政府はこのほど令和2年度予算案および元年度補正予算案を閣議決定した。中小企業・小規模事業者は、「経営者の高齢化」「人手不足」「人口減少」という構造変化に直面していることから、「事業承継・再編・統合等による新陳代謝の促進」「生産性向上・デジタル化」「地域の稼ぐ力の強化・インバウンドの拡大」などに重点的に取り組む必要があり、政府も切れ目ない支援を実施するとしている。特集では、地域・中小企業・小規模事業者関係の政府予算案の概要を紹介する。
基本的な課題認識と対応の方向性
○中小企業・小規模事業者は、「経営者の高齢化」「人手不足」「人口減少」という構造変化に直面。加えて、働き方改革、社会保険適用拡大、賃上げ、インボイス導入などの相次ぐ制度変更に対応する必要がある。
①「事業承継・再編・創業などによる新陳代謝の促進」、②「生産性向上・デジタル化」、③「地域の稼ぐ力の強化・インバウンドの拡大」、④「経営の下支え、事業環境の整備」に重点的に取り組む。さらに、⑤「災害からの復旧・復興、強靱化」に切れ目なく支援する。
1.事業承継・再編・創業等による新陳代謝の促進
【R1補正64億円/R2当初148億円】
○事業承継を契機とした生産性向上(ベンチャー型事業承継・第二創業)、経営資源引き継ぎ型の創業、事業承継時の一部廃業も支援。
○経営者保証の解除促進に向けた専門家支援。事業承継時に経営者保証を不要とする新たな信用保証メニューの創設、専門家の確認を受けた場合に保証料最大ゼロ(管理費の一部を除く)と大幅軽減。
○事業引き継ぎ支援センターにおけるマッチング支援により第三者承継を後押し。
(補正)事業承継・世代交代集中支援事業【51億円〈R1補正〉】
・各都道府県に設置した「事業承継ネットワーク」による事業承継診断などの掘り起こしを実施。また、事業承継を契機とした設備投資・販路拡大支援(新事業に転換する場合は補助増額)や中小企業が外部人材を後継者とする場合の有効な教育方法の調査を実施。
(補正)事業承継時の経営者保証解除に向けた専門家による支援【13億円〈R1補正〉】
・事業承継時に経営者保証の解除を目指す中小企業に対し、経営者保証ガイドラインの充足状況の確認や金融機関との交渉を支援。
(当初)中小企業信用補完制度関連補助・出資事業【73億円(59億円)】
・信用補完制度を通じた円滑な資金供給支援など。また、事業承継時に経営者保証を不要とするメニューの新設およびその保証料を軽減。
①経営安定関連保証等対策費補助事業
信用保証協会が、事業承継時に一定要件の下で経営者保証を不要とする新たな信用保証制度を創設し、専門家による確認を受けた場合保証料を大幅軽減する。本事業は、その保証料の大幅軽減を実施するための補助事業。
信用保証協会が、金融機関による中小企業者向け融資に対して保証を行い、その後、債務不履行が生じた場合に発生する信用保証協会の損失の一部を補填(ほてん)する。これにより、自然災害などの突発的事象によって経営に支障が生じている中小企業者などに対し、信用保証を通じた資金繰りの円滑化を図る。
②信用保証協会による経営支援対策費補助事業
中小企業者に対し、信用保証協会が地域金融機関と連携して経営支援を実施し、経営支援と一体となった資金繰り支援を行う。
③中小企業・小規模事業者経営力強化保証事業
認定支援機関による事業計画や期中フォローアップなどの経営支援を前提に、信用保証協会の保証料を減免することで、中小企業者の経営力強化の取り組みを支援。
(当初)中小企業再生支援・事業引き継ぎ支援事業【75億円(70億円)】
(再生支援など)
・事業の収益性はあるが、債務超過などの財務上の問題を抱えている中小企業・小規模事業者に対して、窓口相談や金融機関との調整を含めた再生計画の策定支援を行う。また、事業再生に窮する中小企業者などに対して、個人保証債務の整理に係る弁済計画の策定や債権者調整などの支援を実施する。
〈事業引き継ぎ支援〉
○後継者不在の中小企業・小規模事業者の事業引き継ぎの促進・円滑化を図るために、課題の解決に向けた適切な助言、情報提供およびマッチング支援などをワンストップで行う。また、令和元年度に全国拡大する「後継者人材バンク」を活用し、後継者不在事業者と創業希望者とのマッチング支援を強化する。また、令和4年度までに事業引継ぎ支援センターのマッチング件数が年間2000件になることを目指す。
2.生産性向上・デジタル化
【R1補正3610億円/R2当初311億円】
○中小企業の今後相次ぐ制度変更(働き方改革、社会保険適用拡大、賃上げ、インボイス導入など)への対応のため、生産性向上を継続的に支援。「ものづくり補助金」「IT導入補助金」「小規模事業者持続化補助金」を一体運用。
○専門家による、生産性向上に課題を抱える業種の特性に応じた相談対応。
○中小企業の現場へのAI導入を支援する人材の育成・普及。
(補正)中小企業生産産性革命推進事業(中小機構運営費交付金)【3600億円〈R1補正〉】
・中小企業などの生産性向上に資する革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資や小規模事業者の販路開拓の取り組み、中小企業などのITの導入などを支援。中小機構の業務として継続的な支援を実施。
(当初)ものづくり補助金【10億円(50億円)】、共創型サービスIT連携支援事業【5億円(新規)】、地方公共団体による小規模事業者支援進事業【12億円(10億円)】
(補正)(当初)中小企業・小規模事業者の生産性向上支援体制強化等【52億円〈R1補正、R2当初〉】
・各都道府県に設置したよろず支援拠点の専門家などによる経営相談。「働き方改革」をはじめとする制度変更に対応するための体制も強化。
(当初)AI人材連携による中小企業課題解決促進事業【6億円(新規)】
・わが国の全体としての生産性の大幅な向上が求められる中でも、とりわけ、大企業と比して低水準にある、中小企業・小規模事業者の労働生産性の向上は、喫緊の課題。
・そのため、中小企業の生産性の抜本的改善が期待される、AIなどの先端技術の実装による解決を進めていくことが不可欠。また、同時に新たな産業力の強化も期待される。
・本事業では、①解決すべき課題を媒介に中小企業などがAI人材とマッチングし協働で課題を解決していくこと、②成功事例の展開により、企業とAI人材の連携を進め、中小企業のAI導入を促進する。
3.地域の稼ぐ力の強化・インバウンドの拡大
【R1補正18億円/R2当初261億円】
○地域経済をけん引する企業などを重点的に支援し、イノベーションによる新事業展開(地域未来投資)を促進。
○訪日客目線でのコンテンツ開発、商店街などのデータ活用などによるインバウンド需要の取り込み強化。
○大企業の中堅人材などによる地方での起業や中小企業への就職などを後押し。
○地域・社会課題を解決するビジネスモデルや地域における創業を支援。
○海外販路開拓などに向けた商品・サービス開発やブランディングなどの支援。
(補正)インバウンド需要拡大推進事業【5億円〈R1補正〉】
・中小企業などと外国人専門家が連携し、外国人観光客に売れる商品・サービス開発や店舗データ分析などによる効果的な商品・サービスの提供を支援。
(補正)大企業人材等の地方での活躍促進事業【5億円〈R1補正〉】
・大企業の中堅人材などを対象に地方でのビジネスなどに必要なスキルの向上などを支援。地域企業に有効な人材確保手法の調査などを実施。
(当初)地域未来投資促進事業【143億円(159億円)】
・地域でのイノベーション創出に向けた支援体制を強化するとともに、ものづくり技術・サービスモデルの開発などを支援する。
(当初)地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業【5億円(新規)】
・地域、社会課題を広域的に束ねて解決する実証事業を支援することなどにより、企業の創業・成長を通じた地域と企業の共生を促進する。
(当初)JAPANブランド育成支援等事業【10億円(新規)】
・人口減少などにより内需が弱い中、中小企業が海外需要を獲得し付加価値を高めていくことがより重要となっている。海外展開などを進める上では、市場ニーズに合致した商品・サービスを開発し、磨き上げた上で販路開拓につなげていくことが不可欠。
・このため、本事業では中小企業者などが行う、市場ニーズに対応した新商品・サービス開発やブランディングなどの取り組みに対して補助を行う。
・その際、ECやクラウドファンディング、地域商社による輸出支援など、販路開拓の手法が多様化しつつあることを踏まえ、新たな販路開拓のノウハウを持つ支援事業者と連携した取り組みを重点的に支援する。
4.経営の下支え、事業環境の整備
(当初)日本公庫による政策金融(マル経融資含む)【205億円(207億円)】
(当初)消費税転嫁状況監視・検査体制強化事業【31億円(33億円)】
(当初)中小企業取引対策事業【10億円(10億円)】
・「未来志向型の取引慣行に向けて」で掲げた三つの重点課題(価格決定方法の適正化、コスト負担の適正化、支払い条件の改善)への対処のため、下請代金支払遅延等防止法の厳正な運用、相談窓口の体制整備や取引条件改善状況調査などの実施や、価格交渉サポート等事業を実施する。これら事業を通じ、親事業者と下請事業者双方の取引適正化や付加価値向上、サプライチェーン全体にわたる取引環境の改善を図る。
・国、独立行政法人、地方公共団体などの入札情報をワンストップで閲覧可能な「官公需ポータルサイト」の運営などを通じて、官公需についての中小企業者の受注の機会の増大を図る。
(当初)小規模事業対策推進等事業【59億円(50億円)】
・小規模事業者は、地域の需要に応え、雇用を担うなど、極めて重要な存在。同事業者にとって身近な存在である商工会・商工会議所は、地域に根差した経営指導を行っており、事業者の振興において重要な役割を担い、平成31年度から令和5年度までの5年間で以下の取り組みを支援する。
・商工会、商工会議所が「経営発達支援計画(小規模事業者支援法)」に基づき実施する小規模事業者への伴走型支援を推進する。
・全国商工会連合会、日本商工会議所が実施する商工会・商工会議所などと連携し、地域の産業の活性化、観光開発など、地域の経済活性化に向けた取り組みを支援する。
・働き方改革など、制度改正による諸課題に円滑に対応できるよう商工会・商工会議所などが、窓口相談や専門家を派遣する。
(当初)商店街活性化・観光消費創出事業
(臨時・特別の措置)【30億円(50億円)】など
・商店街は多種多様な店舗が集積し、「地域の顔」として、消費者に対して面的な魅力を提供している。一方で、地域の需要や消費者ニーズの変化といった構造的な課題に直面するなど、経営環境などは厳しさを増しており、地域と連携した対応の必要性が増加している。
○このような状況の中で、商店街を活性化させ、魅力を創出するためには、近年大きな伸びを示しているインバウンドや観光などの機会を捉え、地域外や日常の需要以外から新たな需要を取り込み、地域の来訪者の増加を促すことで消費の喚起につなげることが重要。
○このため、本事業では、地域と連携した魅力的な商業・サービス業の環境整備などを行い、インバウンドや観光といった新たな需要を効果的に取り込む商店街などの取り組みを支援する。
5.災害からの復旧・復興、強靱化
【R1補正375億円】
(補正)グループ補助金【190億円〈R1補正〉】
(補正)地域企業再建支援事業(自治体連携型補助金)【41億円〈R1補正〉】
(補正)被災小規模事業者再建事業(持続化補助金)【58億円〈R1補正〉】
(補正)資金繰り支援(政策金融・信用保証)【86億円〈R1補正〉】
(当初)中小企業強靱化対策【独立行政法人中小企業基盤整備機構運営費交付金の内数】
詳細はこちらを参照。 https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/yosan/index.html
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