あの人を訪ねたい 竹内海南江

「目標なんて立てません。ただ流れに身を任せていたら、30年間も世界を旅しちゃったの」

『日立 世界ふしぎ発見!』(TBS系)のミステリーハンターとして知られる、竹内海南江さん。チャンネルを合わせればいつもそこにいる印象だが、それもそのはず出演回数は275回に上り(7月2日放送時点)、これは番組放送回数の5分の1に相当する。ミステリーハンター最多出演を記録する竹内さんの魅力に迫った。

前例がない気楽さから出演を引き受けた

土曜夜9時。おなじみのオープニングソングで幕を開ける『日立 世界ふしぎ発見!』は、今年放送30年、7月2日で1400回を迎えた。番組開始の翌年からミステリーハンター(取材レポーター)を務める竹内海南江さんは、いつも大らかで自然体に見える。オンとオフにどれほど差があるのだろうと疑いたくなるほど、ありのままの言葉と笑顔で、出演のきっかけから取材の苦労話まで話してくれた 。

「群馬から上京して、19歳でモデルデビューしました。当時は腰掛けといいますか、ほんの気軽な気分で3〜4年東京の空気を吸ったら地元に戻るつもりでした」

20歳を過ぎてテレビの仕事が入り始めたころ、たまたま「世界〜」の番組ディレクターの目に留まり、「良かったら出てみませんか?」と声を掛けられたという。「何も考えず」に二つ返事で快諾したことが出演のきっかけだから、運命とは分からないものだ。

初出演は、フランスのパリ万博だった。それから、あれよあれよとおおよそ30年が経った。もちろん本人もこんなに長く続けるとは夢にも思わなかったという。

「今でこそ『ミステリーハンター』という仕事に憧れる人が多くなり、英語を学んだり、オーディションを受けたりする若い子たちが増えましたけど、当時は何の手掛かりもありませんでした。私はどんな番組かも知らずに始めたんです。そもそも家にテレビがなかったから確かめようもなかったんです(笑)。何もかも手探りでしたし、前例がないので悩みようもない。私がやること一つひとつのことが事例になっていっただけなので、『こうしなくちゃ』みたいな気負いはありませんでした」

これまで訪れた国は100カ国以上に上る。国境を越えて長距離移動するだけでも大変なのに、レストランはおろか、トイレもない山岳地帯や砂漠といった秘境もあれば、誰も食べたことのないようなゲテモノを食べることもあった。心身がタフでないととても務まらない。その点、竹内さんはどちらも強靭(きょうじん)にできているらしい。

「これまで大きな怪我(けが)や病気をしたことがありません。体形も30年前とまったく変わらないんです。食べたいだけ食べて、飲みたいだけ飲む。この繰り返しですから。ミステリーハンターに必要な資質があるとすれば、元気なことかもしれませんね」

番組が始まって10年は、まだインターネットが普及していない時代だった。今のように容易に情報が得られず、現地で〝出たとこ勝負〟も少なくなかったという。どんな場面でも動じない竹内さんのコミュニケーション能力の高さは、「ない時代」を乗り越えたからこそ、培われたものなのかもしれない。

「現地の人と打ち解ける秘訣(ひけつ)? 分からない、あったら私が教えてほしいくらいです(笑)。その土地によって文化も違えば相手のキャラクターもさまざまですから、コミュニケーションに正解なんてないと思います。かえって、『笑顔を引き出そう』とか『良く思われたい』なんて他意があると距離ができてしまいます。だから、私はいつも〝空っぽ〟なんです」

〝かゆいところ〟に手が届くバッグをプロデュース

これまで、自分から「こんな仕事がしたい」と希望を言うことはなかったという。流れにあらがうことなく身を委ねた結果、仕事や人も含めていろんなご縁がやってきたそうだ。

竹内さんは、世界を旅する傍ら、小説、料理本、エッセイと数多くの書籍を出版し、写真の腕前も相当なものだ。そうした活動は、世界中の旅から得た経験を生かしたものばかりだ。

また、竹内さんは企業とのコラボレーションも積極的に行ってきた。「旅する女性を幸せに」をコンセプトに、大手かばんメーカーのエースと旅行用バッグを共同開発する「Kanana Project(カナナプロジェクト)」もその一つだ。

「長年、エースさんのリュックを使わせてもらっているヘビーユーザーだったので、お声掛けいただいたときはうれしかったです。このプロジェクトに携わらせていただき、かれこれ9年がたちます。お陰さまで評判も良く、おばさまたちにも愛用していただいているんです。だって、私は中高年の皆さまのアイドルですから(笑)」

商品化する以上、タレントの名前だけでは通用しない。旅に持って行きたくなるデザインだけでなく、安全性と快適さも保証できる商品にするため、積極的に意見を取り入れてもらった。

「軽さとか、通気性の良さだとか、こだわりたいところはたくさんあります。実は番組でもサンプルのリュックを背負っていることが多いんです。商品を買ってくださるお客さまの表情を思い浮かべながら実際に使ってみることで、改善点が見えてきます。自分の背中でマーケティングしているようなものなんですよ」

あれこれと多くを望まず、一つひとつ目の前の仕事と誠実に向き合う。これが竹内流の幸運を引き寄せる秘訣なのかもしれない。

20年前に沖縄で出会った もう一人の母の味を継承する

竹内さんは今年、『山本彩香から竹内海南江への琉球料理』というドキュメンタリー作品を自主制作した。沖縄に伝わる琉球料理の巨匠といわれている山本彩香さんが極めた達人の技を、アシスタントを務める竹内さんに伝承するという内容だ。

「このBlu-rayの目的は、『記録する』こと。今、ちゃんと映像に残しておかないと、彩香さんの手仕事を受け継ぐ人がいなくなってしまいますから……」

二人は、20年前に番組を通じて知り合った。最初は取材する側とされる側だったが、すぐに意気投合した。それ以来、竹内さんにとっては、沖縄の母という存在になった。愛情を込めて『おかーたま』と呼んでいる。今でも年に2度はプライベートで会いに行き、二人で買い出しに出掛け、山本さんがつくってくれた手料理を食べる。まさに母娘同然の付き合いをしているのだ。

作品では、かつて山本さんが那覇市で営んでいた『琉球料理乃山本彩香』で出していたコースメニューを一からつくる。前菜からメインディッシュまでを網羅しているため、誰でも気軽に琉球料理のいろはが学べる仕組みだ。映像にはBGMもなければ、ナレーションも一切ない。ただ流れるのは静かな換気扇の音だけ。山本さんは、『手加減・さじ加減』で味を決めていく。『ひとつまみ』の量を映像を見ながら想像する。このBlu-rayには、そんな楽しみ方もあるという。

「かつお節のだしは一番だしと二番だしの取り方から教えていただいています。あとは塩と泡盛と、香り付けでしょうゆを1〜2滴。琉球料理で使う調味料はシンプルですから、どなたでもすぐに、家庭料理に取り入れられるはずです」

テレビ出演、執筆活動、企業コラボ、文化継承など、竹内さんが関わる仕事は、どれも自然発生的なものばかりだ。あえて狙っていないからこそ、見る者の心にすっと届く。そんな魅力がある。

竹内さんに今後どこへ行くのかと尋ねると、「どんな目標も、長い人生の上では通過点です。だからあえてゴールを定めず、どこまで行けるのか楽しむのも悪くないと思います」と言う。「分からない、目標もない」といたってクールだ。

まだまだ、立ち止まるつもりはないようだ。

竹内 海南江(たけうち・かなえ)

タレント・リポーター

昭和39年群馬県出身。58年、19歳でモデルデビュー。60年、トーク番組『YOU』(NHK教育テレビ)の司会としてテレビでの活動をスタート。62年11月より『日立 世界ふしぎ発見!』(TBS系)のミステリーハンター(取材レポーター)を務め、出演回数は歴代最多。その豊富な旅経験を生かし、エース株式会社と「旅する女性を幸せに」をコンセプトに、バッグを共同開発。その他帽子のプロデュースをするなど企画力・提案力にも定評がある。著書に『おしりのしっぽ~旅する私のふしぎな生活』(集英社be文庫)、『アフリカの女』(幻冬舎)など

写真・矢口 和也

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