コラム石垣 2020年2月1日号 神田玲子

第四次産業革命は、技術だけではなく、ビジネスの在り方をも変える可能性がある。農業のIT化に取り組んでいる、某企業の話。その企業は、ドローンを使って農薬を散布する技術を開発した。人工知能がドローンから送られてくる画像を分析し、害虫に対しピンポイントで農薬を散布する技術である。この技術を使うと、99・9%の農薬を削減することができるそうだ。減農薬野菜は、市場では一般的に高い値で取引される。そうであれば、農家がこぞって、この技術に投資をするはずだと思われたが、実際はそうはいかないとのこと。

▼そこで、この企業の経営者は、ドローンの技術を農家に無償で提供することを考えた。その代わりに、生産した農産物を通常の価格で全て買い取らせてもらう。企業は通常の価格水準で野菜を仕入れ、減農薬野菜として高い値を付けて市場で販売するため、もうけが発生する。それを農家と分配している。一方、技術の導入をちゅうちょしていた農家は、無料で最新の技術を利用でき、農作物は通常の市場価格で買い取ってもらえるので損はない。リスクをとりたくない農家から見れば、納得がいく方法だ。

▼これは、事業者の間でリスクの認識に乖離(かいり)が生じている場合の新しいビジネスモデルの形といえるだろう。IT化を高リスクと考えている側のリスクを、低リスク側が負担し、生産によって得られた超過利潤を両者の間で分配する。この方法が有効なのは、両者の間に信頼関係があるからではないだろうか。それがなければ、技術の導入が進まず、低利潤に甘んじてしまう。革新的なIT技術の導入を促進するための信頼関係に基づいた新しいビジネスの在り方といえよう。

(NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)

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