ギョーザのまち・宇都宮で物流会社としてスタートしたユーユーワールド。その後、貿易、人材派遣、業務請負、介護サービスと事業を拡大してきた同社が、「栃木の食材をもっと広く知ってほしい」との思いで開発し、昨年6月に販売開始した「ご飯にかけるギョーザ」が売れ行きを伸ばしている。この一見突拍子もない商品は、実は綿密なマーケティングの下に生み出されたものだった。
バイヤー経験を生かし意外性のある商品を提案
栃木県宇都宮市が、ギョーザによるまちおこしを推進し始めたのは平成2~3年ごろのことだ。「家計調査年報」でギョーザの購入額が常に上位で、市内にギョーザを扱う店も多かったことが発端だが、今やすっかり「ギョーザのまち」として定着している。そうした環境の下、昨年6月に登場したのが、同市内にあるユーユーワールドが開発した「ご飯にかけるギョーザ」だ。
「配送の仕事柄、栃木にはおいしい食材がたくさんあるのに、世間にあまり知られていないと感じていました。もっと栃木の食材の認知度を広げたいと思い、銀座栃木屋という飲食店をオープンしました。そこで、県産品を活用したオリジナルドレッシングをつくったのが、当社の食品事業の始まりです」と同社社長の小川恒夫さんはきっかけを説明する。
ドレッシングは大量生産するまでに至らなかったが、新規事業を立ち上げたからにはヒットを狙いたいと、次なる商品開発に着手する。それを担当したのが、同社新規事業開発推進部執行役の白濱一久さんだ。かつて香港のスーパーでバイヤーをしていた経験のある白濱さんはこう振り返る。
「初めて宇都宮に来たとき、お客さまに持たせられる土産物がないなと感じました。通常ギョーザは冷凍されているので、常温で持ち運びできないものかと考えるうち、ふと〝かけるギョーザ〟があったらおもしろいんじゃないかとひらめいたのです。バイヤーとしての私の経験上、売れる棚に新規参入して勝つのは、『こんなの見たことない』という商品が多い。そこで社長に『ご飯にかけるギョーザなんてどうですか』と聞いたら、『なんだそりゃ!?』という反応。その驚き様を見て、これならいける!と確信しました」
商品が売れないなら話題をつくればいい
白濱さんの頭にあったのは〝たれ皿に残った肉とキャベツ〟だ。ギョーザを食べたあと、たれ皿の肉片やキャベツの混ざった酢じょうゆをご飯にかけると実においしい。あれを瓶詰めにできたらと考えたのだ。とはいえ、実際にひき肉を使うと日持ちしないため、県産品の湯葉のおからで代用。それに玉ねぎやニンニクなどをさまざまな大きさに刻んで混ぜ、食感を追求したところ、ピーナッツを混ぜるとよりギョーザらしくなることを発見した。
「一般的に、万人に好まれる味を追求すると濃くなるものです。特にこの商品は少量で使うものなので、最初のひと口で『うまい!』と思わせるには、酸味もニンニクも油も多めにしないといけません。そこで通常の配合量から、それぞれ20%ずつ増量した味付けに落ち着きました」と白濱さんは説明する。
10カ月にも及ぶ試行錯誤の末、ようやく商品が完成した。昨年6月に開催されたJAの展示会でお披露目をしたところ、スーパーのバイヤーやホテルの調理人などから絶賛される。肉の代わりに大豆やピーナッツを使ってギョーザの味わいを再現していることにも興味を持たれた。大きな手応えを得た白濱さんは、次に販路を検討した。
「小売価格を500円前後に設定して、まず道の駅に売り込んだらすぐにOKをもらえたんですが、スーパーには軒並み断られました。類似商品は200円台が相場なので、高すぎるというわけです。結局、道の駅しか扱いがなく、売れ行きも今ひとつという状況が1カ月ほど続きました。そこで発想を転換し、商品自体を話題にすることにしたんです」
他社とのコラボレーションで世間をひきつける
目を付けたのがインターネットの活用だ。会社が休みになってネットを見る時間の増えるお盆の時期に焦点を合わせ、ネットのニュースサイトや情報サイトにサンプルを送って記事にしてもらえるよう働きかけた。
「するとじわじわと『かけるギョーザって何?』という話題が拡散されていき、偶然にも昨年の8月13日にヤフーニュースで『かけるギョーザが巷で話題』と取り上げられたんです。実はさほど売れていなかったのに(笑)。お盆明けに話題を聞きつけたテレビの情報番組で紹介されたのを機に、全国のスーパーや量販店から注文がくるようになったんです」
当時同商品は日産で3600個がせいぜいだったため、たちまち在庫切れに陥ったが、複数の工場に発注することで10月中旬には全国からの注文に応じられる体制を整えた。
それと並行して新たな商品開発も進め、11月には「ご飯にかけるギョーザ うま辛」を発売する。今年1月には「岩下の新生姜」で知られる岩下食品(栃木市)とコラボした「ご飯にかけるポッカポカ」、3月には北陸新幹線開業に合わせて富山の海産物店・順風屋とコラボした「ご飯にかけるサカナ」など、シリーズ商品を次々と世に送り出した。そうした世間の記憶から消えないようにする同社の戦略は奏功し、オリジナル品だけですでに累計販売数80万個超と好調な売れ行きを維持している。この1年を振り返って小川さんはこう話す。
「もともと弊社は『何でも屋』です。物流からスタートして、今では食品事業も大きな柱に成長しつつあります。『ご飯にかける』シリーズとともに、わさびやショウガ、ガーリックなどの香辛料と出汁を加えた『世界醤油』という新商品にも力を入れていて、海外への商談を進めているところです。今後も日本が誇る味を、内陸県の栃木県から世界に発信していきたいですね」
次々に話題の商品を繰り出すユーユーワールド。今後の動向から目が離せそうにない。
会社データ
社名:株式会社ユーユーワールド
住所:栃木県宇都宮市平出工業団地39-5
電話:028-664-3007
代表者:小川恒夫 代表取締役社長
設立:平成6年
従業員:100人
※月刊石垣2015年7月号に掲載された記事です。
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