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こうしてヒット商品は生まれた! ふしぎなお皿

ふしぎななお皿

業務用食器の製造販売で創業後、早くから強化磁器の生産に取り組んできた小森谷嘉右衛門窯。平成14年、同社が一般向けに販売を始めた食器「ふしぎなお皿」が根強い人気を保ち、累計販売数120万枚を超える売れ行きを続けている。日本が誇る有田焼の伝統技術から、一体どんな〝ふしぎ〟が飛び出したのか伺った。

旅館の依頼で開発をスタートしたが……

下ごしらえしたアジをクッキングシートを敷いた皿にのせ、電子レンジで3分。裏返してさらに1分加熱すると、ふっくらおいしい焼き魚の出来上がり。ほかにも肉、野菜、卵、ご飯など幅広い食材を火を使わず手軽に調理してしまう、「ふしぎなお皿」という名の器がある。

同商品を開発したのは、有田焼で有名な佐賀県有田町で、昭和52年に創業した小森谷嘉右衛門窯だ。業務用食器の製造を本業とし、主に旅館やホテルなどに販売してきた。業務用食器は一般向けと比べて強度が重要だ。そのため、早くから割れにくい強化磁器に力を入れ、順調に売り上げを伸ばし事業を拡大していった。

ところが、バブル崩壊とともに有田焼業界全体が低迷。同社の業績も悪化していたところに、取引先の旅館からある依頼が舞い込んだ。同社社長の松永次男さんは振り返る。 「『熱に強い陶板をつくってほしい』と頼まれたんです。陶板焼きに使う器は、毎回火にかけるから割れやすく、意外に持たないんですよ。そこで、業績回復の突破口になればと、有田焼の風合いと熱への強さを兼ね備えた器づくりに乗り出しました」

こうして平成8年に開発をスタート。しかし、それは長い道のりの始まりだった。

発注元に断られ一般向けにシフト

まずは磁器のもととなる土選び。さまざまな種類の土と炭素をブレンドし、配合を少しずつ変えながら試作を重ねたが、なかなか思うようにいかなかった。鉱物である炭素の配合を多くすれば熱に強くなる半面、焼成するとガスが発生し、皿全体に細かい気泡が生じてしまうのだ。これでは釉薬(陶磁器の表面にかけるガラス質の薬品)がうまく乗らない上に、見た目も悪い。

「土の種類や炭素の配合割合、焼成温度など、思いつく組み合わせは全て試しました。最初は小さなミルで材料をブレンドし、少量を焼いたらうまくいったので、今度は大きなミルでブレンドして大量に焼いてみたら、微妙に仕上がりが違っていたり、ときには窯から取り出した途端に割れてしまうこともあって。これ以上何をどうすればいいかわからず、一度は諦めたんです」

しかし、「ここまでやったのにもったいない」と友人が技術協力を申し出てくれたことで、松永さんは開発を再開する。専用の電気窯をあつらえて試作を繰り返した結果、素焼きは1265℃の高温で、2度目は850℃の低温で焼き上げるとうまくいくことを見いだす。6年もの歳月を経て、とうとう200℃の熱を加えても割れない皿が完成した。

「ところがコストがかさんで価格が倍になってしまい、旅館が買ってくれませんでした。ほかの旅館やホテルを回ってみましたが、売れたのは500枚程度。これでは設備投資を回収できないので、単価の高い商品として一般向けに売り出すことにしたんです」

とはいえ、この皿は家庭での使用を想定していない。そこで試しに電子レンジで魚の切り身を加熱してみたところ、ふっくら香ばしい焼き魚が出来上がった。野菜でも試してみたが同様だった。従来品だと食材だけが温められ、器は熱くならないが、この皿には炭素成分が入っているため、電子レンジのマイクロ波を吸収し、皿自体が発熱して遠赤外線を放射する。そのため、まるで炭火で焼いたようにうま味を逃がさず、短時間でおいしく仕上がるのだ。試しにこの皿を使って肉を調理したかんぽの宿の料理長も、「素人でもプロの味が出せる」と大絶賛。この皿を「ふしぎなお皿」と命名。14年に百貨店や小売店などへの売り込みを開始した。

実演販売で大きな人気を得る

「1年ほど各地を営業に回りましたが、ただ説明するだけでは商品の良さが伝わりにくい。そこで実演販売したらどうかと思いつきました。食品売り場ではおなじみですが、食器売り場で行われることは少ない。やれば目立つし、実際に食べてもらえばおいしさも分かってもらえるだろうと、妻と手分けして九州や中国地方を回ったんです」

16年にチャンスが訪れる。実演販売での盛況ぶりに、東京の百貨店での販売を打診されたのだ。それを機に東京での販路が拡大し、売り上げも順調に伸びていった。ユーザーの口コミが広がり、インターネット通販会社から声が掛かってネット販売もスタートした。そして20年、テレビなどのメディアに取り上げられるようになると人気が爆発。テレビショッピング番組にもたびたび取り上げてもらえるようになり、ピーク時には月7万5000枚を出荷するまでになった。

「人気が出るにつれて、『うまく仕上がらない』『焦げ目がつかない』などのクレームも寄せられるようになったので、『ふしぎなお皿』レシピブックを作成しました。私たちが実演販売で培った食材ごとの加熱時間の目安や、料理研究家による本格レシピまで載った小冊子を、商品に1冊つけています。おかげでクレームはほとんどなくなりました」

〝レンジでチン〟するだけで手軽に調理ができるとあって、幅広い世代から支持され、累計販売数は120万枚を突破。今でも順調な売れ行きが続いている。

松永さんは「来年創業400年を迎える有田焼の底力を広く知ってもらいたい。そのためにも、今後も新しい発想で、人がやらないもの、ほかにはないものをつくり続けていきたいですね」と力強く語った。

会社データ

社名:有限会社小森谷嘉右衛門窯

住所:佐賀県西松浦郡有田町広瀬甲866-2

電話:0955-46-3622

代表者:松永次男 代表取締役社長

設立:昭和56年

従業員:18人

※月刊石垣2015年10月号に掲載された記事です。

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