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こうしてヒット商品は生まれた! レアシュガースウィート

ブドウ糖と果糖をメインに、D-プシコースやD-アロースなどの希少糖を約15%含む。甘さは砂糖の約9割。500g入り1296円と、270g入り756円(ともに税込)の2種類がある

創業から100年近く、でんぷんを中心とした食品加工を手掛けてきたパイオニア・松谷化学工業。同社が平成24年12月に一般向け販売を開始した希少糖含有シロップ「レアシュガースウィート」に、さまざまな生活習慣病を予防する働きがあるとして、今熱い視線が注がれている。しかし、〝レア(希少)〟とうたわれる新素材だけあって、商品化にこぎつけるまでにはさまざまなドラマがあった。

商品開発のヒントは偶然見たテレビニュース

「希少糖」という名を耳にしたことがあるだろうか。希少糖とは自然界に存在するさまざまな糖の中で、その存在量が非常に少ないものを指す。現在約50種類以上が確認されており、虫歯になりにくいとしてガムなどに配合されているキシリトールもその一つである。近年、さまざまな研究から、生活習慣病を予防する効果が明らかになった注目の素材だ。

でんぷん加工を主事業とする松谷化学工業が、希少糖の存在を初めて知ったのは平成15年4月のことだ。

「香川大学農学部の何森健教授が、自然界にある酵素を使って、希少糖の一つ『D-プシコース』の生成に成功したというニュースを、会長の松谷英次郎がたまたま見ていました。当社はでんぷんを主に扱っていますが、かつてはでんぷんを加工してブドウ糖をつくっていたこともあり、『これはひょっとするとすごい製品になるかもしれない』と直感したんです」と、同社取締役社長戦略室長の小柴貴明さんは説明する。

会長の命を受けて同社の研究所長が香川大学に赴き、詳しい説明を聞いた上で、希少糖の研究プロジェクトへの参加を申し出る。ところが、事はスムーズには運ばなかった。香川県、香川大学、県内医薬品メーカーなどの産学官が連携したそのプロジェクトは、地域経済の活性化を目的とする「知的クラスター創成事業」にも選ばれていたため、県外企業の参加に消極的なムードがあったのだ。

研究の過程で希少糖入りシロップが誕生

風向きが変わってきたのは16年に入ってから。D-プシコースの機能に関して一定の成果が出ているのに、実用化のめどが立たなかったのだ。食用として問題ないことは分かっていたが、商品化する技術力や実績を持つ企業が香川県内にないことがネックとなっていた。

「プロジェクト内では当初から、『健康食品として商品化しては』という意見が出ていたようです。機能性を前面に出してトクホ(特定保健用食品)を取得できれば、国からお墨付きをもらったことになりますから。そうした流れで、糖が製造できて、トクホにも実績のある当社にお声が掛かったんです」

同社はすでに食物繊維素材「パインファイバー(難消化性デキストリン)」でトクホ認定の実績があり、取得のノウハウもあった。そこでD-プシコースのさまざまな機能試験を開始し、丹念にデータを集めた結果、血糖値の上昇抑制、内臓脂肪の蓄積の抑制、非う蝕性(虫歯のなりにくさ)などの働きがあることを確認する。それを基に、22年に血糖値上昇抑制機能でトクホの申請を行った。

一方、同社は、希少なD-プシコースの生成量を増やす研究も進めていた。D-プシコースは、原料のブドウ糖を酵素で異性化(分子式は変えずに化学構造を変えること)して果糖にし、それをさらに異性化することで生み出される。しかし、この方法では手間とコストが掛かり、1㎏4~5万円で売らないと採算がとれないのだ。

「そんなある日、当社の研究員が酵素ではなくアルカリで異性化することを思いついたんです。原料をアルカリで化学反応させると、果糖の一部が希少糖へと連鎖的に異性化します。ただ、強いアルカリを使うと色や苦味が出てしまう。そのため、それを取り除く方法を試行錯誤しながら見つけ出し、とうとうD-プシコースなどの希少糖を約15%も含むシロップが完成しました」

それは長年の経験のなせる業だった。D-プシコースの純品と遜色のない、すっきりとした味わいの甘味料を低コストで生産する方法を確立させたのだ。

こうして誕生した希少糖含有シロップは、「レアシュガースウィート」という名で23年に販売を開始。最初は業務用に特化していたが、24年12月から香川県内限定で、一般用(500g)の販売もスタートした。当時の売れ行きは月1000~2000本程度だったが、その後の全国展開を視野に入れ、25年に香川県「番の州臨海工業団地」内に工場を建設し、大量生産体制を整えた。

テレビで紹介され地方発のヒット商品へ

そして同年10月。テレビ番組で同商品が紹介されるや、翌日には6万本の注文が舞い込み、一時は生産が追い付かなくなるほどの売れ行きとなる。現在では少し落ち着いてきたものの高い需要を維持し、累計販売数は90万本を超えた。また、業務用のニーズも高く、香川のうどんチェーンがうどんのだし汁に使っているほか、ドーナツやプリンなどのスイーツ、清涼飲料など、幅広く活用されている。

「当面の目標は、国内の甘味料市場で300万tを占める砂糖のうち、10~20%を希少糖に置き換えること。コストダウンをさらに進めれば、可能性は十分にあると考えています。ただ、レアシュガースウィートは希少糖入りシロップであって、100%希少糖ではありません。D-プシコースの純品はまだ日本にはないので、早く市場に投入できるよう開発を進めたい。22年に申請したトクホが取得できれば、カロリーゼロで体にうれしい機能を持った甘味料が気軽に店で買える日も、そう遠くはないでしょう」と小柴さんは展望する。

希少糖は肥満問題が深刻化するアメリカからも引き合いがきており、早ければ今年中にも販売が実現しそうだ。食生活の欧米化に伴い、生活習慣病が増加傾向にある日本でも、今後ますますニーズの高まりが予想される商品といえるだろう。

会社データ

社名:松谷化学工業株式会社

住所:兵庫県伊丹市北伊丹5-3

電話:072-771-2010

代表者:松谷晴世 代表取締役社長

設立:昭和12年

従業員:400人

※月刊石垣2015年5月号に掲載された記事です。

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