明治35年にラムネをはじめとする清涼飲料水の製造販売で、佐賀県小城市に創業した友桝飲料。以降、同社が生み出してきた数々のオリジナルサイダーの中でも、平成15年に販売を開始した「こどもびいる」が根強い人気を誇っている。名前の通り〝子ども向けノンアルコール飲料〟なのだが、全国どこででも買えるわけではないこの商品が、売れ続ける秘密とは?
名前を聞いただけでピンとくるような商品を
「ガラナ」という飲み物をご存じだろうか。ブラジルではコーラと並ぶ国民的炭酸飲料で、少々薬臭い、独特の味わいを持つ。日本では昭和33年に全国清涼飲料協同組合連合会によって開発された。しかし、大都市ではコーラが広く普及していたため、普及の遅れた地方都市などで、主に中小飲料メーカーが製造販売を行ってきた。
明治35年創業の友桝飲料もその一つだ。当初からラムネやサイダーなどを中心に扱ってきた同社は、いち早くガラナの販売を開始。地域に定着していた。
転機は平成15年の夏。ガラナを納入している福岡のもんじゃ焼き店「下町屋」の店主から、1通のメールが届いたのだ。
「その店では、ガラナの見た目がビールに似ているからと、面白がってラベルをはがし、『こどもビール』というオリジナルのラベルに張り替えてお客さんに提供していたらしいんです。すると、あれよあれよという間に人気商品になり、ラベルの張り替えが間に合わなくなったので、店限定品をつくってもらえないか、ということでした。会ったこともない人からいきなりそんな依頼をもらい、驚きましたが、オリジナル飲料というところに興味を引かれ、引き受けることにしたんです」と同社三代目社長の友田諭さんは説明する。
当時27歳の友田さんには、名前を聞いただけでピンとくるような、ブランド力のある商品をつくってみたいという強い思いがあったのだ。
商品名に合わせて徹底的に泡立ちにこだわる
そこへ飛び込んできた「こどもビール」というネーミングに、大きな可能性を感じた友田さん。開発に当たり、下町屋の店主と何度も打ち合わせを重ねた。まずは商品名。アルコールと誤認される可能性を回避し、かつ遊び心が伝わるネーミングがいいと、「こどもびいる」に変更する。それに合わせて商品ロゴやラベルデザインの制作を進める一方、商品づくりに取り組んだ。
こだわったのは泡立ちだ。〝ビール〟をうたう以上は、グラスに注いだときに豊かな泡がいつまでも残るようにしたい。それには、泡持ちを良くする処方に改良すればいいのだが、そうすると、炭酸飲料のため瓶内で泡立ちが発生して液体を均一に充填しにくくなり、生産効率が著しく低下してしまうというデメリットがあった。
「通常、炭酸飲料は泡を立てないようにつくるのが鉄則ですが、『こどもびいる』はその逆をやろうとしていたわけです。炭酸に頼らず泡立ちを良くするには、そういう性質の原料を配合しますが、入れ過ぎると粘度が高くなり、後味がベタベタしてしまう。すっきりした飲み口になる原料と炭酸の配合バランスを見いだすまで、思っていた以上に時間がかかってしまいました」
数カ月の試行錯誤の末、泡立ちの問題をクリア。原料のガラナには個性的な風味があるため、口当たりの良いアップル風味に仕上げて商品が完成した。
その年の年末から下町屋でテスト販売を開始すると、「酒が飲めない人でも飲んでいる気分になれる」と好評を得て、たちまち店のナンバーワン商品となる。その後も味や泡立ちを微調整してリニューアルを重ね、16年夏に一般販売をスタートした。
遊び心が大人にも受け大ヒット商品に
早速、取り引きのあった問屋に持ち込んで新商品を説明して回ったが、反応は芳しくなかった。
「当社のような中小メーカーは、全国展開したところで大手メーカーにはかないません。そこで当初から『こどもびいる』を、家族だんらんや人の集まる場所で飲む〝ここ一番のとっておきの商品〟として提案。飲食店、旅館やホテル、テーマパークなどを中心に扱ってもらえるように営業を展開したんですが、最初はほとんど相手にされませんでしたね」と友田さんは苦笑いする。
そんなある日、佐賀県流通課の案内に応募して「FOODEX JAPAN」という食品見本市への出展が決まる。初の試みだったが、開催期間中は人だかりが絶えることがなく、大きな手応えを得る。
「取り引きのある問屋には相手にされなかったのに、展示会で初めて会った人たちには興味を持ってもらえたのです。それが大きな自信になり、『こどもびいる』の本当の良さを理解し、価値観を共有できる相手と取り引きしたいと思いました。そこで当時、清涼飲料の分野では珍しかった、地域・エリア契約店制をとることにしたんです」
以降、契約店から注文が入るようになり、徐々に売れ行きを伸ばす。ペットボトルが主流の時代に「瓶入り+王冠」というレトロなデザインからメディアに取り上げられる機会も増え、知名度が上昇。さらにネットのニュースに掲載されたのを機に注文が急増し、年間販売本数200万本という、中小飲料メーカーとしては異例のヒット商品となった。発売から10年たった現在も、年間100万本と、手堅い売れ行きを保っている。
「人気に火が付いてからは、全国から引き合いが来るようになりました。その気になればもっと販売本数を増やすこともできましたが、あえてそうはしていません。この商品に関しては、やはり〝ここ一番のとっておきの商品〟として扱ってくれるところとお付き合いしながら、長く売り続けていきたいと思っています」
近年では、顧客のニーズに応じたオリジナルラベル付きの商品づくりにも力を入れている同社。今後、同商品がいかに進化し、どんなエピソードが生まれるか楽しみだ。
会社データ
社名:株式会社友桝飲料
住所:佐賀県小城市小城町岩蔵2575-3
電話:0952-72-5588
代表者:友田諭 代表取締役社長
設立:昭和41年
従業員:70人
※月刊石垣2015年3月号に掲載された記事です。
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