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こうしてヒット商品は生まれた! SUWADAつめ切り

厚みのある爪でもサクッと切れる、鋭い切れ味が特徴。手用と足用があり、巻き爪や変形した爪の手入れもらくらくこなす。SUWADAつめ切りクラシック S(約10㎝)6804円、L(約12㎝)7020円(ともに税込)。メタルケース入り

金属加工のまち・新潟県三条市で、家庭用品・園芸用品の製造・販売を手掛けている諏訪田製作所。同社の主力商品である爪切りは、1丁約7000円という高価格にもかかわらず、好調な売れ行きを維持している。同商品はいかに誕生し、現在のようなヒット商品へと成長したのだろうか。その秘密を探ってみた。

喰切の技術を爪切りに応用

最近では100円ショップでも扱っている爪切りに、7000円も払う人間がいるのか? と不思議に思うかもしれない。ところが、この高額な爪切りが売上を伸ばし、今や堂々のヒット商品となっているのだ。

その爪切りを製造・販売しているのが諏訪田製作所だ。江戸時代から鍛冶産業が根付き、刃物や作業工具などの生産が盛んな新潟県三条市で、同社は大正15年に喰切(針金などを切る工具)の製造で創業した。

鍛冶職人たちの工房が軒を並べる中、創業者の小林祝三郎氏は、「どうせつくるなら、ほかとは違う、使いやすい道具をつくりたい」と、喰切の取っ手をカーブさせて握りやすくし、その間にバネをつけた。この工夫によって連続使用が容易になり、高い評価を得る。ところがその後、量産型のニッパーに押されて売れ行きが徐々に低下。そこで、昭和25年に新たに開発したのが爪切りだった。

「それまで、日本には爪切りという道具はなく、糸切りばさみや喰切で爪を切っていたようです。喰切の技術を生かして爪切りをつくろうと考えたのは、当社にとっては自然な流れでした」と同社代表取締役の小林知行さんは説明する。

同社の爪切りはすぐに評判になり、その後はさらに改良が重ねられた。バネをコイル状から板状に変えたり、爪のカーブに合わせて刃を斜めにしたりと、何度かモデルチェンジを繰り返し、平成8年に「SUWADAつめ切り」が誕生した。

価値に見合った価格で売る

同商品の一番の特徴は、鋭い切れ味と耐久性だ。刃物の切れ味の良し悪しは、材料となる金属をいかに鍛えて、内部の空隙をつぶすかで決まる。通常、爪切りの鍛造にかける圧力は80t程度だというが、同社では400tもの圧力をかけて刃の強度を上げ、形状を保つため、鋭い切れ味が何年も続くというわけだ。

「発売当時、この爪切りの生産は年間1000丁程度でした。小さくて手間も掛かるのに、『小さいから1000円でしか売れず、もうからない』という理由でね。ですから、もっとつくりやすくして価値に見合った価格をつけ、もうかる仕組みを構築しなければダメだと思いました」

そこで小林さんは工程を見直して生産性向上に取り組み、同商品のメーカー希望小売価格を6500円+税に設定。早速、取引先を営業して回った。しかし、首を縦に振るところはなく、「何の冗談か」と笑われることさえあったという。仕方なく作戦を変え、今度は直接小売店に飛び込んで「買ってくれなくてもいいから、商品を置かせてほしい」と頼み込んだ。それでも大半の店には断られたが、神戸にある文房具店が1丁だけ置くことを了承してくれた。すると少したって、「あの爪切りが売れたから、あと2~3丁送ってほしい」という電話が入る。なんと、某有名俳優が買っていったのだという。

「100円の爪切りも7000円の爪切りも、買った直後の切れ味は大して変わりません。長く使ってこそ、違いが分かる。それさえ知ってもらえれば、高品質なものを求める人は必ずうちの爪切りを買ってくれる、と確信しました。そこで展示会に出てどんどんアピールすることにしたのです」

機能だけでなく、シンプルで美しいフォルムの同商品は、「グッドデザイン賞」などを受賞したことも追い風となり、国内のみならず海外でも高く評価されるようになっていった。

工場を開放し知名度アップ

同商品は、その後もモデルチェンジを繰り返し、さらに進化していく。機能性を追求し続けた結果だが、類似品が多数出回り始めたことも大きな理由だ。そうした努力によって品質は一層磨き上げられ、商品のラインナップも増えていった。

また、販路も従来のBtoBから、BtoCへとシフトしていく。まずはインターネットのショッピングモールに出店。「1丁7000円の爪切り」というインパクトから注目を集め、徐々に売れるようになり、口コミが広がった。雑誌や新聞に取り上げられて認知度も上がり、それがさらなる売上増につながった。

さらに平成17年、本社工場前にショールームをオープンし、一般の人が商品を直に手に取れる場をつくった。23年には工場を改装して、建物全体を真っ黒にペイントした。洗練された印象の新工場は、周囲の田畑とのギャップから非常に目立つ。しかも、フラッと立ち寄っても、誰でも予約なしに自由に工場内を見学することができるというのだ。

「黒にしたのは、それが鍛冶屋の色だから。外観だけでなく、工場内の壁も、床も、機械も、ほとんど黒に塗っています。色数が少ない環境の方が集中できるので、職人の作業もはかどるんです」

改装後3年がたった現在、工場には年間2万人以上が見学に訪れる。その多くはショールームに立ち寄り、お土産を買っていく。そこでの売上は年間2000万円ほどになり、同社の営業利益に大きく貢献しているという。

「当社の製品の工程は大部分が手作業。爪切りは年間5万丁つくるのがやっとですが、それがほぼ完売してしまう状態が続いています。一人でも多くの人にものづくりの現場を見てもらい、当社の優れた職人技を知ってもらおうと努力してきた成果だと思っています」

今や金属加工のまちを象徴する商品の一つとなった「SUWADAつめ切り」。今後どのように進化するのか楽しみだ。

会社データ

社名:株式会社諏訪田製作所

住所:新潟県三条市高安寺1332

電話:0256-45-6111

代表者:小林知行 代表取締役

設立:昭和49年

従業員:48人

※月刊石垣2015年2月号に掲載された記事です。

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