佐賀県鳥栖市は、東南に平野が広がり南に九州の大河・筑後川がゆったりと流れ、福岡県との県境を成しています。地名は、奈良時代に書かれた「肥前風土記」に「鳥の栖(すみか)」と記載があり、のちに鳥栖になったと伝えられる、古くから発展した地域です。
当地は、江戸時代に対馬藩田代領として栄え、江戸中期より配置売薬の製造と行商が盛んになり、日本四大売薬の一つに数えられています。領内を長崎街道が通り、天領の日田や薩摩への道が分岐していた地域特性から、現在も高速道路やJRが分岐する九州の交通の結節点となっています。先般の熊本地震では、救援物資の備蓄基地として復興の一翼を担いました。
当社は、鳥栖市において弘化4年(1847)に配置売薬業者の「小松屋」として創業しました。明治36年(1903)に発売した「朝日万金膏®」は全国的商品となりましたが、薬剤の匂いや肌に残る黒い貼り跡が課題でした。その後、昭和9年(1934)にクレームをヒントに開発した商品が「サロンパス®」で、当社の代表商品となりました。宣伝のため当時の社長(中冨正義元会頭・父)が銭湯に出向いて、風呂あがりの方々へ貼って回るといったユニークな宣伝を展開しました。また父は多くのマラソン大会に参加し、選手はもちろん多くの観衆に宣伝を行ったことで「走る広告塔」の異名を取り、全国に「サロンパス®」の名前が広がりました。創意工夫を重ね新たな商品開発を行い、トップが率先垂範し営業活動を行うことで配置売薬から全世界へ展開する医薬品メーカーへと成長できました。
そんな父から受け継いだ言葉に~惻隠(そくいん)の情~があります。
「惻」とは、人に同情し、いつも心について離れない様子で、「隠」とは、相手の身に寄り添って深く心を痛めること。人が困っているのを見て、自分のことのように心を痛める、そんな心もちのことを「惻隠の情」というそうです。その昔、病気やけがのとき、人はまず患部に手を当ててきました。自らの患部に、家族のために「手を当てる」こと。込められているのは「思いやり」。これが久光製薬の原点です。
当社が設立した「中冨記念くすり博物館」所蔵の田代売薬関連資料、製薬・行商用具3181件が、平成28年4月28日、「佐賀県重要有形民俗文化財」に指定されました。地域の伝統産業を守り新たな革新に挑み、幅広い事業展開を進めてまいります
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