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こうしてヒット商品は生まれた! ゆびさきトング

自分の指の延長のような感覚で使えることを目指して開発されたトング。単純な形に見えるが、柔らかいバネ性が半永久的に続く特許技術が使われている。 1個1300円(税別)

全国有数の金物業のまち・新潟県三条市で、住宅設備、収納家具、家庭雑貨などの企画・開発を手掛けるオークス。同社が平成24年に発売したキッチン用品「ゆびさきトング」が好調な売れ行きを続け、累計販売数約63万個という堂々のヒット商品に成長した。一般的なトングをミニサイズにしたようなこの商品、一体どこがユーザーの心を捉えたのか。

女性ならではの視点が新商品開発のヒントに

日頃、台所仕事をしていないと、この商品の用途は想像しにくいかもしれない。トングとは食品を挟んでつかむための道具で、長さは20~30㎝が一般的である。一方、同商品は約15㎝と短いが、手に持ったときに親指と人差し指の先端が、トングの先端と同じ方向を向き、自分の指のような感覚で食品を挟んだり、つかんだり、押さえたりできるのが大きな特徴だ。

開発に当たったのは、オークス商品企画課リーダーの石綿紀子さんを中心とする女性だけの商品開発チーム「レイエ」だ。平成22年に、女性の目線や生活感覚を生かした商品開発を目指して立ち上げたチームで、「レイエ」はレディの頭文字の「L」と目の「eye」を合体させた造語だ。同商品のアイデアを思い付いたきっかけを、石綿さんはこう振り返る。

「家で食事の支度をするたび、たった一回の料理でタオルがびしょびしょになることに、『なんで?』という思いがありました。薄切り肉を一枚一枚はがした指先とか、魚を切る際に魚を押さえた左手など、汚れるたびに手を洗うからそうなることにあらためて気付きました。それで、手を汚さずに料理ができる道具が欲しいと思ったのです」

地域の材料を使い、地域の工場に整作依頼

石綿さんは当初、シリコン製のミトン(親指だけが分かれていて、ほかの4本が1つにまとめられている手袋)のような形状を考えていたという。ところが試作してみると、思ったほど使い勝手がよくなかったため、地場産業の利を生かす意味もあって、ステンレス製のトングに変更した。

「市販のステンレス板を買ってきて、実際に模型をつくってみました。最初はミトンのように幅の広いものを考えていましたが、それだと硬くて挟みにくいので、徐々に細くしていき、最終的に現在の形に落ち着きました」

石綿さんがそのアイデアを社内に提案すると、主に男性社員から「手を汚さないためだけにトングを買う人がいるのか?」という疑問の声が上がる。しかし、女性社員に「こんなものがあったら欲しい?」と聞いて回ったところ、手が汚れないだけでなく、ネイルを気にせず料理ができるという点でも大きな支持を得て商品化が決まり、23年11月に開発がスタートした。

以降も、「女性の手にフィットするサイズ」「自分の指のように使える形状」「バネの柔らかさ」などを求めて、何十パターンも模型をつくり直した。ようやく納得のいく形状を見出し、次に製作を請け負ってくれる工場を探した。

数あるステンレス加工メーカーの中から選んだのは、トングの曲がる部分(バネ)に特許を持つ会社だ。単に曲げただけでは硬くすぐにへたってしまうが、その会社の技術を使えば、柔らかいバネ性が半永久的に持続するのでこのトングの用途に最適だと考えたのだ。しかし、製造依頼をしたところ、難色を示される。

「通常のトングは真っすぐなので、1枚のステンレス板から効率よく切り出せます。でも私たちのデザインしたトングは、カーブが多く複雑な形状をしているため、どうしてもロスが多くなる。『この形でなければダメなのか』とずいぶん嫌がられました。台所仕事の手間と商品の必要性を説明し、粘り強く交渉を重ねて、半信半疑ながらもOKを取り付けました」

こうして製品は完成し、24年8月に発売、瞬く間に売れ行きを伸ばす。その反響に同社の男性社員や加工メーカーは、ようやく商品の必要性を認識したという。一時は生産が追いつかず、品薄状態に陥ったこともあったが、増産態勢を整えたあとはコンスタントに売れ続け、累計販売数約63万個という数字をたたき出した。

「二番煎じ」ではなく独自の商品にこだわっていく

同社では商品を発売する際、各メディアにリリースを送る以外は、とくに宣伝広告を打っていないそうだ。それでも〝ほかにはない〟商品だけに、新聞や雑誌、テレビにこぞって取り上げられ購買につながっている。同商品の場合、女性目線に立った商品企画と技術力を「女子力×燕三条職人」というコピーでアピールし、ユーザーの心をしっかりつかんだ。

「キッチン用品については、主に台所に立っている女性の方が不便や不満を抱きやすく、アイデアも湧きやすいといえるでしょう。でも当社の場合、『こんなものがあったらいいな』という思い付きだけでは、商品企画は通りません。『ほかにはないものか』『女性の共感を得られるか』『ちょっとした感動を与えられるか』などが問われます。市場にすでにある売れ筋商品をまねるのはもちろん、それをヒントに発展させた商品を提案しても却下されてしまう。ですから、当社が出す新商品の数は他社ほど多くないかもしれませんが、その分どれも自信作です。レイエの商品で廃番になったものはなく、ほとんどがロングセラーになっています」

現在同社では、男女を問わず商品企画力を高めるさまざまな取り組みを定期的に行っている。いろいろな人に生活上の不便をたずねる「聞活(ききかつ)」、近くの主婦を対象に行う「グループインタビュー」、集中的にアイデアを出し、手近な素材でモデルと企画提案書までを一日で仕上げる「アイデアソン」などがそうだ。その結果、男性社員が母親の行動を観察することで生まれた商品が発売され、大ヒット中のものもあるのだとか。日用品の分野においては、いかに生活全般に対するアンテナ精度を高めるかがヒットの基本だと、あらためて教えられた気がした。

会社データ

社名:オークス株式会社

住所:新潟県三条市島田2-8-3

電話:0256-35-1211

代表者:佐藤俊之 代表取締役

設立:昭和29年

従業員:53人

※月刊石垣2016年7月号に掲載された記事です。

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