静岡県浜松市でオリジナルスイーツの製造・販売を手掛けているコルネット。同社が平成18年に発売した〝揚げパン〟と〝ソフトクリーム〟を組み合わせた「アイスコルネット」が徐々に注目を集め、今では年間30万個を出荷する人気商品に成長した。一見、単純な商品のようだが、2つの素材を最高の状態でマッチングさせるまでには試行錯誤の日々があった。
息子のための手づくりおやつがヒントに
「当時、中学生だった息子がよく食べる子で、おやつを買い置きしてもすぐになくなってしまう。これでは食費がいくらあっても足りないと、サンドイッチをつくった際に残った食パンの耳を油で揚げ、砂糖をまぶしておやつ代わりにしていました」
コルネット社長の向井紫さんは、「アイスコルネット」誕生のきっかけを楽しそうに振り返った。
アイスコルネットとは、油で揚げた穴開きのコルネパンに、冷たいソフトクリームを入れたもの。ソフトクリームのコーンをコルネパンに替えただけのようにも見えるが、この商品の主役はソフトクリームではない。2つの素材が合体することで絶妙な味わいを醸し出す、新食感スイーツなのだ。とはいえ、なぜ揚げパンだったのかといえば、冒頭のエピソードの通り。一人息子が中学生のときに向井さんは離婚し、シングルマザーとなって仕事と子育てに明け暮れていた。決して楽ではない生活の中で、食べ盛りの息子のためにボリューム優先でつくっていたのが、食パンの耳を揚げたおやつだった。
意外にも、これが大好評。「次は砂糖をまぶさなくていいから」と言われ、今度は揚げただけのパンの耳を用意した。すると、息子が自ら工夫して、ケチャップ、お好み焼きソース、マヨネーズ、マスタード……と、冷蔵庫にある調味料を順番につけ、食べ比べを始めたのだ。そしてある日、たまたま買い置きのあったバニラアイスクリームをつけて食べたところ、「これが一番合う」と大絶賛。それならと、中学校の友達を集めて試食会をしてみたら、全員が同じ意見だった。
「息子が高校生になれば学費もかかります。もう少し生活を楽にするためにも、何か商売をしたいと考えていたので、これを商品化したら意外にいけるかも……と思いました。素人なので難しいことは考えず、とにかく商品をつくってみることにしたのです」
周囲の助けを借りながら発売まで試行錯誤
パンの耳に代わるものを探していた向井さんは、ふと、子どものころによく食べたコルネパンを思い出す。中に何かを入れるのに適しているし、形そのものがかわいらしい。ところが当時、コルネパンは市場にほとんど出回っていなかった。
「電話帳で市内のパン屋さんに片っ端から問い合わせてみましたが、どこも扱っていませんでした。途方に暮れていると、あるパン屋さんが『つくってもいいよ』と言ってくれたんです。その言葉に甘えて、型づくりからお願いしました」
こうしてパンづくりが始まったが、最初はなかなか思うようにいかなかった。
「一度冷凍したものを店頭で仕上げるため、油で揚げたときに最高の状態になるパンを求めていました。極端に言えば、焼き上がった段階ではおいしくなくてもいいんです。でも、パン屋さんはプロですから、どうしてもおいしいパンをつくろうとしてしまう。そのあたりのイメージを伝えるのが難しかったですね」と向井さんは苦笑する。
昼間の仕事の傍ら、試作を重ねる日々が1年近く続いたころ、ようやく思い描いていたパンが完成する。15秒間油で揚げ、中にソフトクリームを入れてみたところ、外はアツアツ、中はひんやり。溶けたソフトクリームをパンの内側が吸い込んで、しっとりとした舌触りのスイーツが出来上がった。
試作と並行して、売り方も模索していた向井さん。どこで売ればいいのか。どんな売り方なら買ってもらえるだろうか――。主婦の感覚でさまざまなシチュエーションを想像し、人の集まる場所に移動販売車で売りに行く方法を思い付く。
「それからも、移動販売車の入手方法や、材料の仕入れ先など、考えることは山ほどありました。そこで地元の商工会議所に相談したり、知り合いに情報をもらったり……。たくさんの人に助けてもらいながら、準備を進めました」
平成18年6月。こうしてアイスコルネットは、夏のシーズンを前に発売にこぎつけた。
ブログで火がつき売上急増
当初の売れ行きは芳しいものではなかったが、半年を過ぎたころ、ある変化に気付く。移動販売車を携帯電話で撮影する人をひんぱんに見掛けるようになったのだ。
「ある日、息子が店に慌てて飛び込んできたんです。『アイスコルネットがブログで紹介されているよ』って。当時は、ブログ利用者が急速に増えていた時期だったので、見知らぬ人があちこちで取り上げてくれていたんです。そこから徐々に口コミが広がり、地元の新聞やテレビが取り上げてくれたことも追い風となって、売上も順調に伸びていきました」
その後、ホームセンターやショッピングモールなど、集客力の高い場所での販売が次々と実現し、売れ行きはさらに加速。事業が軌道に乗ってきたのを機に全国展開にも乗り出し、現在、関東から九州までの広範囲にわたり、8つの店舗、17の移動販売車とフランチャイズ契約するまでになった。
目新しい食べ物というのは、一度はブームになってもすぐに飽きられ、知らぬ間に消えていくケースも少なくない。そうした中、発売から8年が過ぎた同商品が、いまだ変わらぬ人気を維持しているのはなぜなのか。味のよさはもちろんだが、向井さんがもともと普通の主婦だったことも、理由の一つにあるだろう。素人ゆえにいろいろなプロに相談し、教えられたことを素直に受け入れ、忠実に実践してきたことが奏功したのではないか。
「今まで力を貸してくださった人たちへ恩返しするつもりで、毎日がんばっています」と明るく語る向井さんには、たくさんのサポーターがついているようだ。
現在、成長した息子は副社長を務め、海外展開に力を入れている。すでにマレーシアに出店を果たしており、売れ行きも上々だという。アイスコルネットを乗せた移動販売車がどこまで走っていくのか、今後も見守っていきたい。
会社データ
社名:株式会社コルネット
住所:静岡県浜松市中区助信町19-19
代表者:向井紫 代表取締役
創業:平成19年
資本金:1600万円
従業員:5人
※月刊石垣2014年9月号に掲載された記事です。
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