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特集 2015年版中小企業白書(概要) 全国に広がる人材不足 苦戦続く新市場開拓

イノベーションのプロセス別に見た課題

政府はこのほど、2015年版中小企業白書を閣議決定した。白書では、中小企業・小規模事業者の「イノベーション・販路開拓」「人材の確保・育成」、地域活性化などの詳細な分析結果を豊富な事例とともに提示。特集では、その概要を紹介する。

第1部 2014年度の中小企業・小規模事業者の動向

○わが国の景気は、個人消費などの内需が主導する形で回復してきたが、2014年4―6月期以降は消費税率引き上げの影響もあり個人消費に弱さが見られ、GDP成長率は4―6月期、7―9月期の2期連続でマイナスとなった。その後、輸出の伸びや個人消費の持ち直しから10―12月期にはプラスに転じた。

○中小企業の景況は13年1―3月期以降、着実に改善を続けてきたが、14年4―6月期に悪化。その後は横ばいの時期もあったが、足下では、持ち直しの動きも見られる。

○13年以降、円安方向への動きを背景に国内石油製品価格は上昇。これに伴い中小企業・小規模事業者の原材料・仕入単価は上昇し、この間、売上単価・客単価も緩やかに上昇していたものの、原材料・仕入単価の上昇が利益を下押し。

○14年秋以降は、原油価格の下落に伴い、国内石油製品価格も下落。他方、中小企業・小規模事業者の採算は依然として厳しい状況であり、仕入単価の上昇を販売価格に転嫁できるよう、引じていくことが重要。

○従来、大企業と中小企業・小規模事業者との間に存在した相互依存関係のもと、受託加工を事業の中心にしてきた中小企業・小規模事業者は、大企業が市場から獲得してきた需要の恩恵を享受。

○しかし、グローバル化の進展などを背景に、大企業と中小企業・小規模事業者との間の相互依存関係は希薄化。これにより、中小企業・小規模事業者は自ら市場と向き合い、需要を獲得する必要に迫られている。

○大企業と中小企業・小規模事業者の長期的な成長パターンを見てみると、1980年代はともに成長していたが、90年代に変化が生じ、2000年代に入り両者は再び成長している。しかしながら、同じ規模の企業同士の間で収益力に差が出てくるなど、状況の変化が見られる。

○同じ規模の企業同士の収益力の差は、趨勢的に拡大。とりわけ小規模企業同士で差が開いており、低収益企業の収益力が低下する一方で、高収益の小規模企業の収益率は、大企業をも凌いでいる。 ※同一規模内の売上高経常利益率が上位25%の企業を高収益企業、下位25%の企業を低収益企業と定義。

○収益力向上に向けた課題について、高収益企業、低収益企業ともに「新規顧客・販売先の開拓」に強い意識を持つ一方、高収益企業は低収益企業と比べ、「優秀な人材の確保、人材育成」、「技術開発の拡大」を強く意識。

第2部 中小企業・小規模事業者のさらなる飛躍

イノベーション

○イノベーション活動は、比較的規模が大きく、広域に事業を行う者の取り組みという印象が一般的には強い。

○中小企業を、地域需要志向型、広域需要志向型の別にイノベーション実現に向けた活動状況を見てみると、広域型企業の方が積極的に取り組んでいる。※今後最も力を入れたい市場を同一市町村、同一都道府県とする企業を地域需要志向型とし、全国、海外とする企業を広域需要志向型とする。

〇具体的な取り組み内容を規模別に見てみると、中規模企業は小規模企業と比較して、「部署を越えた協働」や「中途採用による新しい空気の取り込み」など、組織や人材を活性化させる取り組みが活発に行われている。

〇また、需要志向別に見ると、広域で事業を営んでいる企業ほど、市場での差別化をするための研究・開発、社外との協働が増えるような取り組みなど、社外を意識した取り組みを活発に行っている様子がうかがわれる。

○地域需要志向型であっても、イノベーションの実現に向けた活動に取り組んでいる企業は、取り組んでいない企業に比べて利益を伸ばしている傾向にある。地域需要を志向する企業も、イノベーション活動に取り組み、生産性を向上させ、収益力を高めることに、積極的に取り組んでいくべきと考えられる。

○イノベーションに取り組む際の課題を見てみると、「取り組みの必要性の見極めが難しい」、「事業化の時期の見極めが難しい」など、必要性やタイミングの見極めを課題としている者が多いが、規模別に見てみると、中規模企業は「人材」に関する課題、小規模事業者は「資金」に関する課題を挙げる者が多い。

○イノベーション活動に取り組む上で、企業間の連携が重要。

〇企業連携による事業を成功させるには、中核となる機能の存在が重要。単なる水平の連携ではなく、中核となる企業や事務局があることで、全体を調整する役割を果たし、川下企業からの受注を獲得しやすい状況が生まれていると考えられる。

販路開拓

○中小企業・小規模事業者の販路開拓の取り組み状況を「既存市場」と「新規市場」に分けて見ると、製造業と卸売業は、新規市場の販路開拓に取り組んでいる企業の割合が他業種に比べて高い。他方で、「販路開拓の取り組みなし」という者が2~4割超存在する。

○市場の把握状況別に、売上目標を達成した企業の割合を見ると、新規市場は既存市場と比較して、総じて売上目標の達成状況は低く、中小企業・小規模事業者における新規市場開拓の難しさをうかがわせる。

〇他方で、市場のニーズ、商圏、市場の規模を把握していると回答した者は、把握していないと回答した者に比べて、目標の達成度合いが高い。

○売上目標を達成することができなかった企業が抱える、新規市場開拓時の課題を見ると、「人材」に関する課題が最も多く、次いで、情報収集・分析などの「マーケティング」に関する課題が多くなっている。

○人材が不足している企業の半数以上で、外部人材の獲得が実現できていない。実現できていない理由として、「コストに見合う効果が期待できない」を挙げる者が多い。

○また、今後の市場開拓に向けたマーケティングに関する意識を見てみると、6割超の企業で市場調査の意思がある。さらに、開拓市場を「既存市場」、「新規市場」に分けると、新規市場開拓の方が市場調査を行う意思が強くなっている。

○これからは「よいもの」をつくるという発想から「売れるもの」をつくるという発想への転換が必要。市場のニーズを取り入れたり、デザインを活用するなど、ブランドを構築することで、新たな販路開拓の可能性が広がる。

○国内市場のみならず、成長する海外市場を取り込んでいくことも地域の中小企業にとっては重要である。販路開拓に当たっては、海外での展示会に出展していくほか、直接海外の消費者にインターネット販売を行う方法もある。

人材

〇中小企業・小規模事業者の従業員の不足感は、全国的に高まっている。

○アンケート調査でも、人材の確保状況について、「十分確保できている」や「十分ではないが確保できている」と回答した者の割合は5割に満たず、中小企業・小規模事業者は人材を十分確保できていない状況。人材が「確保できていない」理由を見ると、「人材の応募がないため」が6割弱を占める一方で、「人材の応募はあるが、よい人材がいないため」という回答も4割存在し、質・量両面での「人材不足」に直面していることがうかがわれる。

○中小企業・小規模事業者において、経営の中核となる人材の不足感が強い。先に取り上げた販路開拓(営業)のための人材にとどまらず、研究開発・製造、IT関連、経営など、多岐にわたる中核人材の不足感も強い。

○中小企業における中途人材の採用手段としては「ハローワーク」や「知人・友人の紹介」が多く利用されている。採用実現率(採用実績/利用実績)を見ると、「知人・友人の紹介」や「取引先・銀行の紹介」で高くなっている一方、「自社ホームページ」が最も低く、中小企業の人材採用における顔が見える採用手段の重要性が確認できる。他方で、さまざまな採用手段による採用実現率を高めることにより、中小企業の人材確保の方策を多様化していくことも必要と考えられる。

○また、中核人材の採用を見てみると、利用実績、採用実現率ともに中途採用と似た結果となった。中小企業の「中核人材」の採用手段や供給源は、極めて限られていることがうかがわれる。

○中小企業・小規模事業者における就業者の離職率(3年目)は、中途採用においては約3割、新卒採用においては約4割となっている。特に、小規模事業者においては、新卒採用の過半数が3年以内に離職しており、会社の将来を担う人材の育成の前提として、採用した社員の定着率を高める必要がある。

○経営の中核となる人材の育成の面でも、中小企業・小規模事業者はさまざまな課題を抱えており、とりわけ「指導・育成を行う能力がある人材の不足」が顕著となっている。

○しかしながら、中小企業・小規模事業者における人材の定着や育成に関しては、限られた経営資源の中で行う個社単位の取り組みには限界がある。こうした中で、地域を挙げた人材の定着・育成を行う取り組み事例も見られる。

第3部 「地域」を考える~自らの変化と特性に向き合う~

産業構造の変化

○1986年時点では、北海道を除く全国の多くの市町村において、雇用を担う中心産業(各市町村で最も従業者数が多い業種)は製造業。

○2012年時点では、製造業の従業者数の減少やサービス業・医療福祉の増加など、地域ごとに異なる社会構造変化により、地域の雇用を支える産業の多様化が進行。

地域活性化への具体的取り組み

〇特定の産業による地域経済の牽引力が低下する中、他地域との比較優位を生む可能性を秘めた地域固有の資源(地域資源)に注目していくことが必要。

〇地域には、いまだに利活用されていない資源が眠っていると考えられる。しかしながら、そうした資源を活用し、高付加価値の商品・サービスに磨き上げたり、その売り込み(販路開拓)が課題であると考えている地域も多い。他方で、そうした課題を乗り越え、地域資源の活用による地域活性化に成功している地域も存在する。

〇地域では、人口減少や少子高齢化といった地域課題が多様化・深刻化。しかしながら、地域に根ざした事業活動を行う中小企業・小規模事業者の事業による地域課題の解決は、地域住民の生活環境などの向上のみならず、新たな雇用や人材育成など地域経済活性化にも好影響を与えている。

〇企業のみならず、NPO法人や地域住民といった多様な主体が、こうした地域課題解決の新たな担い手として地域での活躍の場を広げ、経済面(雇用など)でも地域に好影響を与えている例もある。

地域特性の把握に向けた取り組み

〇経済産業省では、2015年度「地域経済分析システム」の開発を進めてきており、15年4月から供用を開始。このシステムは、公的統計や民間企業が保有する各種データ(企業間の取引データや携帯位置情報など)を活用して、地域経済における産業構造やヒト・モノの流れを、面的(空間的)かつ時系列に把握することを目的とするもの。

〇面的かつ時系列にデータを可視化することで、地域がどのように見えてくるのか、システムの実際の出力画面を用いながら検証する。

〇「地域経済分析システム」は、①産業マップ、②人口マップ、③ 観光マップ、④自治体比較マップの四つのマップから構成されている。これらのデータを組み合わせて見ていくことで、今後産業政策にとどまらず、都道府県および市町村による「地方版総合戦略」の策定の場面での活用も期待される。