こうしてヒット商品は生まれた! 『グリーンファン』シリーズ

シリーズの現行モデル「グリーンファンジャパン」。無駄を省いたシンプルデザインは、存在を主張せず、室内の壁と同化するようにと考えられている

創業10余年の小さなメーカー・バルミューダが、平成22年に発売した〝次世代型〟扇風機が異例のヒットを続けている。その名は「グリーンファン」。モーターの回転を利用して風を生み出すシンプルな構造だが、従来品と一体どこが異なり、なぜ多くの人から支持を得ているのか。その〝怒涛〟の製作秘話に迫る。

倒産の危機で新たな分野へ挑む

1台3万円以上する扇風機「グリーンファン」シリーズ。従来品の10倍ともいえる価格ながら、発売5年で数十万台を売り上げ、これ以上発展の余地がないと思われた扇風機市場に風穴を開けた。 同商品の特徴は、独自の14枚2重構造の羽根により自然界の風を再現したこと。さらにDCモーターを世界で初めて採用して、従来品の約20分の1の省エネルギーと、蝶2羽の羽ばたき音程度の13㏈という静音性を実現したことにある。

同商品を開発したバルミューダは、平成15年に創業したメーカーである。もともとパソコン周辺機器や照明器具などを扱っていたのだが、20年のリーマンショックあたりから経営が悪化する。

「いつ倒産してもおかしくないところまでいきました。どうせつぶれるなら最後はやりたいことをやって、前に倒れたいと。それで以前から興味のあった扇風機をつくることにしたんです」と同社社長の寺尾玄さんは振り返る。

かねてから、地球温暖化とエネルギー問題が21世紀最大のテーマと捉えていた寺尾さん。今後ますます温暖化が進んでも、電気代が高騰して今のようにエアコンが使えなかったら、扇風機が再び必要とされるときが来るかもしれない。そんな思いから、21年1月、開発に着手した。

自然界の優しい風を扇風機で再現する

人が扇風機に求めているのは、涼しさである。しかしながら、従来品が熱い空気をかき混ぜているだけと揶揄されるのは、ただ風を送り出すだけだったためだ。そこで、自然界の風と扇風機の風を比較したところ、風速と面の大きさが決定的に違うことを見出した。

「一般的な扇風機は、4~5枚の羽根をモーターで回して渦巻の風を生み出します。そのため風は直径50㎝ほどしか広がらず、風速も速い。一方で自然界の風は大きな面でゆっくり進んで全身に当たります。だから、皮膚表面の水分を蒸発させて気化熱を奪うため、心地よい涼しさを感じる。扇風機でもそういう風をつくれないかというのが最初の課題でした」

そこでまずは、扇風機の背面にパラボラアンテナをつけてみた。一度壁に当たると渦成分がなくなるが、これだと風が前に行かないため断念。ほかの方法を模索したところ、1枚の羽根から速い風と遅い風をつくることを思いつく。試しにファンの内側に5枚、外側には9枚の羽根を付けて回してみると、風速差により2種類の風が前方60~100㎝あたりでぶつかって渦成分が壊れ、そのあと風の面が大きく広がることがわかった。

「着手から1カ月ほどで、これ以上ない羽根の仕組みができてしまい、これは倒産している場合じゃないなと(笑)。周りから『この技術を大手メーカーに売った方がいい』と言われましたが、どうしても自分の手で完成させたかったので、死に物狂いで資金調達に奔走しました」

同年8月ごろには設計プランも固まり、この商品の肝となるゆっくり回るモーターの製造会社も見つかった。ところが、なかなか資金が集まらず、開発は暗礁に乗り上げる。それでも商品化にこぎつけたいとモーター会社に交渉したところ、試作品をつくる資金を貸してもらえることになった。現物があれば、金融機関も相手にしてくれるのではないかと踏んでのことだった。しかし、寺尾さんは試作品を片手に、金融機関ではなく販路開拓に回ったのだ。

「売れる自信はあったので、注文さえ取れれば借金が返せると思ったんです。無謀なのは承知の上。でも、予想をはるかに超える受注があったので、モーター会社の社長はあきれながらも、資金を全て立て替えてくれると言ってくれました。それが12月ごろの話で、そこから翌年5月の発売に向けて急ピッチで製造に取りかかりました」

心地よい〝体験〟をユーザーが求めている

商品が完成し、販売価格は3万3800円(当時)とした。しかし、無名メーカーがつくった高価格の扇風機がすぐに売れるはずもない。最低6000台は売らないと元が取れない計算だったため、寺尾さんは策を講じる。

「注目を集めるには商品を有名にするのが近道と思い、テレビで紹介してもらえるよう働きかけたのです。すると、とある深夜番組で、家電に詳しい芸人さんがグリーンファンを取り上げてくれたんですよ。おかげで一気に知名度が上がり、発売後は予想を上回る売れ行きとなりました」

こうして初年度の販売台数は1万2000台に上った。その後も1年ごとに機能やデザインをリニューアル。それとともに売れ行きを伸ばし、現在でも安定した人気を維持している。

それにしても、ここまでヒットした理由は何だったのか。

「すでに必要なものがほとんど揃った生活を送っている現代人には、機能性だけをうたってもさほど心に響きません。ユーザーが求めているのは、『うれしい』『楽しい』『気持ちいい』という体験。人生の役に立ち、喜びを与えてくれる商品であれば、市場性があることをグリーンファンが教えてくれました」と寺尾さんは力を込める。

同社は現在、五感をすべて使う「食」の分野に目を向け、キッチン家電の開発に力を注いでいる。その第一弾としてトースターを発売し、好調な売れ行きを示しているという。自由な発想で次々と商品を繰り出す同社の今後が楽しみだ。

会社データ

社名:バルミューダ株式会社

住所:東京都武蔵野市境南町5-1-21

電話:0422-34-1701

代表者:寺尾玄 代表取締役社長

設立:平成15年

従業員:50人

※月刊石垣2015年8月号に掲載された記事です。

次の記事

こうしてヒット商品は生まれた! ピンク醤油 華貴婦人

ブリリアントアソシエイツ株式会社

飲食、観光、食品加工などを幅広く展開しているブリリアントアソシエイツ。「食と健康」をキーワードに、鳥取からオリジナル食文化を発信したい、...

前の記事

こうしてヒット商品は生まれた! ご飯にかけるギョーザ

株式会社ユーユーワールド

ギョーザのまち・宇都宮で物流会社としてスタートしたユーユーワールド。その後、貿易、人材派遣、業務請負、介護サービスと事業を拡大してきた同...

関連記事

こうしてヒット商品は生まれた! 畳縁 無料会員限定

髙田織物株式会社

学生服や国産ジーンズなど繊維産業の盛んな倉敷市児島エリアで、1892(明治25)年に創業した畳縁(たたみべり)メーカー・髙田織物。生活様式の変化...

こうしてヒット商品は生まれた! バスセンターのカレー

新潟交通商事株式会社

観光土産品の卸と小売りで1939年に設立された新潟交通商事。現在、食品を中心に約5000アイテムの土産物を扱う中、ダントツの人気を誇るのが「バス...

こうしてヒット商品は生まれた! タンブラーシリーズ

株式会社キントー

滋賀県彦根市で、食器の卸売業としてスタートしたキントー。2006年を境に、ライフスタイルアイテムを中心とした自社ブランド商品の開発に力を入れ...