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明るい未来に向け踏み出すとき 日本商工会議所第121回通常会員総会 三村会頭あいさつ

あいさつする三村会頭

六重苦が加速させたマイナスの影響

本日は、日本商工会議所第121回通常会員総会を、安倍内閣総理大臣、また、全国各地の商工会議所から、多数の皆さまにご出席いただき、盛大に開催することができ、誠にありがとうございます。

つい3年前まで、日本企業は六重苦、すなわち超円高、法人税の高さ、電力価格の高騰、自由貿易協定の遅れ、労働規制の硬直性、環境規制の厳しさに苦しんでいました。この結果、企業経営者、特に大企業経営者は、成長の源泉を海外に求め、海外投資を増加させてきました。 

この結果、需要のあるところで生産するという当たり前のグローバリゼーションが定着するとともに、大型海外M&Aの増加に見られるように、日本経済・経営人に外部環境に積極的に向き合うというポジティブな変化がもたらされました。

また、各企業は、逆風の中でも、国際競争力を確保するため、大企業も中小企業も協力して、徹底した合理化に向け努力を結集し、超円高、デフレ、経済縮小を乗り切ろうとしました。結果、多くの企業は、コスト、品質、サービスなどにおいて本当の実力を身に付けました。

さらに、海外投資からの所得収入が急増し、その65%が日本に戻ってきたことから、今後の設備投資や賃金増の原資を手に入れることになりました。

しかしながら、バブル崩壊以降、わが国は構造的な課題に対して適切な対応策が打てない状況が続く中で、六重苦の存在が、負の影響を大きく加速させました。

第一は、地方の疲弊です。企業が国内投資を縮小し、海外移転を増加させたことは、特に地方における職の流出に直結し、地方の雇用が減少し、若者を中心に地方から東京に人口が流出する大きな原因となりました。経済活動の低下はその地方の人口減少を加速化し、20年にわたるデフレもあり、地方の疲弊は、約3分の1に相当する523自治体が消滅する可能性があると指摘されるところまで、深刻化してしまいました。

第二は、日本経済の成長する力、すなわち潜在成長率の低下です。国内投資の減少は、当然、国内資本蓄積の減少をもたらし、供給力の低下を招きました。20年に及ぶデフレ下において、日本企業が設備投資を必要最小限に抑え、場合によっては更新投資すら絞ってきた結果、供給能力不足が顕在化し、大幅な円安により輸出可能性が出てきたにもかかわらず、すぐには輸出の増加につなげられなくなってしまいました。

また、国内のマーケット縮小と設備投資の低迷は、新たなイノベーションのチャンスを奪い、わが国産業は集中と選択ができないままに競争力を毀損(きそん)し、規制改革の遅れとも相まって、日本の生産性の伸びは諸外国に大きく劣後することとなりました。

さらに、国内生産の低迷は、貿易収支の悪化の一因ともなりました。原発停止によるエネルギー構造の変化も加わり、2014年の貿易赤字は約12・8兆円となり、3年連続で過去最大を更新しました。

以上のように、海外移転の伸展、国内設備投資の縮小は、国内資本蓄積の減少のみならず、労働人口の減少、さらには生産性の低下、貿易収支の悪化にもつながり、成長三要素に直接的な悪影響を及ぼしました。その結果、足元の日本の潜在成長率は0・6%程度に下落するに至りました。

局面を変えたアベノミクス

このようなトレンドを変えたのが、アベノミクスでした。わが国は、大きな局面転換を迎えています。

アベノミクスの第1の矢、第2の矢は、基本的には需要創出政策だと私はみています。長年にわたるデフレの一つの原因はデフレギャップ、すなわち総供給が総需要を上回っていたことで、価格も賃金も上げられなかったことにあります。これに対し、政府、日銀が協力して総需要を刺激したことで、需要が創出され、需給ギャップは大きく改善されました。

リーマンショック直後のデフレギャップは、マイナス8%、40兆円にも及びましたが、2014年には、マイナス1・6%、8兆円まで大幅に改善されました。20年続いたデフレからの脱却という構造転換がようやく現実のものとなっています。

また行き過ぎた円高の是正に加え、法人税減税、労働法制の弾力化にも着手、レベルの高いEPAである日豪EPAも発効し、大型の通商協定であるTPPも妥結の道筋が見えてきています。環境規制についても、中国と米国がCO2排出削減目標を明示し、国際枠組みに参加する意向を示すなど、わが国のみが大きなハンディを負った状態から大きな前進がみられています。

このように、TPPが成立すれば、エネルギーコスト以外の五重苦は改善の方向に向かいつつあり、企業マインドに大きなプラスとなります。さらに、エネルギーや各種資源価格が一斉に大きく引き下げられ、日本にとっては好ましい環境が形成されようとしています。

ただし、震災後、電力コストは28%も上昇していますが、商工会議所の調査で99割以上が価格転嫁できておらず、その引き下げのために安全の確認された原発の早期稼働、LNG調達の際のAsian Priceの解決など、早急な対策を強く求めてきています。

設備投資と輸出増が景気回復の原動力

これからは、いよいよ本格的な成長戦略の出番です。成長戦略とは、潜在成長率を引き上げるサプライサイド政策、すなわち資本蓄積、労働力、生産性の向上対策などであります。

資本蓄積のためには、マーケットが拡大することが大切です。日本は、GDPに占める輸出比率が2012年実績で13・4%と、先進国では9・9%の米国に次いで低い国、つまり内需主導で成長してきた内需立国であります。しかし今後の人口減少トレンドを踏まえると、内需の伸びは、ありとあらゆる努力をしても、せいぜい1%~2%と多くを望めず、今後の成長のためには、大企業も中小企業も外需の捕捉が何としても必要となります。

円安下でも、地産地消型の海外現地生産は続けられるでしょう。しかし同時に、わが国の人的資源や技術力の高さといった強みに加え、当面続くと想定される円安メリットなどの環境変化も生かしながら、国内設備投資により供給能力を高め、輸出競争力を強化することも重要な戦略です。

その意味で、私は、賃金増による消費拡大と同時に、「国内設備投資の増」と「輸出増」が景気拡大の原動力になり、またデフレマインドからの脱却を判断する指標になるものと注目しています。

マクロ経済指標、個別企業の投資動向いずれにおいても、良い傾向は見えてきています。

中小企業においても、国内での設備投資増に踏み切っている企業もあります。

しかし、依然として散発的な動きで力強さに欠けるのが現状です。10~12月期のGDP2次速報値においても、年率成長率プラス1・6%のうち国内設備投資はマイナス0・1%とマイナス寄与となっています。

中小企業強化がデフレ脱却の鍵

約4割も円安となるなど、六重苦の多くが改善している上に、原材料マーケットが日本に有利に変化するなど、明らかに競争環境が改善しているのに、なぜ設備投資と輸出が力強く増えないのか、大きな疑問です。

経営者が、円高に苦しんだ際の経営マインドから転換できず、120円程度という円安水準に確信が持てないで、具体的な投資を実行するまでに至っていないことが一つの理由として考えられます。確かに、円安だとしても、既存の海外生産を閉じて国内に帰り、需要地での生産を日本からの輸出に切り替えることは、考えにくい選択だと思います。

しかしながら、2月の商工会議所LOBO調査では、中小企業も含めた約19%の企業が、取引先の海外から国内へのシフトにより受注・売り上げが伸びている、あるいは伸びが見込まれるとしており、国内の状況も改善しつつあります。

一方で、実質金利がマイナスとなっている現状を踏まえると、新商品の製造拠点を海外にするのか国内にするのか、海外の製造能力が不足した際に海外に増強投資するのか国内能力を活用するのか、さらには日本から海外の製造拠点に向け部品や半製品を輸出することの可否などを真剣に見極める時代になったと思います。

政府は、デフレからの脱却という重要な環境転換を与えてくれました。これからは、いよいよわれわれ民間企業が、環境変化を捉え、これまでの貯蓄主体から本来の投資主体として行動すべきです。

特に、地域経済の中核的な役割を担う中堅・中小企業、小規模事業者が力強く事業を推進できることが大変重要であります。

しかしながら、小規模な企業や地方都市ほど景気回復が遅れているのが実情です。従って中小企業の景況感は、依然としてまだら模様と言わざるを得ません。特に中小企業はコストアップ分の価格転嫁が難しく、適正な取引価格の形成に向けた環境整備が必要であります。

商工会議所としても、中小企業の実態を踏まえて、イノベーションを巻き起こす経営支援や、新たなビジネスチャンスを生み出す規制改革について積極的に働きかけを行っていかなければなりません。

経済の好循環に向け人口減少に歯止めを

以上のようにわが国は、デフレマインドから脱却し、経済の好循環を実現していくことが急がれますが、二つの大きな構造的課題にも直面しています。その一つは、「人口急減と超高齢化の加速化」、もう一つは「地方疲弊の深刻化」です。

いずれも商工会議所の本来業務として、特に力を入れて対処すべき新たな課題であります。

本年は、新たな日本再出発の礎を築くために、商工会議所が一丸となってこれらの課題に取り組まなければならない勝負の年と言えます。

既に業種を問わず、人手不足を訴える声が寄せられていますが、これらは決して一過性の現象ではありません。東京商工会議所が中小企業を対象に実施したアンケートでも、約70%の企業が売上拡大に取り組む上での最大の課題は、人材の不足と回答しています。順調に経済が成長すれば、今後、人手不足はさらに深刻化するでしょう。

六重苦のうち五重苦について解消される道筋が見えてきたと述べましたが、人手不足という課題が新たに出現したということだと思います。

このため、女性や高齢者の労働参加率を高める社会保障制度や労働法制の整備、さらには外国人の一層の活用を図るとともに、根本的な対策としては、人口減少のトレンドを変えることが必要です。晩婚化、晩産化への対応、結婚・妊娠・出産から子育てに関わる利用しやすく切れ目のない行政サービス、男性の働き方改革など一体的に取り組む必要がありますし、そのために、高齢者に偏っていた社会保障費を少子化対策に大きく振り向けるなど、さまざまな対策を今すぐに実行しなければなりません。

また、これらに加え、イノベーションの実現による生産性の向上が必要であります。規制改革や経済連携の推進、教育の充実など政府が汗をかかなければならない課題ももちろんありますが、民間企業一社一社が、自らの生き残りのために、社内教育、ロボット化、ITC化、技術開発、企業合併などを通じて、より付加価値の高い製品やサービスの創出に全力を挙げて取り組む必要があります。

地域ごとに必要な1800の処方箋

一方、地方創生は大変困難な課題です。しかし何とか解決しなければなりません。

解決に当たっては、次の3点、すなわち、地方創生と少子化対策は密接に関連していること、いずれも長い時間をかけてこれだけ深刻な状況に立ち至ったことから、早期の成果を求めず、一貫した政策をもってじっくり粘り強く、時間をかけて取り組む覚悟が必要であること、ただし、2020年までには目に見える成果を挙げる必要があること、と同時に、大胆な視点をもって、希望をもって直ちにありとあらゆる総合的な対策に着手すべきこと、以上の視点が重要です。

1800の市町村には1800の処方箋が必要となるはずで、国が一律に政策を提示して地方創生を実現できるものではありません。地方創生は、その地方の人々が自ら知恵を絞り、解決策を生み出す、すなわち当該地方の危機意識、主体性、創意と熱意なくして成し得ないと思います。

昨年末、「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン・総合戦略」が公表され、同ビジョンに基づき、来年度、各自治体は、「地方版総合戦略」の策定に取り掛かることが努力義務として与えられました。

地方自治体が自らのイニシアチブで計画を策定することになりますが、商工会議所も積極的にその作成に協力すべきであります。すでに京都商工会議所の「京都ビジョン2040」のように、商工会議所が中核となり、地域の関係者が将来ビジョンを共有する取り組みが各地で行われており、それを広げていくことが重要であります。

また、地方創生の切り札として、観光の推進や農商工連携が考えられます。これらは、商工会議所がこれまで重点を置いて活動してきたテーマでありますが、この努力を一層加速させることが不可欠であると思います。さらに、少子化への対応や若者・女性の活躍を支援するために、婚活事業や大学との連携による就職支援なども、これまで以上に積極的に取り組んでいくことが必要であります。

ぜひとも、商工会議所がリーダーシップを発揮して、地域の多様な主体、さらには他の地域ともこれまで以上に連携を深め、創意工夫によって、地方創生に取り組んでいただきたいと思います。

日本商工会議所としても、都道府県商工会議所連合会の機能強化をはじめ、多様な主体による連携の枠組み整備に積極的に取り組んでまいります。

危機感の強さが前に進む力を生む

大事なことは、われわれには時間の猶予がないということです。人口急減のトレンドを変えることも生産性の向上を実現することも、地方を創生することも、今からジャンプスタートしないと悲劇的な未来が現実化します。

一方で、あらゆる関係者が危機感と時間軸をもって、総力を結集して取り組めば、必ず明るい未来を築くことはできるはずです。未来は選ぶことができるのであります。

危機感は悲観論とは異なります。悲観論からは、諦めしか生まれませんが、危機感の強さは、課題の困難さを直視しつつも、前に進むエネルギーを生み出します。今こそ、明るい未来に向け、商工会議所125万会員の総力をあげて、前に踏み出すときなのです。

最後に、東日本大震災からの復興と福島再生について申し述べます。復興と福島再生については、被災地の商工会議所から直接、現状や課題を伺い、要望を取りまとめ、今月6日に、竹下復興大臣にその実現を強く働きかけたところです。土地区画整理事業に伴う事業所の再移転、建設・運輸関連の人手不足など、復興段階により変化する実情を踏まえ、引き続き強力な働き掛けを行ってまいります。また、全国の商工会議所のご協力のもと、商談会の開催支援などによる販路開拓の後押しや、遊休機械無償マッチングなどの取り組みを継続し、遅れている復興の加速化を図ってまいります。

以上、新年度を迎えるに当たり、所信の一端を申し述べました。

現下のわが国が抱える大きな課題に関し、われわれ商工会議所は、具体的な提案と行動によって解決していかなければなりません。

間もなくスタートする平成27年度においても、私は率先して、皆さまと力を合わせ、頑張ってまいります。多大なるご支援、ご協力をお願いして、私のあいさつといたします。