事業所までの通勤時間(片道)は、「1~15分未満」が32・9%と最も多い。
○1週間当たりの労働時間は、「35時間未満」が13・3%、「35~50時間未満」が29・0%、「50時間以上」が57・6%となっている。
○事業からの収入が経営者本人の定期的な収入に占める割合は、「100%(ほかの収入はない)」が61・0%と最も多い。
○事業からの収入が世帯収入に占める割合は、「100%(ほかの収入はない)」が36・8%と最も多い。
半数以上の企業が予想月商を達成
○現在の月商が「100万円未満」である割合は40・3%で、2018年度と比べて減少している。予想月商達成率は、「100~125%未満」が25・6%、「125%以上」が31・1%で、半数以上(56・7%)の企業が予想を上回る月商を上げている。
○現在の売り上げ状況が「増加傾向」である割合は57・1%となった。現在の採算状況が「黒字基調」である割合は63・5%となった。
「顧客・販路の開拓」や「資金繰り、資金調達」などが課題
○開業時に苦労したこととして、「顧客・販路の開拓」(47・0%)、「資金繰り、資金調達」(46・9%)を挙げる企業の割合が高い。現在苦労していることを見ても、この二つの回答は割合が高くなっている。
○開業時から現在にかけての変化を見ると、「資金繰り、資金調達」「財務・税務・法務に関する知識の不足」などが減少している。
一方で、「従業員の確保」「従業員教育、人材育成」といった人材に関する課題を挙げる企業が増加している。
6 現在の満足度と今後の方針
約7割が開業に満足している
○開業の総合的な満足度を見ると、「かなり満足」が25・7%、「やや満足」が45・0%となっており、約7割が開業に満足している。項目別に「かなり満足」と「やや満足」を合計した「満足」の割合を見ると、仕事のやりがい(自分の能力の発揮)は79・6%、働く時間の長さは40・9%、ワークライフバランスは44・6%、事業からの収入は26・5%となっている。
○今後の方針については、売上高を「拡大したい」が90・3%となり、商圏を「拡大したい」が57・0%となっている。
詳細はこちらを参照。 https://www.jfc.go.jp/n/findings/eb_findings.html
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