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こうしてヒット商品は生まれた! 『宙ガール』シリーズ

5色で展開する「ソラプティLite H8×21WP」の本体。レンズ径を小さくして小型軽量化し、持ち運びやすいのが特徴

日本でナンバーワンのシェアを誇る天体望遠鏡メーカー・ビクセン。従来、この分野は男性ユーザーが大半を占めていたが、平成24年に発売した初の女性向け双眼鏡「宙ガール」シリーズの登場により、じわじわと女性ユーザーが拡大している。同社が、商品開発・販促にあたって当初から積極的に活用してきた〝女性の視点〟について探る。

きっかけは野外フェス

日本中が沸いた平成24年5月の金環日食はまだ記憶に新しいが、近年それ以外にも皆既月食や流星群など、大空を舞台にした天体ショーの話題を耳にする機会が多くなった。それだけ興味を持つ人が増えたからだろうが、そうでなくても夜空の月や星を眺めていると、日常生活を忘れて癒されるという人はきっと少なくないだろう。

しかし、一昔前まで、天体望遠鏡を楽しむのはマニアックな人が中心であった。光学機器である天体望遠鏡は素人が手を出すには少し取っ付きにくい上に、値段も高いイメージがある。そうした理由から、ユーザーの大半を男性が占めていた。

そんな業界に彗星のごとく登場したのが、天体望遠鏡メーカーのビクセンが開発した「宙ガール」シリーズだ。女性を想定してつくった双眼鏡で、小型ながらも月のクレーターや星々の色の違いなどがはっきりとわかり、夜空を十分に堪能できる。従来品にはない見た目のかわいさや持ち歩きやすさが受けて、現在じわじわとユーザーが増えているのだ。

同社が女性に着目するようになったのは、アウトドアイベントや野外フェスティバルなどに参加したのがきっかけだった。「それまでは男性客の多い光学機器の展示会やイベントにしか出たことがなかったので、女性がたくさんいる状況は新鮮な驚きでした。特に静岡県富士宮市で開催された朝霧JAMという2泊3日の野外フェスティバルに参加した際、『昼間は双眼鏡でライブを楽しみ、夜は星空を眺めよう』とアピールしたら、たくさんの女性に興味を持ってもらえたんです。そこで、ひょっとしたら女性にもニーズがあるんじゃないかと……」と同社取締役企画部部長の都築泰久さんは、女性を対象とした商品開発のきっかけを振り返る。

初の女性向け双眼鏡でブームを仕掛ける

21年、同社は女性向け商品の開発に着手すると同時に、星空が好きな女性を「宙ガール」と命名して、星空の魅力や楽しみ方についての情報発信を開始した。24年7月、倍率8倍の双眼鏡と、ステッカーやガイドブック、ファイバークロス、専用ストラップやケースなどをセットにした「ソラプティ」シリーズを発売する。

情報発信などのかいもあって出足は好調だったが、しばらくすると売れ行きが落ちてしまう。セット内容はかわいいものの、双眼鏡の本体は黒く、手にとりやすい軽く安価なタイプのものでも重さが400g近くあり、価格も2万円台後半と決して安くなかったため、よほど星好きでないと女性には手を出しにくかったのだ。

「当時はまだ女性ニーズがよく分かっていませんでした。そもそも多くの方は、双眼鏡で星を見るという感覚を持っていません。まずは手に取ってもらい、その思い込みを払しょくしてもらうのが先決だと思い至りました」と都築さんは説明する。

そこで同社は、ピンクやブルーなどのビビッドカラーの双眼鏡をデザインした。中央部が折れ曲がる1軸タイプから、2カ所が折れ曲がる2軸タイプにして可動域を広くし、女性の小さい顔にも合わせやすくした。さらにレンズ径を「ソラプティ」シリーズの半分の21㎜として、全体の小型軽量化に成功。「宙ガールLite」の名で24年10月に販売を開始した。

そして今年の2月、宙ガールLiteに専用ストレッチポーチ、星空をプリントしたクロス、リボンストラップなどをセットにした「ソラプティLite」を発売。価格を8000円前後に抑えたこともあって注目されるようになり、現在、シリーズの総販売台数は約7000台に到達した。

星を楽しむトータルスタイルも提案

一連の商品企画や販促活動をけん引してきたのが女性社員たちである。長年、男性目線で商品を展開してきた同社にとって、女性マーケットはいわば未知の領域。そこで早い段階からプロジェクトチームをつくり、「女性にしか分からない視点」を随所に反映させてきた。

例えば、コンサート用に買った双眼鏡を、日常的に楽しむアイデアをメールマガジンなどで紹介したり、女性限定の星空観察や自然観察などの「宙ガールツアー」を企画して普及に努めた。

「昨年からは、双眼鏡へのデコレーションを提案しています。携帯電話にするようにデコパーツで装飾したり、布やシールを張ってオリジナリティを発揮しようというものです。『何のために?』と思うかもしれませんが、一手間かけると愛着が湧いてきて、ただの道具から『自分だけの持ち物』へと進化するんです。そうして普段から気軽にカバンに入れて持ち歩いてもらえたら」とチームの一員である企画部宣伝企画課の藤田彩香さんは期待を寄せる。

さらに宙ガールファッションも考案し、展示会やイベント会場などでは女性チーム自らモデルとなり、星を楽しむトータルスタイルとして提案。こうした一連のアイデアや取り組みは、着実に女性ユーザーの心に刺さっているようだ。

「男性社員だとつい性能に目がいきがちですが、女性はまず持ちたいと思えるものをつくろうよ、という発想をします。宙ガールシリーズを見ていて、確かにその通りだと納得しました。これをとっかかりに星空の魅力にハマって、次はもう少し性能のいい機種に移行してもらえるよう今後も商品開発していきたいです。組み立て操作を簡潔にした宙ガール向けの天体望遠鏡も企画していきたいです」と都築さんは言う。

ピンクやブルーの双眼鏡や天体望遠鏡を手にした宙ガールを、あちこちで見かける日もそう遠くないかもしれない。

会社データ

社名:株式会社ビクセン

住所:埼玉県所沢市東所沢5-17-3

電話:04-2944-4000

代表者:新妻和重 代表取締役社長

設立:昭和44年

従業員:88人

※月刊石垣2015年6月号に掲載された記事です。

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