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コラム石垣 2020年2月11日号 宇津井輝史

誰も反対できないことを声高に叫ぶ人々がいる。核兵器の廃絶は誰もが望むことである。それを訴える勇気はむろん称えられるべきだが、ただちに廃絶できない事情を無視していては理想にたどりつけない。核はむしろ拡散の危険をはらむ。

▼戦争もそうだ。戦争に至る原因と、そもそも私たち人類が築いた社会の好戦的な性格を無視して、声高に反戦を叫ぶ態度もやはり理想を遠ざける。平和はいわゆる平和主義者だけのものではなく誰もの理想である。

▼環境問題はどうか。地球の温暖化にブレーキをかけるのは急務である。その意味でスウェーデンのグレタ・トゥンベリさんの行動力と発言力は称賛に値する。だが、ただちにその主張を実現しようとすれば、世界経済は縮小し、失業率は数倍に、貧富の格差はさらに広がろう。理想を声高に訴える姿勢は気高いが、気高さと自己愛は往々にして同居する。

▼ここにひとり、自己愛とは無縁の、純度の高い気高さを持つ人がいた。日本人医師、中村哲さんである。残念なことに中村さんは、昨年末アフガニスタンで凶弾に倒れた。

▼1984年にパキスタンの病院に着任したのを皮切りに、中村さんは同国やアフガンで精力的な診療を行ってきた。アフガン全土で2000年から大かんばつが深刻化。それを機に、民を救うための水と食糧を確保する基盤として用水路建設に着手する。独学で図面を引き、自ら重機を操作した。砂漠を1万6500㌶の農地に変えた。住民に食糧と水の恵みをもたらし、感染症からも救った。

▼中村さんは理想を声高には語らなかった。少しずつ、しかし着実に理想を手繰り寄せていった。73年の生涯を貫いたのは、生きている人々への限りない共感と友愛だった。

(文章ラボ主宰・宇津井輝史)

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